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shizuku0797
2025-10-18 20:00:00
15231文字
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揺らめく炎に手を差し伸べて
ルフィ・サンジ
OPノンカプWebオンリー「新次海2025」開催にあたり、七月さんからいただいた相互リク。
「仲間を庇って人形状態になったコックを船長が助ける話」
サンジは理屈とかじゃなくて体が勝手に仲間を守るために自分が犠牲になると動くタイプだと思っています。
だからルフィ達が無茶するなと言っても彼はまたやってしまう。だからルフィはそんな彼の優しさを受け止める存在なんだと思います。
シリアスなバトル系です。ルフィがひたすら痛いです。(でも私基準の痛いはそんなに痛くないのです…?)
霧が、少しだけ深かった。
生きものの気配が感じられない静寂に包まれた島。
森が目の前にあるはずなのに薄っすらとしか確認できない。そんな鬱蒼と島にサニー号が上陸したのはつい先ほどのこと。
いつもならどんな島だろうがいの一番に飛び出すルフィが、今は船縁に齧りつきながら嘆いていた。
「いーいーなーおれも冒険してェーなー」
「まだダメよ。そういう約束でしょ。ゾロ達が戻ってくるまで待ちなさい」
いつまでも項垂れ続けているルフィに、ナミはついに我慢できず口を挟む。
先日立ち寄った島で、仲間たちの制止も聞かずに「冒険だ!」と意気込んで上陸してしまったルフィ。
しかしそこは海軍が仕切っている島で、あっけなくルフィは海軍に見つかり大騒動となってしまったため、記録が溜まり次第麦わらの一味は慌てて出航。
十分に補給もできなかったので騒動を起こした罰として、ルフィに次の島ではすぐに上陸しない命令が下されていた。
早く冒険したいとうずうずとしているルフィを宥めるためにと、船番に残ったのはナミ、ウソップ、サンジ、ジンベエの4人。
残りのメンバーが偵察も兼ねて先に上陸し、物資の補給などを行うこととなった。
「でも別に無人島っぽいけどなー」
「こうも霧が深いとよくわからないのよね
…
」
「さっき上陸する前に、古い灯台があるのは見えたがのう」
サニー号内は見渡せるものの、霧が発生しているせいで島の全体の様子はよくわからない。
人の気配は感じないから恐らく無人島なのか?はたまた灯台があったのなら民家は少しあるのか?その判別はまだつかない。
「じゃあもう行っていいか!?」
「だからダメって言ってるでしょ!」
「そしたらゾロ達が帰ってくるまで釣りでもしてるか?」
どうにもこうにも我慢できないルフィの気を少しでも紛らわせるために、ウソップはひとつ提案をする。ちょうど今釣り竿の改良が済んだばかり。
その提案にルフィは前のめりで「する!」と大きく飛び跳ねた。その勢いで彼は鼻に違和感を覚えて「ん?」少し首をひねるのだが、すぐに気にせずウソップの方へと駆け寄った。
「そしたらわしはサンジの手伝いでもするかのう」
ルフィの宥め役をウソップが買って出たことで手が空いたジンベエは、キッチンで昼食の準備をしているサンジの所へ行こうと階段を登る。
――
しかし、ジンベエの膝が、がくりと階段に落ちた。
「うっ
…
!?」
どうしてそうなってしまったのかわからず、ジンベエは胸に手を当てながら呼吸を整える。
しかし、呼吸を整えようとすればするほど息は乱れていき、心臓の鼓動もより早くなる。
血が沸騰したかのように熱くなり、体が急激に重くなって思考が鈍り始める。
まるで高熱を発したときの症状と似ていた。
「ジンベエ?」
仲間の異変に気付いたルフィ達は慌てて立ち上がり、ジンベエに駆け寄ろうとする。
その瞬間、3人にも同様の異変が起きてしまい、その場に倒れこんだ。
「ハァ
…
ハァ
…
な、に
…
これ
…
?」
「体が、熱ィ
…
」
「ゔっ
……
くそっ
…
」
ナミとウソップは胸に手を当てながら悶え苦しむ。なんとか体を動かそうとするが、まったく体がいうことを聞かない。
ルフィはそれでも気合いで立ち上がり、ふらついた足をなんとか踏ん張り、肩で息をしながら霞む視界の中で叫んだ。
「誰だ!!そこにいんのは!!」
ルフィは瞳をギラリと光らせ、俯いたままその先を睨む。
すると、サニー号の船首の方からカツンカツンと大袈裟に足音を鳴らしながら人影がゆらめいた。
姿を現したのは、ガスマスクをつけた白衣姿の白髪の男
――
。
「やはり四皇ともなると、これくらいのウイルスでも立ち上がれるんですね」
マスクで声をくぐもらせながらそう言う男は、興味深いと言いながら手に持っていたバインダーを構えて筆を走らせる。
ルフィに男の声が届いたかはわからない。
それでも彼は肩で息をしながら、段々と重たくなっていく体を無理矢理動かして腕を構えた。
「ゴムゴムのォ
…
!」
「おっと」
そうはさせまいと、男は腰に差していた銃口が広い小型の銃を構えるとルフィの足下に目掛けて放った。
放った瞬間に弾が破裂して、彼のまわりにたくさんの粒子が飛びる。
「うわっ!なんだこれ!」
「特別サービスで高熱ウイルスを増量させときました。このくらいないとあなたは効かないのでしょう?」
それとももっと必要ですか?なんて嘲笑気味に言ってみせるが、ルフィにその声は届かず、堪らず膝をついてしまう。
「ああっ
…
!」
男が言う「高熱ウイルス」は、潮風に乗って後ろにいたナミ達にも影響をもたらした。
先ほどから苦しんでいた彼女たちにこのウイルスは追い打ちをかけたようで、一人、また一人と意識を手放してしまう。
「ナミ
…
!ウソップ
…
!ジンベエ
…
!!」
ルフィは後ろにいる仲間たちの名前を叫ぶのだが、叫ぶたびに自身の頭もぐわんとまわり、ついには両手も甲板についてしまう。
白衣の男はさらに歩を進め、芝生甲板に降り立った。
「
――
さて、私が欲しいのは、あなたです。麦わらのルフィ。私の実験体になりなさい」
「な
…
んだ、と
…
」
ルフィは段々と口も回らなくなってきた。
それでも意識は手放すものかと、霞む目を必死に凝らしながら男を睨みつける。
しかし睨みつけることしかできず、体は怠く、指先ひとつも動かせない。
そんな四皇の姿をみた白衣姿の男は、満足そうにマスクの奥の瞳を緩ませる。
そしてゆっくりとルフィに手を伸ばす
――
。
「首肉シュートッ!!」
ルフィに触れるその寸前。
炎を纏った脚が、男のガスマスクを掠めた。
驚いた男はルフィから距離を取って大きく後退する。
すとんとルフィの前に立った影。
サンジだ。
青い炎をその脚に宿し、額に青筋を浮かべて怒りを露わにしていた。
「てめェ、土足で入ってくるとはいい度胸じゃねェか
…
!」
「サ、ンジ
…
!」
「ほう?あなたが
…
」
ルフィは駆けつけた仲間に少し顔を明るくさせて名前を呼ぶ。
その名を聞いて、白衣姿の男はピクリと片目をあげると、まるで品定めをするようにサンジを見て、持っていたバインダーを構えて再び筆を走らせた。
「ナミさん達に何をした!!」
サンジはそんな男のことなどお構いなしに正面から突っ込み、脚を振り上げる。
しかし、男はすかさず持っていたバインダーで防いだ。
ガキン!と金属がぶつかる音がする。
ただのバインダーだと思っていたそれは、サンジの攻撃を受け止めてもびくともしない。海楼石でできているのだろうか。
それから男は、サンジの攻撃を受け止めながら顔を近づける。
「あなたがあの、ヴィンスモーク・サンジですね?」
「
………
!!その名を、口にすんじゃねェ!!」
よりくっきりと額に青筋を浮かべながら、サンジはさらにもう一発蹴技を繰り出そうとする。
しかし、男はそれよりも早くバインダーで脚を弾いて距離をとった。
「なるほど。噂には聞いていましたが
……
」
「ブツブツ言ってねェで質問に答えろ」
サンジが静かにドスの利いた声で男に迫る。
数分前。
騒ぎを聞きつけてキッチンを出てみれば、仲間たちが倒れていた。
異様な空気がサニー号に漂っていたのはすぐに察しがついた。だからサンジは、なるべく空気を吸わないように息を浅く吐きながら、最短距離で敵と対峙した。
とにかく一刻でも早く、ナミ達の異変を突き止めなければならない。
しかし、男はなぜか余裕の表情を浮かべていた。
まだ何かを隠しているようだ。
「
……
よし、実験を変えましょう」
男はそう言うと再び小型の銃を構え、一回、二回と銃を大きく振った。
そして銃口をサンジに向ける。
「そんなもん当たるかよ!」
サンジはそんなものが脅しになるものかと、構わず男に向かって走り出した。
あんな銃の一発や二発、容易に避けられる。
その間に相手の間合いに入って
―――
「
――
ええ。でしょうね
…
」
男が、にやりと笑った。
それから銃口をサンジから、意識を失っているナミに向けた。
「え」
サンジはあまりに突然の出来事に、全身の血の気が引いた。
パンッ
男は間髪入れずに引き金を引いた。
当たった先は
――
「ヴッ
…
!」
サンジの右肩に弾が直撃した。
直撃した瞬間、弾が弾けて粒子が舞い、サンジの体にまとわりつく。
直後、ガクンと右肩の力が抜けた。
意識ははっきりとしているが、右肩から腕、指先にかけての感覚がない。
「なに
…
を
…
?」
サンジは困惑した表情を浮かべながら白衣姿の男を見る。
しかし男は容赦なく、今度はウソップと、その向こうの階段で倒れているジンベエに銃口を向けた。
「やめろ!!」
パンッ
「ぐあっ!」
今度はサンジの左脚に弾が当たる。
すると脚の感覚が麻痺してしまい、たまらず片膝をついた。
「サンジッ
…
!くそっ
…
やめろ
…
、お前
…
!!」
朦朧とする意識の中で、気を失ってたまるかと必死にこらえていたルフィは、今出せる最大の力を振り絞って声を荒げる。
このままではサンジが危ない。
ルフィはなんとか男を止めようと腕を伸ばす。
「あなたはおとなしくてしててください」
しかし、男は持っていたバインダーで簡単にルフィの腕を弾いた。
「いっ
…
!」
ジリッと手が痺れる感覚がする。
やはりあのバインダーは海楼石でできているようだ。
ルフィは弾かれた衝撃に耐えられずにゴロンと横に倒れてしまう。
「ルフィ
…
っ!」
サンジはそれでもまだ動く右脚と左腕を使って、なんとか立ち上がった。
「さすが。まだ立てるんですね」
「黙れ
…
!」
「
――
では、とどめといきましょうか
…
」
白衣姿の男はさらに歩みを進めると、その銃口をカチャリと構えた。
その先にいたのは
――
ルフィだ。
「
……
っ!」
「やめろ
…
!」
サンジは右脚に力を籠めて、跳んだ。
己の船長を守るために。
そして、ルフィの目の前にサンジが現れた。
「サン
…
」
パンッ
彼の胸に弾が当たった。
ルフィの目の前でサンジが倒れる。
ルフィの頭は真っ白になった。
「サ
…
ンジ
…
」
「る、フィ
…
」
ルフィは震える声で仲間の名前を呼んだ。
サンジに外傷はない。
しかし、薄っすらと目を開くサンジの瞳は今にも消えそうで、霞んでいた。
「だいじょ、ぶ
…
か
…
?」
「お前
…
!なんで
…
!!ゔっ
…
!」
ルフィは胸をギュッと抑える。
ウイルスの効果がさらに彼の体を蝕んでいた。
今にも意識が途切れそうだ。
「おれ、の
…
こと、心配、す
…
んな
…
」
そうサンジが微かに言ったのはルフィの幻聴だったか否か。
サンジはふっと笑うと、そのまま意識を手放した。
「サンジ
…
!」
ルフィは何とか手を伸ばしてサンジの腕を掴もうとする。
しかしそれよりも早く、彼の体はふわりと浮き上がった。
白衣姿の男がサンジを担ぐ。
「この男がほしいですか?麦わらのルフィ」
「お前
…
!サンジに、なにした
…
!」
「太陽が天辺に来るまでにあの灯台に来なさい。
……
ただし、あなただけで」
「下手なことをしたらどうなるか
……
わかりますよね?」と男はサンジを揺らしながら静かに笑う。
次の瞬間、霧を晴らすように突風と斬撃がぶわっとサニー号を駆け抜けた。
援軍に気付いた男はぶわりと煙幕を足下に投げつけると、霧に紛れてその姿をくらました。
「待て
…
!!」
しかし、ルフィはついに高熱が全身を巡りきったのか「ゴホッゲホッ」と咳き込んでしまい、体が動かせなくなった。
「ルフィ!!」
薄れそうになる意識の中で聞こえるチョッパーたちの叫び声。
ゾロ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルックが血相を変えてサニー号に戻ってきた。
「ちっ、やっぱり狙いはサニーだったか」
「みんなひどい熱だ!なんでこんな
…
」
「あの村の人達と同じ症状のようね」
「おい、全員いるか!?」
「サンジさんの姿が見えませんが
…
!」
チョッパー達は慌てて倒れている仲間たちに寄り添う。
ナミ、ウソップ、ジンベエは高熱にうなされて気を失っているものの、命に別状はないようだ。
しかし、いくらブルックが船内を探してもサンジの姿だけが見当たらない。
「ゲホッ、ゲホッ、サン
…
ジ
…
」
仲間の名前が聞こえて、ぴくりと指先を動かしたルフィは、薄っすらと半目を開けながら声を絞り出した。
救急セットを取り出したチョッパーは、慌ててルフィにドクターストップをかける。
「ルフィ!動いちゃだめだ!」
「おれ
……
サンジを、助け、ねェと
…
」
ルフィはチョッパーの制止も聞かず、なんとか体を起こそうと力を振り絞る。
「待ってルフィ。状況を説明して」
「サンジが
…
連れて、行かれた
…
」
「なっ!?」
「おれが、行かねェと
…
」
「だめだ!そんな体で一人で行くなんて!」
「おれ達が行くからお前ェは寝てろ!」
「ええ、サンジさんは私たちが必ず!」
フランキーとブルックはルフィの代わりに自分たちがいくと名乗りを上げ、だから動いてはいけないと船長を宥めた。
それでもルフィは止まらない。
「ゾロ
…
」
そして、先ほどから黙ってウソップ達を運びながら、ルフィ達のやり取りに耳を傾けていた男の名前を呼んだ。
ゾロはルフィを見る。
「
………
あと、頼む」
「
………
!」
二人の視線が、ぶつかった。
いつの間にか呼吸が浅くなっていたゾロは、一度大きく息を吸うと「はあ」と盛大にため息をつく。
「
……
ったく、てめェはいつもそうだ。わかったよ、行ってこい」
「ゾロ!?」
「ナミたちは任せろ」
チョッパーとフランキーは異議ありとゾロの名前を呼ぶのだが、それでもお構いなしにゾロはルフィの背中を押すように言葉を続ける。
ルフィは「頼んだ」と小さく笑うと、無理矢理両手をついて、低く呻き声を一つ上げながらなんとか体を起こそうとする。
「
……
もう!わかったよ!ちょっと待って、解毒剤打つから」
こうなってしまったルフィは、どんなことがあっても止まらないことをチョッパーは知っている。
本当は回復するまで安静にしてほしいところだが、観念したチョッパーは急いでカバンから注射器を取り出した。
「この島にすごく小さな村があったんだ。そこにいた人達もみんな高熱にうなされてたから、ルフィ達も同じ症状なんだと思う。白衣を着た男が来たんじゃないのか?」
「ああ
…
」
「やっぱり。この島を実験体にするとかなんとか言ってついこの間現れたんだって。村の人達を診ながら解毒剤を作ったから高熱は抑えられるけど
……
。相手はまだ未知のウイルスをまだ持ってるかもしれない」
「ウイルスで人を苦しめるなんて許せねェ
…
」と、チョッパーはワノ国でもばら撒かれたウイルスのことを思い出しながら、怒りの声を滲ませる。
「だからルフィ。そんなやつぶっ飛ばして、絶対サンジを連れ戻してきてくれよ!」
チョッパーは言葉に力を込めながら、ルフィに解毒剤を打った。
ルフィはみるみる体が楽になっていくのを感じた。
「んん!」
脅威の回復力で熱が引いていったルフィは、バッと顔を上げると大きく跳んで、勢いよく甲板に立った。
「ありがとうチョッパー!」
「回復早ェな!!」
「解毒剤は打ったけどさっきまで高熱が全身を蝕んでたんだ。帰ってきたらちゃんと治療するからな!」
「あのバカ眉毛、ぶん殴ってでも連れて帰って来い」
「ああ!行ってくる!」
そう言うよりも早く、ルフィはサニー号を飛び出した。
目指すは、先ほど上陸する時に見たあの灯台。
海岸沿いに走って行けば恐らくすぐに着けるはずだ。
ゾロは霧向こうに消えるルフィの背中を見送ると、「ったく
…
」と半分嘆きも含めながら呟き、仲間達に声をかけた。
「とりあえずナミ達を運ぶぞ。そのあとサニー号で近くまで行こう。あいつらがすぐに戻れるように」
「ええ」
「もちろんだ!」
こうしてサニー号は慌ただしく動きだすのだった。
「
……
うっ
…
」
ぼんやりと霞んでいた視界が、徐々にクリアになっていく。視界はクリアになったはずなのに、曇ったガラス板が目の前を覆っていて、まわりがよく見渡せない。
それでも眼だけをぐるりと動かしながら、サンジは現状を把握しようとした。
脳はやけに冷静で、全面ガラス張りの箱の中に自分は閉じ込められているのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
しかし、体を起こそうとしても、右腕と左脚の自由は今だにきかない。
ただただガラス板に凭れ掛かりながらぐったりとしている。
ルフィ達は無事だろうか。
そんなことをぼんやりと思っていると、カツンカツンと足音が聞こえてきた。
そちらに目を向ければ、ガラス越しにこちらを見下ろしているあの白衣姿の男と目が合った。
サニー号で会った時はガスマスクをしていて顔まではっきりとわからなかったが、今は典型的な丸眼鏡をかけていて、目にひどい隈ができている男の顔がはっきりと見えた。その貼りついた笑顔に皺が寄っているところから、およそ3、40代くらいといったところか。
「お目覚めですね?」
「てめェ
…
!」
「私の名前はムエン。これからあなたの主人となる名前ですよ」
白衣姿の男
――
ムエンは、さらに目を細めながら言う。
しかし、サンジには相手の名前も、彼が言っていることさえもどうでもよかった。
「あいつらは無事なんだろうな?」
体は動かないが、声は思っていた以上にはっきりと出てサンジ自身も驚いた。
そういえば右腕と左脚はまとわりついた粒子のせいで今も動かせないのに、最後に胸に当たった弾の影響はどこにもないのだろうか?そんな疑問が一瞬浮かんだが、なぜかすぐに溶けてしまった。
「さあ?私はあなたと一緒にここに来たので知りません」
「この
…
!」
本当はすぐにでも立ち上がって体を起こしたかったのだが、なぜか全身が重い。それに体を上手く動かすことができなくて、上半身だけを前のめりにしてムエンを睨みつけるのが精一杯だった。
「ヴィンスモーク・ジャッジの息子は冷酷だと聞いてましたが
……
。噂通り、あなたは違うのですね」
「なっ
…
!」
聞きたくもないその名前が出てきて、サンジは目を大きく見開く。
なんでそのことを知っているのかと言いたげな様子を見て、ムエンは答えた。
「私も科学者の端くれ。ヴィンスモーク家の話くらい耳に届いています」
「おれをあいつらと一緒にするな」
「なら、あなたも彼らと一緒
……
いや、それ以上になればいい」
「おれはそんなもんにならねェ」と反論しようと口を開きかけた瞬間、ズキンと胸が痛んだ。
急激に呼吸が苦しくなる。
僅かに動かせる左手を震わせながら、胸元の服をぐしゃっと掴んだ。
「ハァ
…
ハァ
……
っ
…
?」
「あなたに撃ったウイルスは、まだ実験段階なんですがね
…
」
そう言いながらムエンは、サンジが入っているガラスケースに備わっているいくつかのスイッチを起動させた。
パラパラとサンジの頭上から大量の粒子が降り注いだ。
「この粒子と結合させることであなたの神経に作用し、やがて私のものになる」
「ハァ、ハァ
……
なに、言って
……
ぐぁッ
…
!」
息苦しくなったことで体は酸素を欲していて。
無意識に呼吸が深くなっていたサンジは、ガラスケース内に大量に散布された粒子を勢いよく吸い込んでしまった。
急激に意識が遠のいていく
――
。
「
……
ぅ
…
あっ
…
」
「ほーら。右手を上げて
……
」
ムエンの声が直接脳に響く。
すると、右腕の感覚が突然戻った。
右腕が、大きく上に動く。
自分の意に反して、だ。
「な
……
んだ
……
?」
「あなたはもう、私のモノだ」
「あ
…
ぅ、ぁ
…
!」
苦しい。
呼吸をするたびに思考が鈍る。
目の前が白く霞む。
耳鳴りがするのに、ムエンの声はだけやけに鮮明に響く。
それでもサンジは必死にもがこうとした。
こんなやつの思い通りになってたまるかと。
「麦わらがもうすぐここへ来ます。最後のお別れをしなさい」
脳を貫くムエンの言葉に、サンジはへへ、と小さく笑った。
「
――
なら
……
何も、心配いらねェ
…
な
…
」
「
――
そう、思います?」
ムエンは少しずり落ちた眼鏡を片手でクイッとあげた。眼鏡が光に反射してちかりと光る。
サンジは小さな呻き声を何度も上げながら、それでも口元は笑っていた。
ルフィが来ると聞いたことへの安堵感がそこにはあった。
「ハァ、ハァ
…
当たり前だ
……
クソ野郎が
……
」
すると男もまた笑った。
まるでサンジを嘲笑うかのように。
「
――
あなたが麦わらのルフィを、倒すのですよ」
「
――
は
…
?」
その言葉でサンジの思考は完全にシャットダウンする。
「あなたはもう、私のモノだ」
ぷつん。
その言葉を最後にサンジの意識が、五感が、完全に切れた。
麦わらのルフィを倒す。
その言葉が、からっぽになった頭に反響した。
「サンジー!!!」
ルフィは全速力で走った。
そして太陽が天辺に上る少し前に辿り着いたのは
――
古びた灯台。
やはり灯台としての機能をもう担っていないのか、古びた灯台は所々苔が生えていて、石造りの壁もぽろりと崩れている。
しかしルフィはそんなことなどお構いなしに、木でできた扉を勢いよくぶち破った。
「はあ、はあ、はあ
……
サンジー!どこだー!!」
灯台の中に入るとそこはがらんどうになっていて、壁に螺旋階段が設えてあるだけだった。
大きな声で叫べば、声が方々に反響する。
灯台の上から差す光がわずかに薄暗い空間を照らし出す。
「いねェな
……
上かな
…
」
ルフィは天井を見上げながら息を整えた。
螺旋階段が辿り着く先はよく見えないが、階段があるということは上にも部屋があるのだろう。
ならば上に伸びて飛べばいい。
ルフィはぐるんぐるんと腕を回して、階段に手を伸ばそうとする。
コツン コツン
…
すると、どこからか響いてくる足音がひとつ。
ルフィは聞き覚えのある足音に腕を止めてそちらを見た。
サンジが、俯いたまま姿を現した。
「サンジ!よかった、無事だったのか!」
ルフィは安堵して、自然と顔を綻ばせながらサンジへと駆け寄る。
「心配したんだぞ!お前、ああいうことすんなよな!おれも一緒に戦うから。とにかく、さっきゾロ達がサニー号に戻ってきてナミ達を看てくれてるからおれ達もすぐに戻るぞ!」
しかし、サンジの返事は
……
ない。
「
……
サンジ?」
「
――
戦え」
ルフィでも、サンジでもない声が、聞こえた。
その瞬間サンジはギリッと顔を上げ、ルフィの腹部に一発蹴りを入れる。
「うぎっ!!」
ドガアアアン と凄まじい轟音と共に、ルフィは壁まで吹き飛ばされた。
「いててて
…
」と腰をさすりながら土煙が立つ中をかき分けてルフィはサンジを見る。
「おい、サンジ!いきなり何すんだ!」
しかし、いくらルフィがサンジに声をかけても返事はない。
それどころか、彼は素早く体勢を低くすると全速力で走り出し、ルフィへと突っ込んできた。
脚には青い炎を纏っている。
「サンっ
…
」
ガキィィン!
ルフィは腕を交差させ、武装色の覇気を纏いながらサンジの攻撃をギリギリのところで受け止めた。
ルフィはその時、ようやくサンジの顔を見た。
彼の瞳は、ひどく濁っていた。
いや、目だけでない。
顔は青白く生気が感じられず、口は一文字にぎゅっと結んでいた。
そこに感情はまったくない。
完全に「無」の表情だ。
「お前
…
」
そのサンジの冷たい表情に言葉を失ったルフィは、サンジの力に押されて再び壁に叩きつけられる。
壁の一部ががらっと崩れてルフィに落ちてくる。
それでもルフィは、崩れた壁の瓦礫をかき分けながら再び立ち上がった。
「おい!サンジ!何やってんだよお前!!」
ルフィはもう一度声を荒げてサンジの名前を叫ぶ。
しかし、彼は何も聞こえていないのか、攻撃の手を緩めることはない。
もう一度ルフィとの間合いを詰めると、今度は連続で脚を振り上げてルフィの顔面を目掛けて攻撃を仕掛ける。
状況を理解できないルフィは「やめろサンジ!」と必死に何度も名前を呼びながら避け続けた。
背中が壁についてしまい追い込まれたルフィは、サンジの最後の一撃を屈んで避け、ぐるりと背後に回った。
蹴りで壁がガラガラと音を立てて崩れ、大きく穴が開く。
「くそっ
…
、どうしちまったんだよサンジ
…
!」
「
――
彼はもう、私のモノです」
その声と共に、ムエンが姿を現した。
「ヴィンスモーク・サンジ。こちらへ来なさい」
ムエンがふわりと片腕を上げてくるりと回す。
するとサンジはまるで糸が切れた人形のように立ったまま体をだらんとさせ、ふらふらとムエンがいる方へと歩き出した。
「サンジ!?止まれよ!おい!」
しかしいくらルフィが叫んでも、サンジの歩みは止まらない。
そのままムエンを守るようにしてルフィの前に立ちはだかった。
「お前
…
!サンジに何したんだ!!」
「彼はね、私の実験体になってもらったんです。他のジェルマ66と同じように
…
いえ、それ以上。感情も、意思も、痛みさえも削ぎ落した完璧な殺戮兵器になるための、ね。さあ、行きなさい」
ムエンがそう言った瞬間、サンジは再びスイッチが入ったかのようにルフィに突撃してきた。
今度は先ほどよりもスピードを増しながら。
「
…
っ!?」
ルフィの反応がやや遅れる。
サンジはそのまま青い炎を纏った脚をルフィの右脇腹に食い込ませた。
メキッ
「うぐっ!」
そして勢いよく吹き飛ばす。
「げほっ、げほっ、やめろ!サンジ!」
しかしルフィがいくら声を上げてもサンジの動きは止まらない。
虚ろな目は、元に戻らない。
「無駄ですよ。あなた達の船で浴びたウイルスと、先ほど私が与えたウイルスが結合して彼は私の意のままに動く操り人形になったのです」
「嘘だ!サンジがそんなのに負けるはずねェ!」
「ならば証明してあげますよ。麦わらのルフィを殺しなさい!」
サンジはその命令を合図にして、弾かれたように体をぐるりと捻らせてルフィに向かってくる。
「サンジ、目ェ覚ませ!」
ルフィは立ち上がると構えずに、迫りくるサンジをじっと見た。
至近距離でルフィはサンジと再び目が合う。
それでもサンジの目は、口は、動かない。
ドガ!
今度は鳩尾に強烈な一撃が入る。
「オエッ
…
」
意識が一瞬ぐらりと飛んでよろめくが、ルフィは胃液を吐きながら、それでも踏みとどまった。
「おや?反撃しないのですか?」
「
――
サンジが
…
お前なんかに、やられるもんか
…
!」
再びルフィは構えずにサンジと向き合った。
サンジは体勢を屈めると、脚を振り上げてルフィの顎を狙う。
「サンジ、お前、そんな顔すんなよ
…
!」
バキッ
「うっ!」
サンジの蹴りはルフィの顔面を突き上げる。
ルフィの鼻と口からドバっと血が流れた。
一瞬後ろに倒れそうになるが、何とか右足を踏ん張ってまたすぐに体勢を直す。
「サンジ!帰って来い!」
「
………
」
サンジは今度は畳みかけるように蹴り技を繰り出した。
首、肩、腹、腿、脛、次から次へと息継ぎ暇なく、ルフィを蹴り続ける。
そして、サンジは最後の一撃に力を籠めて、強烈な一撃を放った。
ゴォン!!
「ぐあっ!!」
白目を剝きながらルフィは遠くまで吹き飛ばされた。
壁に激突するその寸前。
ルフィは意識を取り戻すと、「ふん!」と鼻息を荒くし、壁に両手をついて吹き飛んだ体の衝撃を吸収するかのように、壁を弾いて着地した。
しかし、サンジもまた攻撃の手を緩めない。
ルフィが壁を弾いて着地している隙に、空中を蹴って天高く跳んだ。
ルフィは天を仰ぐ。
サンジは虚ろな目でじっとルフィを睨みつける。
「サンジ!おれは
――
」
もう一度ルフィは彼の名を、彼に向けた言葉を、腹の底から叫んだ。
「
……
!?」
この時初めて、サンジの表情が一瞬、揺らいだ。
しかし、もう遅い。
サンジは体を回転させるとそのまま勢いをつけて急降下する。
その踵落としが決まるまで、ルフィは必死にサンジを見続けた。
ドゴォン!!
「がはっ
…
!!」
サンジの踵はルフィの脳天を直撃する。
頭からぼたりと血が流れた。
「サン
…
ジ
…
」
ドサッ
…
ついにルフィは、その場に倒れてしまった。
サンジはただただ無表情にルフィを見下ろす。
一方で、黙って二人の戦いを見ていたムエンは、とんだ期待外れだとため息をついて肩を落とした。
彼が見たかったのは、仲間同士の殺し合い。
絶望の中お互いを傷つけあったところで、麦わらのルフィもあわよくば自分のモノにしようと思っていたのに、こうも無抵抗とあっては逆に興覚めしてしまう。
「
――
これで四皇とは情けないですね。まあ
…
麦わらはもういいでしょう。今すぐトドメを刺しなさい」
ムエンはサンジの背中にそう命令した。
しかし、様子がおかしい。
サンジはその場からぴくりとも動かない。いや、命令を聞かない。
「
……
?どうしたのですか、ヴィンスモーク・サンジ。早く麦わらにトドメを
――
」
「っ
…
ぁ
…
ああああああああ!!」
再び命令を発したとき、サンジは声を荒げて頭を抱え、膝から崩れた。
「ぐっ
…
あっ
…
!!」
まるで壊れたおもちゃのように唸り声を上げながら、首を何度も何度も左右に振る。
「ああッ
…
!おれ、は
…
!!」
「サンジ!!」
その時、サンジの右腕がじんわりと温かくなった。
誰かが彼の腕を握っている。
虚ろな目を白黒させながらその腕を見て、伸びている先を見た。
その先にいたのは麦わら帽子を首に掛けている青年。
その青年と、ようやく目が合った。
その手の温もりは、青年の顔は、自分がよく知っている
――――
。
「サンジ、おれはここにいるぞ!」
「
……
る、フィ
…
?」
サンジの瞳に、光が差した。
「ルフィ」
サンジはもう一度、今度はハッキリと、己の船長の名前を呼んだ。
その声がルフィの耳を、脳を貫いて、彼は堪らず満面の笑みを浮かべながら「おう!」と返事をする。
「悪い
……
おれ
…
」
「おれ達を守ってくれてありがとう!でも無茶はすんな!サンジはいつもすぐ無茶するから」
「
……
ああ
…
」
そうサンジが申し訳なさそうに、しかし真っ直ぐにルフィを見て頷けば、彼も嬉しそうに笑う。
それからサンジはひとつ息を吐くと立ち上がり、ルフィの手を引いて起こした。
操られていた力だったので威力は落ちていたとはいえ、サンジの蹴りをあれほど喰らったのだ。ダメージが蓄積されすぎてルフィの足元はぐらりとふらつく。サンジは咄嗟にルフィの肩に腕を回して体を支えた。
「なぜ
…
?私のウイルスが効かなかったとでも!?」
その様子を見てムエンは狼狽えた。
このウイルスは開発中のため解毒剤など開発していない。だから治療は不可能だ。
ならば所詮は開発中のウイルス、効力が切れてしまったとでもいうのか。それともヴィンスモーク家の血統因子になんらかの影響が及ぼされたというのか
…
。
予期せぬ事態に再びバインダーを手にし、筆を走らせて乱暴に分析を始めるムエン。
そんな彼をルフィとサンジはギロリと睨みつけた。
「てめェ
…
よくも、好き勝手してくれたな」
「おれの仲間を傷つけやがって
…
!」
「ちっ
…
ならば、もう一度ウイルスに侵すまで
…
!」
二人の怒気に気が散って分析もままならないムエンは、まずは平静を取り戻そうと再び腰に差していた小型の銃を構え、ルフィとサンジに向けて放つ。
しかし、二度も同じ手を喰らうものかと、サンジに肩を支えられていたルフィは片手でぐんと腕を伸ばすと頭上の螺旋階段に手をかけてサンジと共に跳んだ。
「ルフィ。あいつはおれがやる」
「よしきた!」
そう言うとルフィはサンジの肩から離れた。
サンジはそのまま空中を蹴って螺旋階段に着地。
ルフィは落下しながら「ふん!」と両腕を伸ばし、ムエンの肩をガシリと掴んだ。
その握力が強すぎて思わず手にしていた海楼石でできたバインダーを落としてしまう。
その隙にルフィは素早く何重にも腕を巻きながら、ムエンの背中に飛び乗る。
「くそっ
…
!離せ!」
「離すもんか!ゴムゴムのォ
…
!」
そしてルフィはぐるんと巻き上げたゴムの腕の反動を使いながらムエンを空中へと吹き飛ばした。
「ボーガン!!」
「ぐはッ!」
真っ直ぐに打ち上げられたムエン。
打ち上げられた先には、階段で待機していたサンジが待ち構えていた。
「吹き飛べ!」
そして彼は一度目を閉じると、全身に熱い炎を纏わせ、空中を蹴り進む。
「地獄の思い出!!」
「ぐあああッ!!」
サンジの蹴りはムエンの体を貫き、灯台の壁をぶち壊した。
そしてムエンはもう姿が見えなくなるほどものすごい勢いで、炎に包まれながら遠くへと吹き飛ばされてしまった。
「フゥ
…
おれを操れるのは、熱い恋だけだ、ってな」
サンジは強烈な蹴りを放った勢いで反対側の階段へと着地し、ムエンが飛んで行った方角を見ながら煙草に火を点けた。
ゴゴゴゴゴゴゴッ
「なんだ!?」
しかし、一服する暇もなく、強烈な地響きが彼らを襲う。
慌てて天井を見てみれば、灯台の壁が次から次へと崩れ落ちていた。
もともと老朽化が進んでいた建物だ。こうも何カ所も壁に衝撃が加わってしまえば、その勢いで全壊したっておかしくない。
「やべ!」
ルフィも慌てて入口の方を振り返れば、ちょうどその瞬間、大きな瓦礫が落ちてきて入口を塞いでしまった。
「ルフィ!」
サンジは大声で己の船長の名を呼び、それから手を差し出した。
その意味をすぐに理解したルフィは、ニッと笑って左手は螺旋階段に、右手はサンジの手首をグッと掴む。サンジもガシッとその手を握り返した。
そしてウソップのパチンコのように体を引く。
「ゴムゴムのォー、ロケットォ!!」
「うおっ!」
ビュン!とルフィは頭上と高く跳んだ。
もちろんサンジも一緒に。
そしてその体は灯台の天辺まで飛んでいき、バリンッと窓ガラスを割った。
二人は天高く飛ぶ。
ちょうどその瞬間、灯台が大きな音を立てて崩れていった。
「脆すぎだろ、あの灯台」
「ししし!でも脱出できた!」
「で、このあとどこ行きゃいいんだ、船長」
空を飛びながらルフィはキョロキョロとまわりを見回すと、ちょうど灯台の近くに船を進めるサニー号が見えた。
甲板には仲間達がいて、その中にはロビン達に支えられながらこちらに手を振っているジンベエとナミ、ウソップの姿もあった。
「
―――
あ!いた!サニー号だ!」
「OK!」
すると今度はサンジがルフィの手を引くようにして、空を蹴る。
ならばあとはもう任せればいいと、ルフィはサンジの手を握りなおし、帽子を押さえながらサンジに引っ張られるようにして風を切った。
サンジもルフィを離さないようにしっかりと握り返しながら心地よいリズムで空を切る。
そして、ストンとサニー号に着地した。
「ただいま!」
そうルフィが元気に言えば、サンジとルフィに泣きながら飛びついたのはチョッパーとナミとウソップとブルック。
「もう!サンジ君!なんであんたはいつも一人で
…
」
「ご、ごめんナミさん」
「そうですよ!優しいにも限度ってあるんですからね!」
「だから悪かったって」
「
――
って、ルフィ!なんでこんなボロボロなんだよ!?」
「え、あ、えーっと
……
」
しかしすぐに血だらけのルフィを見てチョッパーは目を丸くする。
さてなんて答えようかと、珍しくルフィが目を泳がせていると、サンジが申し訳なさそうに頭を搔きながら言葉を落とす。
「
……
それはおれが」
「転んだ!」
「はあ!?」
しかし、サンジが言い切る前にルフィは言葉を遮って、どうだと言わんばかりに胸を張って叫んだ。
「転んだってなんだよ」
「転んだは、転んだ、だ!」
「どんだけ盛大に転べばそんなボロボロになるんだ」
「灯台も壊れるほど激しく転んだのか?」
「とにかくものすごく転んだんだ!な、サンジ!」
「な!」と念を押されるようにしてルフィはサンジに目で訴えてくるので、その勢いに呑まれてサンジも咄嗟に「あ、ああ
…
」と頷いてしまった。
本当は転んだわけではないことを、一味全員察したのだけれど、それ以上彼らも言及しない。
二人を交互に見た仲間達は、それでも元気に戻ってきたことに安堵しつつ、困ったように笑う。
この船の船長も料理人もなんて優しすぎるんだろう。と、呟いたのは仲間達だったか、それともそよそよと吹く風だったか。
「じゃあルフィとサンジも今度こそ絶対安静だからな!」と船医に釘を刺されて、そのまま医務室へと連れていかれるのだった。
Fin.
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