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kanaco
2025-10-17 23:21:34
1495文字
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【四信】あなたと手をつなぐ
《四信》1000文字チャレンジ。四仔と手をつなぎたい信一のおはなし。
『休診』の札がかかった診療所。どうしたんだ、と尋ねた信一に四仔は端的に答えた。
「診療で扱う野草を山に取りにいく」
「じゃあ、バイクを出してやろうか?」
信一がそう提案したのは、午後に予定が何も入っていないというシンプルな理由から。そして九龍城砦に引きこもっているような印象の医者が“外に出る”というのが物珍しかったからだ。好奇心はあれど、ほとんどが善意でかけられた声を四仔は素直に受け取った。
麗らかな青空の下、バイクに2人乗り。30分ほど走り行く。
四仔の案内で着いたのは、知り合いの私有地だという小さな山だった。連絡はつけてあるから好きに入って、散策して、欲しいものを取り、そして出て行っていいということらしい。薬効ある植物のいくつかをここで調達をしている、と四仔は言った。慣れたように登っていく後ろ姿を追いつつ、信一は感心して辺りの様子を見渡した。
人が通るためだろうザックリと草避けした道が一本、どこまでも前方へと続いている。見渡す限り立ち並ぶ木々。天を覆う枝葉。その葉の隙間から零れるさり気ない日差し。風がざわつけば木々が揺れしなる音が響く。鳥の囀りも聞こえた。自然の音だけに耳が研ぎ澄まされる。私有地のため他に人はいない。心が落ち着くと同時に寂しいような気も信一はした。
そうしてふと、この場所に2人きりなのだと気がつく。
だからだろうか。
目的の野草を逃すまいと集中し、目の前を無言で歩く男の手のひらが気になってしまうのは。
九龍城砦の通路はどこであっても誰かしら住人がいる。それに信一など有名人であるから少し歩けば知り合いと会う。個室で2人きりになる、という場面はあれど今のように自分たちしかいない散歩など機会がない。
信一と四仔が恋人同士であることは『秘密』であった。誰かに悟られるような素振りは厳禁だ。だから例えば、世間の恋人たちがするような『手をつなぐ』ということを信一は四仔としたことがなかった。
無防備にあいている、四仔の左手。
触れてはいけないだろうか、と信一は憂う。
もしその手を取ったら四仔は驚くだろうか。俺がしたいと思う気持ちを汲んでくれるだろうか。そもそもあまり、そういうことに興味がなかったりして。それに今は詮索中で仕事中のようなものであるから、邪魔だと思われるかもしれない。
だけど
…
。
こんな機会って滅多にないだろ。
伸ばしたい気持ちと、躊躇う気持ち。
勇気は足を大きく踏み出させ、臆病は腕を竦ませる。
後ろ姿へと距離を詰めた信一は四仔の手のひらへと自分の手を伸ばす。それから遠慮がちに、彼の小指だけにやんわりと自分の四本指をひっかけた。手を握る、というよりは手のひら一部を合わせただけ。
四仔がピクリ、小さく反応したような気がして信一が息を飲む。
すると。
男にしては華奢な信一の手のひらを、大きな手のひらが握り直した。自然な動きで、なんの躊躇もなかった。手を包むかのように、腕を強く引き寄せるかのようにしっかりと手と手を繋ぐ。
四仔が信一を振り返る。優しい眼差しと目があった。薄っすらと笑む口元も穏やかで、信一の見当違いでなければ、ずいぶんと機嫌が良さそうだった。
「山中ではぐれるのは問題が多い...できるだけ近くにいろ」
そう言った四仔は、そのまま詮索を再開する。
繋がった手のひらが緩やかに温度を上げていって、分け合い、溶け合う。
耳を赤くする信一は、とりあえずコクコクと頷いて。
自然の音をかき消すような自分の心音にクラクラとしながらも、決して離さぬよう手を握り返したのだった。
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