こぽこぽと途切れることなく湧き出る油の音を聞きながらD‐16は鼻歌でも歌いそうなほど心を躍らせ、戯れるように溢れるオイルを掬う。
黒い指先に絡んだ油はするりと指の間を通り抜け、また広い湯船に戻っていった。
ふふ、と白銀の唇を緩ませてD‐16は湯船に沈めた脚をゆらゆらと揺らす。
油面は動かした脚と同じように揺らめき、溢れたオイルはちゃぷちゃぷと音を立てながら流れていった。
「ディーは風呂が好きだね」
不意に後ろから声をかけられ、揺らめく湯船を眺めていたD‐16は飽きることなく湯面を見ていた黄色のアイカメラを上げると背後を振り返る。
「ふふ、こんな広いオイルバスなんて、入ったことなかったです」
嬉しそうに微笑むD‐16にオプティマスは悪戯っぽい笑みを浮かべると小さな唇を優しく突いた。
するとD‐16は小さく、あっと声を上げ少しばかり恥ずかしそうに目線を泳がせた。
<中略>
ああ……先日のディーは可愛かったな。
はあ、と溜め息を吐きながら目の前にある端末の画面を見るともなしにクスロールさせていく。
多忙なプライムにも休日というのは存在する。
その貴重な休みを使ってショッピングサイトを眺めながらオプティマスはそんなことを考えていた。
温まった油に包まれどこかとろみを帯びた空気の中で、いつもよりはしゃいだ様子のD‐16は動画と静止画の両方でメモリーしてある。
本当ならばもっとディーをあの場所へ連れて行きたい。端末を操作し、ページをスクロールさせ、オプティマスは思った。
けれども全てのセイバートロニアンを統括するプライムたる自分に、その時間がなかった。
そもそも、あのリゾートは惑星でも随一の人気スポットである。
プライムの権限を使えばいつでも貸し切りにできるとはいえ、その権力の使い方をきっとD‐16は喜ばないとオプティマスは知っていた。
もっとも、その生真面目な性格もオプティマスは好ましいと思っているのだが。
難しいものだな。
オプティマスはふっと苦笑を浮かべると、再度、流し見ていた端末の画面に視線を戻した。
どこかへ宿泊するには足りなくとも、家でゆっくりと睦み合う時間はある。
そのタイミングで、どうにかD‐16を喜ばせることができないだろうかと考えたオプティマスは目下、オンラインショッピングサイトを見ながらその〟D‐16を喜ばせることができそうなもの〝を探していた。
ディーはオイルバス自体、かなり気に入っている様子だったな。
メモリーバンクの最重要フォルダ、その中でも特別に厳重なプロテクトとバックアップがされている特定機密フォルダ――別称、可愛いディーフォルダを漁りながらオプティマスは端末をスクロールさせる。
ああ、これは一番初めにあの広いオイルバスに初めて入った時のディーだな。黄色い瞳が輝いて可愛らしい。
……と、これはつい先日の。
ふふっ、少し躊躇いながらパックス、と呼ばれてどうにかなってしまいそうだった。
オプティマスのブレインが目の前に置かれた端末からブレイン内部のディー可愛いフォルダに意識を向けかけたそのとき、視覚センサーがとある言葉を拾い上げた。
普段と違ったオイルバス! 入浴剤特集。
踊る広告バナーを瞬間的に捉え、オプティマスの意識が現実世界に戻った。
なるほど、入浴剤。
ブレイン内に展開していた画像を閉じ、プライムは仕事のその時のように姿勢を正し、端末へと向き直った。
なんだかとても、とても重要な情報を手にした気がする。
なんと幸いなことにオプティマスの家には広いオイルバスが設置されており、十分入浴剤を使うことができる。
広告バナーをクリックし、オプティマスは小さく青い目を見開いた。
「……これ、は」
ああ、きっとディーも喜ぶ。
とある入浴剤を眺めオプティマスは流れるようにそれをカートに入れると、すぐ買うボタンをタップする。
ふふ、私も風呂が楽しみになってきたよ、ディー。
ご購入ありがとうございました、と大きく表示された画面を眺めオプティマスは一人、小さく笑みを零した。
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