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すだ
2025-10-17 22:03:30
7018文字
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主スバカグ
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とりっく おあ とりっく
舞手スバルと嫁カグヤ。恋人期間中。ハロウィンでお菓子があるのにイタズラを選んだら、えらいことになってしまったカグヤさんのお話。
さいなせつ
@sainasetu
さんとハロウィンのお話をしていたときに出てきたネタを形にしたものです。アイデアをいただいたので、スバカグはせつさんの書かれるキャラクターに寄せております。とても楽しかった! おつき合いありがとうございました。
#スバカグ
「じゃあいくよ、せーの!」
それぞれ後ろを向いていたカグヤ、いろは、すず、ひなが掛け声とともに振り返った。
「きゃー、かわいい!」
ひなの歓声がいろは茶屋に響き渡る。今日行われる西のお祭り、ハロウィンのための準備をしていた四人は菓子を配る際の衣装に身を包んでいた。
いろはの衣装はメイド服。黒いミモレ丈の腰を絞ったワンピースに、白い大きなフリルのついたエプロン姿。パフスリーブで柔らかさを出しながらも、かっちりとした白地の襟と袖ができるメイドといった印象だ。頭にはいつものメイドブリムにお化けとコウモリの飾りをあしらってある。日頃から冗談で「いらっしゃいませ、ご主人様」とやっているいろはだけに、ノリノリである。
すずは春の妖精。チュール生地で作られた膝上のドレスは色味の異なる桜色が何層にも重ねられふんわりと広がり、頭にはうららかとお揃いの桜の髪飾り。背中には同じく桜色の羽が生えている。くるっと回ってポージングする姿は何とも愛くるしい。
ひなはすずとリンクコーデで、秋の妖精姿だ。イチョウをイメージした明るい黄色のスカートの上には紅色の生地が重なり、グラデーションが美しい。腰元には何故か愛用の双剣がおさまっている。頭には黒いリボンでおめかししたカボチャの帽子がちょこんと乗せられている。
最後にカグヤは雪のように白い魔女の衣装。デコルテを大胆に晒し腕には肘まである純白の長手袋。手袋の端には美しい真朱の糸で刺繍が施されている。スカートはフリルをふんだんに使用した二段構造になっており、中央部が一番短く、両サイドに向かうにつれ長くなっている。ニーハイソックスには白梅と紅梅の模様が染め抜かれている。魔女と言えば欠かせないのが三角帽子らしく、つばにはアクセントとしてスバルが身につけているような金属製の飾りが揺れている。見事なものである。
これらの衣装は里の裁縫が得意な方々に作ってもらった。瞳を爛々とさせ、頭を突き合わせながら打ち合わせを始める異様な雰囲気にただならぬものを感じたものだ。
『カグヤさんはどうせなら、いろはさんと対比させて白魔女がいいんじゃないかな? 赤の刺繍をアクセントに、紅梅と白梅を散りばめてみるのも面白そう。どうせなら里長が身に着けているあの金属のやつもつけちゃおう! お揃いっぽくていいでしょ?』
そう早口にまくしたてられ、あれよあれよと言う間に出来上がっていた。
可愛すぎませんか? と何度も確認したが、皆何も言わず親指を立てるだけだった。里長が泣くからと胸元が隠れるようケープを追加してくれたのは少し安心した。鎖骨の辺りが涼しくて居心地が悪かったのだ。ちなみに、これにも紅梅のスパンコールが散りばめてある。
「はい、それではお待ちかねのお菓子をお披露目します!」
そう言って現れた色とりどりのお菓子を一同はうっとりと眺めた。
「かわいいー!」
「さすがお姉ちゃん」
「色々あって迷ってしまいそうですね」
「みんなが手伝ってくれたおかげだよ」
そこには皆で力を合わせ作った自信作が並んでいる。
ハロウィンといえば欠かせないジャック・オ・ランタンに黒い三角帽子をかぶったお化け、魔女と黒猫、そしてコウモリ。ひなの話を参考にいろはがデザインした練り切りはとても可愛らしい。その他にもクッキーやキャンディ、色々取り揃えている。これなら子供たちにも喜んでもらえるだろう。
衣装係の皆からの熱い応援を背に、いろは茶屋の前で4人並ぶ。イベントは夜7時からなので、すでにそわそわした様子の子供たちが遠巻きにこちらを眺めていた。
「もうすぐ7時だし、始めちゃおっか」
いろはの言葉を合図に、戦場という名のイベントが始まった。始めるよー! と声をかけると子供たちが一斉にかけより「とりっく おあ とりーと!」と元気よく声を上げる。あっという間に黒山の人だかりだ。慌ててひなが交通整理を買って出て、他の三人はお菓子配りに必死になった。
「すごい人気ですね」
人だかりが少し落ち着いた頃、何だか少しボロボロになった様子のスバルが顔を出した。自分の格好が気になってしまい、カグヤは咄嗟にいろはの後ろへ隠れてしまう。
「スバルくん、こんばんは。仮装はしてないんだ?」
いろはに問われ、スバルは苦笑する。
「何だかんだ四つの里でそれぞれハロウィンイベントなるものを開催することになったので、まとめ役として働いているうち自分のことは後回しに」
「なるほど
……
。いつも里のためにありがとうございます」
深々とお辞儀をするいろはに、里長は手を振った。
「いえいえ、楽しんでやらせてもらってます」
「ひなさんは、秋の里で参加しなくて良かったのですか?」
全ての里でハロウィンをやっていることを初めて知ったカグヤがひなに問いかけると、友人は力強く頷いた。
「だってカグヤさんたちとも一緒に参加したかったんだもん。大丈夫、こっちがひと段落したら秋の里でもイベントを楽しむ予定なの。ヤチヨさんとお菓子を交換する約束してるし、コタロウくんにもすねたら困るからお菓子あげるの。ツイランさんはお菓子いーっぱい用意してそう。もらいに行こうっと」
クラマさんとカイさんにもあげないとへそ曲げちゃうかな? と悩むひなの様子を見て顔が綻んでしまう。何よりカグヤたちと一緒に参加したいと思ってくれたことが嬉しかった。
「ねえねえ、スバルくん!」
元気いっぱいのすずがスバルに声をかける。
「どうしたのすずちゃん
……
じゃなくて」
「春の妖精さんだよ」
「そっか。春の妖精さん」
「お姉ちゃんがメイドさんで、ひなちゃんが秋の妖精さん。それで、カグヤちゃんは白魔女さんなの! 可愛いでしょ?」
すずの目線に合わせしゃがみ込んでいたスバルがこちらを見上げる。思わず固まってしまうカグヤをいろはが押し出した。とてもいい笑顔だ。こちらとしては、何だか生け贄にされた気持ちなのだが。
ぽかんと口を開けカグヤを凝視してていたスバルが口を開いた。かと思うと口を閉ざす。何か思い悩んでいる様子に、やはり似合わなかっただろうかと暗くなっていくカグヤ。
「ちょっとスバルくん、早く感想」
いろはの催促に、はっとしたスバルが再びこちらへ視線を向けた。目元が赤い。
「うん、すごくよく似合ってるよ。とても可愛い。
……
ちょっと露出が多すぎる気がするけど」
最後の方はカグヤには聞き取れなかったが、このくらい普通でしょ、とひなに突っ込まれているのを見ると何か衣装に対するクレームだろうか。やはり似合わないのでは、といろはを見ると、「大丈夫、あれはいつもの発作みたいなものだから」と返ってきた。いろはがそう言うのなら大丈夫だろう。
珍しく真っ赤になっている恋人の顔が直視できない。自分の顔もすでに真っ赤になっているだろう。ありがとうございます、と絞り出すのが精いっぱいだった。
「良かったねー、カグヤちゃん」
そう言うと、すずがスバルの顔に掌を向けた。
「はい、では白魔女さんとのふれあいタイムはここまでです!」
「へ?」
「ごめんねー、スバルくん」
ひなが申し訳なさそうにカグヤの前へ立ちはだかる。
「今日の私たちのミッションは、子供たちにお菓子を配ることなの。だから、可愛い白魔女さんに近づく不埒な輩は秋の妖精が許さない!」
「え? オレ不埒な輩なんですか?」
「うん。小さい子優先だから、ごめんね」
「静かに双剣を抜くのやめてもらっていいですか?」
「ここに鉄壁のメイドもいるよ。白魔女さんはおさわり厳禁です」
「絶対超えられない壁」
軽く絶望した様子のスバルを見かね、カグヤが恋人に耳打ちする。
「後で会いに行きます。お仕事が終わったら竜神社で待っていてもらっていいですか?」
「
……
うん。じゃあ、待ってる」
ふわりと笑うと、スバルは立ち上がった。
「それじゃあ邪魔者は退散しますね。どうか楽しい夜になりますように。その調子で子供以外の不埒な輩は絶対にカグヤに近づけないでくださいよ」
「ありがとう! まかせて!」
「スバルくんも楽しんでねー」
そのまま立ち去っていく後ろ姿を見送った後、いろは、ひな、すずがにんまりとカグヤに笑いかけた。
「な、なんですか?」
「良かったねえ、カグヤちゃん」
すずの声に、うんうんといろはとひなが頷く。
「よ、よかっ
……
たんでしょうか」
「良かったよ」
「うん、良かった。だって最近スバルくんに会えなくて寂しそうな顔してたの」
ひなに指摘され、ますます頬が熱くなる。俯いていると、くい、と白い服の裾が引かれた。
「とりっくおあとりーと?」
小さい黒魔女さんと狼さんが遠慮がちにカグヤの服を引いている。
「あ、お待たせしちゃってごめんなさい。お菓子をどうぞ」
「わーい! ありがとう! どれにしよっか」
「みんなかわいい
……
。かぼちゃにしようかな」
小さな指が色とりどりの練り切りを行ったり来たりしている様子が微笑ましい。ゆっくり選んでくださいね、と声をかけながらいつ抜け出そうかと考えるカグヤだった。
竜神社へ向かうと、スバルが拝殿の板の間に座っているのが見えた。ぼんやりと月を見上げている。一回立ち止まると帽子を取り、髪を撫でつける。恋人の前では、少しでも魅力的でありたい。自分の中にこんな感情があったことに驚くと同時に、何だかくすぐったい気がする。近寄り声をかけると、嬉しそうに相好を崩すのが見えた。
「お待たせしました」
「息が上がってる。走ってきた?」
「は、い。早く会いたくて」
素直な気持ちを伝えると、一瞬固まった後、盛大にため息を吐かれた。
「そういうところ
……
」
「え?」
「何されても文句言えないからな。ほら、こっちおいで」
よく分からない。正直に話すと良くないのだろうか。疑問符を浮かべ立ち止まっていると、両手を広げたスバルが「カグヤ」と呼んだ。ひとまず腕の中へすっぽりと収まる。
「お疲れさま。イベント、楽しかった?」
「はい、楽しかったです。小さい子が沢山来てくれて。いろはさんの練り切りは本当に可愛かったので、とても喜んでもらえました」
自分たちが小さい頃、あんな催しがあったらどうなっていただろうか。お菓子の種類が多過ぎて、選べず泣いてしまったかもしれない。
「良かったね」
スバルが頬に落ちていた髪をかき上げてくれた。
「
……
それにしても、いろはさんたちにはお礼を言わないと」
「どうしてですか?」
理由が思いつかず首を傾げると、耳に触れたままスバルが言った。
「こんなに可愛いカグヤをひとりにしてたら、不埒な輩に囲まれて大変だったと思うし」
先程から可愛い、の大盤振る舞い。この人と交際を始めてから驚くことばかりだ。よくもまあ、そんなにスラスラと美辞麗句をならべられること。今までは心優しい兄ですよ、みたいな顔をしていたというのに、大した変わりようだ。
何も言えず顔を赤らめ黙り込んでしまったカグヤを、スバルが愉快そうに見る。モコロン助けて、と心の中で呼ぶが、勿論祈りが通じるはずもない。
「あのさ。オレ、ここ最近ずっと頑張ってたんだよね」
突然話題が変わったことに面くらったものの、とって喰われそうな雰囲気が和らいだことでカグヤはようやく口を開くことができた。
「そうですね。ハロウィンイベントのために忙しく働いていたのは知っています。ありがとうございました」
「うん。それで、功労者であるはずのオレが、今まで全くハロウィンってものを楽しめてないんだけど」
それは流石に可哀想だ。表情に出てしまったらしい。悲しそうな顔しなくて大丈夫、今から取り戻すからと返された。先程から彼の意図が全く分からない。
手を差し出され、更に謎は深まった。
「とりっく おあ とりーと、だっけ?」
ここでようやく理解する。スバルはお菓子を欲しがっているのだ。
実はふたりで食べようと練り切りはひとつずつ用意している。スバルにもハロウィンを楽しんでもらえそうだと差し出そうとして、手が止まった。
トリックオアトリートとは、お菓子をくれなきゃイタズラするぞという意味らしい。もしここでイタズラを選んだらどうなるのだろう。スバルはどんなイタズラをしかけてくるのだろうか。好奇心が頭をもたげる。
名を呼ばれ我に返ったカグヤは、出来るだけ残念そうな顔を作った。
「ごめんなさい、お菓子はもう無いんです。全部配ってしまって」
スバルの目が細められ、肩が跳ねた。あ、これは多分嘘だとバレている。
「そうか、なら仕方ないね」
先程の危ない雰囲気が戻ってきてしまった。自分の浅はかさを責めてみても後の祭りだ。
「じゃあイタズラしようか」
そう言うなり、するりと腕を取られ指先に口付けられた。真っ白に塗り潰される頭。そのまま手袋をゆっくりとした動作で脱がされ、手首に唇を寄せられた後、腕の柔いところを何度も口付けられる。心臓が破裂しそうなくらい暴れている。抵抗したくても、スバルがあまりにも色っぽくて力が入らない。二の腕に口付けたまま、スバルの双眸がカグヤを捉えた。琥珀の奥に何かが揺らめいている。そのまま鎖骨を辿り、頬を掠め、唇に
——
「ごめんなさい!」
ようやく動いた手でスバルの口を塞いだ。いいところだったのに、とでも言いたげにこちらへ視線を向けられるが、これ以上は卒倒してしまう。
「あります、お菓子」
息も絶え絶えに隠していたお菓子を取り出す。
「何だ、残念」
軽くそう言うと、スバルは手に置かれた練り切りを観察しているようだった。
「黒い猫と
……
黒い魔女?」
「魔女は黒い衣装が一般的なのだそうです」
「へえ、細かいところまで作り込まれてる。やっぱりいろはさんはすごいね」
「はい。あ、でも材料を混ぜたりするのはみんなで手伝いました」
「じゃあカグヤの手作りでもあるんだ」
「
……
まあ、ざっくり言うとそうかもしれません?」
「食べるのもったいないなあ」
「せっかくのお菓子が悪くなっちゃいますから食べて下さい」
「そうだね。カグヤはどっち食べたい?」
「ええと、それじゃあ私は黒猫さんを」
「分かった、どうぞ。それじゃ」
言葉を切ると、スバルはニコニコ笑い出す。この人ときたら、また何か企んでいるようだ。
「カグヤが食べさせて」
「はい?」
「本当はお菓子があるのに嘘吐いてたから、もう少しイタズラしないと」
そう言ったきり、口を開けて待ち構えている。完全にカグヤで遊んでいないだろうか。でも、ねだられてしまえばついつい甘やかしてしまうのだけど。
仕方がないので、口元まで魔女の練り切りを運んでやる。一口食べたスバルが美味しい、と目を見開いた。
「普通のあんこじゃないんだ?」
「いろはさんの発案で、かぼちゃのあんを作ったんです。ハロウィンといえばかぼちゃなんですって」
「へえ」
もっと、と言われ食べかけの練り切りを差し出す。スバルが勢いよくぱくりと口にしたので魔女はいなくなってしまった。食べ終わったのを確認し手を下ろそうとすると、手首を掴まれた。そのまま指ごと食べられる。
「す、スバル!」
「え? ああ、少し手についてたからもったいなくて」
ごちそうさま、と舌なめずりをした恋人に呼吸まで奪われた。
「お礼にオレが食べさせてあげようか?」
「結構です!」
これ以上何かされると本当に倒れてしまいそうで、横向きに座っていた体をよじりスバルに背を向けた。初めて見たときからこの子にしようと決めていた黒猫を見つめる。つぶらな瞳が可愛い。食べてしまうのがもったいないけれど、思い切ってひとくち。
口の中に広がるかぼちゃの柔らかな甘み。白あんも練り込んであるので、上品な後味だ。先程から散々翻弄されていた気持ちが落ち着き、ようやくひと息つくことができた。
いつの間にか腹部に回されていた手が温かい。
「美味しい?」
「はい! いろはさんは最高です」
上機嫌でそう答えると、少しの沈黙の後、左肩に重みが加わった。
「いろはさんの『お菓子』が最高ってことだよね?」
不機嫌そうな声に笑いがこぼれる。変なところで嫉妬してくるのが可愛くて仕方ない。
「いえ、いろはさんは最高の友人ですよ」
肩に甘えている恋人の頭を撫でてやる。
「そしてあなたは最高の恋人です。大好きですよ」
琥珀色の瞳がこちらを向いた。
「うん、オレもカグヤのことが大好きだ」
自然と唇が重なり離れると、ふたり夜空を見上げる。金色に輝く月が睦まじい恋人を穏やかに照らしていた。
「そういえば、ハロウィンの夜はスバルくんとゆっくりできた?」
翌日いろはから投げかけられた質問に、カグヤは固まった。遊びに来ていたひなもどうだった? と興味津々だ。何も答えないカグヤに、ふたりが怪訝そうな顔をする。
「何かされちゃった?」
ひなの言葉にボン! と頭から湯気が出そうなほど赤くなるカグヤの姿を見た友人たちが瞳を輝かせ始めた。
「えー知りたい知りたい!」
「何があったのー?」
「む、無理です!」
「そこを何とか!」
「無理ですってばー!」
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