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ちよど
2025-11-01 23:50:00
4612文字
Public
カルヨダ
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ヨダナさんがカリになる話
ヨダナさんがカリになって、カルナさんと一緒にカリを助ける話。ちょっとカリさんのグロ描写あります。
ヨダナさん「カリを助ける者などおらんだろう? わし様を除いて」
──魔物を救う者などいない。
■
「来ないで!!」
悲鳴と共にドゥリーヨダナに桶の水が浴びせられた。
辺境の農家の前。ドゥリーヨダナは誓って何もしていない、ただ宿を乞うたカルナの背後から顔を出しただけだ。
悍ましい魔物、カリの姿で。
水に怯まないカリに農婦は空になった桶を投げつける。それを間に割って入ったカルナが受け止めた。
「愚かな行為だ」
生活必需品を損なう農婦の行動を咎めると、農婦は怯えた顔で後ずさった。
一抱えはあるが小柄なカリであるドゥリーヨダナが地面に凶悪な尻尾を叩きつける。その音に農婦は飛び上がり家の中へと駆け込んだ。
固く閉ざされた扉の前にカルナはそっと桶を置く。
「すまない。お前に寝床を用意してやりたかったのだが」
カルナの言葉にカリヨダナはギャルルルと笑い声を上げた。
何もかも別け隔てなく接するカルナのような人ばかりではないと。
■
そもそも発端は長閑な森が広がるレイシフト先で突然カリへと変貌したドゥリーヨダナだった。彼は優れた魔術師達がいるカルデアに連れ帰ろとしたマスター達の手から逃げ出し、どこかへ消えてしまったのだ。
「プライドが高いからあんな姿を誰にも見せたくないのかな?」
「あれにも考えがあるのだろう。オレが探す」
恋人のカルナだけならドゥリーヨダナも出てくるかもしれない。そう結論づけたマスター達はカルナを残して一旦カルデアに戻って行った。
幸いにしてカリヨダナはすぐに見つかった。短い六本足の生き物の歩いた跡は特徴的で後を追うには容易い。
見つけたカリヨダナは何かを吐き出していた。
慌てて駆け寄るカルナにカリヨダナは低木になっている果実を尻尾で叩いた。その果実がカリヨダナの吐き出したものを同じである事を確認して。カルナはため息をついた。
「それに毒はない。お前の味覚は狭量すぎる」
ギャオンと抗議するようにカリヨダナは鳴いた。
カリになってもドゥリーヨダナはドゥリーヨダナだった。
果実の好き嫌いから始まり、カルナの獲ってきた肉も火を通さないと口にしない。
かと言ってカルデアに戻りたがるようすも無く、真っ直ぐにどこかを目指していた。
だからカルナは合流してから数日、短い足で歩き通していたカリヨダナを納屋の隅でもいい、柔らかい寝床に寝かしてやりたかったのだ。
無理だったが。
農婦に拒絶されたカリヨダナをカルナは抱き上げた。
生前から凶兆の子、カリの化身と罵られることが多かった恋人だがそれに慣れることはあっても平気になることはない。それをスータの生まれだと生涯罵られ続けたカルナはよく知っていた。
抱き上げたカリは人間のドゥリーヨダナの体格とは異なりカルナが抱えたら尻尾の先が地面につく程の大きさだ。そのトゲの生えた尻尾がざりざりと地面を削る。
矢印。
「お前の足は飾りだったな」
カリヨダナはずっとどこかを目指していた。だが短い六本の足で進めた距離はたかが知れている。サーヴァントであるカルナが疾走すればその百倍は早く目的地にたどり着けるだろう。
カルナはカリヨダナを腕に抱いて矢印の方向へ疾走した。
長閑な農地を横断し、森を抜け、川を超え、荒れた山へとたどり着き。止まった。
濃厚な血の匂いだ。
落ち着き無くカリヨダナがごそごそと腕の中で動くのを強く抱きしめ直してカルナは、ゆっくりと山道を登る。
アルジュナオルタが治めていた特異点に似た赤い山肌。そこに半分ほど埋まっている巨岩を巡る。
グルルル。
まるで獣のようにカリヨダナが唸った。
そうだろう。カリの化身ならばこれを見て平静ではいられない。
そこには串刺しにされたカリが7匹、地面に突き立てられていた。
血の匂いはそれだけではない。串刺しにされたカリを囲むかのようにカリであっただろう屍が無数に散らばっている。
カルナは跳躍した。
その足元だった地面が抉られる。
「チッ」
見慣れない青年がカルナに槍を構える。
少し離れた場所に着地したカルナはカリヨダナを強く抱いた。
「あんた、それ魔物だぜ」
「当然の事だ」
魔物と呼ばれようとカリになったとしてもカルナにとってドゥリーヨダナはドゥリーヨダナだ。
「一応言うけどさ。そいつを置いていけばあんたを痛い目には合わせねぇぜ」
この特異点に召喚されたであろうサーヴァントがカルナに言う。
マスターが強化をサボっていたおかげでカルナのスキルは無冠の武芸のままだ。よって、青年の目にはカルナの実力は1段階低く見えている。
だが、カリヨダナを抱えていてはカルナは槍を構えることもままならない。
そんなカルナの腰が軽く叩かれる。器用にトゲのある所を外してカルナを叩いたのはカリヨダナだ。
「ふ、おまえらしい」
カリヨダナを地面に置いたカルナに青年は唇の端を釣り上げた。
──ギャウウ
力ない鳴き声はカリヨダナではない。視線を巡らせると串刺しにされた一匹が僅かに口を開閉させていた。
よくよく見れば串刺しにされた7匹のカリのどれも。体が動いている。
「──生きているのか。生きて、いるのか」
「殺しちまったら囮になんねぇだろ」
串刺しになったカリの周りに散らばっていた死体。それは仲間を助けに来たカリ達だった。
ばしん、ばしん、とカリヨダナが尻尾を地面に打ち付ける。その度に岩肌に積もった砂が舞う。苛立ちが滲むその動作にカルナは槍を構えた。
「理由を聞こう」
「あ? 魔物退治に意味なんてねぇだろ」
「そうか」
槍が弾かれる。一気に跳躍したカルナが青年の槍を払ったのだ。
だが青年もサーヴァント。すぐに槍を握り直し。振る。カルナの槍がそれを受け止めた。
カルナは交差する槍越しに青年の瞳を覗き込む。
嘘はない。
──生前。凶兆の子だからとドゥリーヨダナを殺そうとした者がいた。スータだからとカルナを殺そうとした者がいた。
この青年は彼らと同じ瞳をしている。
つまり、話し合いは不可能。
青年の瞳がカルナの背後に流される。
カルナは地面を蹴った。ドゥリーヨダナの前に立ち塞がる。
人の形をしていれば無類の戦士であるが、今のドゥリーヨダナは小柄なカリの姿。数多のカリを殺戮したであろう青年に抵抗できるとは思えなかった。
カリヨダナを背後に庇うカルナに青年が躍りかかる。
間断無く突き込まれる槍を防ぎながらカルナは眉を寄せた。
青年が槍を引き戻す一瞬、僅かなもたつきがある。
非効率なその動きは、青年が少なくとも歴史に研鑽された流派を学んでいないことを示していた。
だが、その技量は確かだ。
カリヨダナの前から動けないとはいえ、カルナと拮抗しているのだから。
カルナが防戦一方になるのを見上げ、カリヨダナは大きく口を開いた。
ギャオオオオオオン
遠吠えにも似た響きがあたりに広がる。青年が視線をカルナから外した。
岩の影からのそりと出てきたのは大柄なカリだった。山の上から降りて来たのは頭に傷があるカリだった。赤い山肌を登って来たカリは足を引きずっていた。どこからともなく現れたカリ達は十数匹。彼らは指示されたかのように青年を遠巻きに囲む。
「まだこんなに生き残りがいやがったのか!」
吐き捨てる青年をカルナの槍が引き止める。背後のカリヨダナだけでなく新しく現れたカリ達も守るなら。カルナひとりでは不利すぎた。
そんなカルナの背後でカリヨダナが尻尾を地面に打ち付ける。
青年の視線を引き寄せるだろうその動きにカルナはドゥリーヨダナが何かを企んでいる事を察した。
カリ達を呼びつけたのもその一環だろう。
そういえば、昔、出会った頃のドゥリーヨダナはカルナに言ったのだ。
──おまえのような一人で修行してきた奴は共通して弱点がある。
突然。カルナの胸を突き刺そうとした青年が動きを止めた。
明らかな隙にカルナは容赦なく槍を刺す。腕を掠める。地面に倒れ込むように避けた青年の顔は砂にまみれていた。
青年を囲むカリ達の1匹が尻尾で砂を飛ばしたのだ。
──その弱点とは、予測不能な出来事だ。
「てめぇ!」
カルナからカリに標的を変えた青年からカリが逃げ出す。距離を詰められれば他のカリと同じく槍の餌食になるだろう。だが。
また違う方向から砂を浴びせられ青年が顔を拭う。そこにカルナの槍が襲いかかった。
かろうじて、とは言えそれを避けた青年は名のある英雄なのだろう。
戦士として戦えたならカルナは礼儀を払い死力を尽くしただろう。
だが、これは戦いではない。
カリヨダナが尻尾で拍子を打つ、カリ達が青年に砂を浴びせかける。カルナの槍がその隙を穿つ。
距離を取ろうにも視界が塞がれた中、カルナの槍をなんとか避け続けていた青年だったが。その幸運は長くは続かない。その胸から赤い血が吹き出した。
致命傷にカルナは槍を手元に引き寄せる。
「宝具が無いのか?」
カルナが宝具を撃てばカリもろとも焼き尽くしてしまうが、青年はそんな心配はない。不利ならば宝具を撃てばよかったのだ。
「──あんなもの使えるかよ」
ゆっくりと青年の体が光の粒子に解けていく。
「──────────俺は魔物じゃない」
小さな呟きにカルナは目を閉じた。
ところで、そんな雰囲気を読まないのがドゥリーヨダナである。足に体当たりされてカルナは振り返った。
「抱けというのか」
頭を縦に振るカリヨダナを抱き上げると、カリヨダナはカルナの顔をじっと見上げる。
ワニのような口、ぬめぬめとした紫の皮膚。大きな牙。ぎょろりとした目玉。どれをとってもおぞましい姿がなにかをねだるように頭を小さく上下させた。それにカルナは少し考え込み。
その口の先端に唇を触れさせた。
ぽん、
軽い音とともに、カルナの腕の中にはドゥリーヨダナがいた。人間の。
「はぁぁあ、いくらわし様でも人間の方が楽だ」
ぼやきながらドゥリーヨダナはカルナから離れて、串刺しにされているカリから棒を抜いていく。その足元に集まったカリ達が降ろされた傷だらけのカリを舐めていた。
「おまらなぁ。こんな事になっているならちゃんと言え。のんびり散歩してしまったではないか」
「呼ばれたのか?」
大きなカリに擦り寄られて、ぬめぬめするー!! と先程までの自分を遠くに置いて騒いでいるドゥリーヨダナにカルナは問いかける。特大のため息が返ってきた。
「カリを助ける者などおらんだろう? わし様を除いて」
カルナは先程までカリを貫いていた棒を見た。体液に濡れたそれはいくらカリでも激痛だっただろう。
「お前は愚かだからな」
ドゥリーヨダナは呼ばれたと言うが、それを無視してカルデアに戻り解呪してもらう選択肢もあった。だというのに醜いカリの姿でここまで駆けつけたのだ。
魔物を助けるために。
──この男はいつもそうだ。助けがない者を救う。スータのカルナをクシャトリヤにした時のように。
「なぁに、ここで恩を売っておけば。後でカリの軍団を編成することも可能だろう? ふふふ、きっと強いぞ」
悪巧みするドゥリーヨダナにカルナは目を細めた。眩しくて。
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