お芋さん太郎
2025-10-17 20:22:51
2303文字
Public ONEPIECE
 

よその船、うちの船



カイドウとの戦いが終わり、ワノ国からの出航が迫る。
短くも濃い時間をともに過ごした、うざったい麦わらの一味との同盟関係も、これでやっと終わりである。

ローはドライな人間なので、過剰な馴れ合いは好まない。
お互い海賊である以上、次に会ったら敵同士になるからだ。
仲間たちにも、そう言い含めてある。

そんなことをぼんやりと思って一息ついていると、ナミが突然ローの襟首をつかみ、力いっぱい揺さぶってきた。
彼女はオレンジ色の髪の毛を振り乱し、何やらお怒りの様子である。

「ちょっとトラ男! なによ、あれとあれとあれ!」

素直にナミの指さす先を見る。

ひとつめの『あれ』は、正面に見えるフランキーだ。
彼はポーラータング号のマストの裏からヒョイと顔を出し、下の甲板にいるウニに声をかけている。

「おーい、ウニ! あのハゲ、テフロン加工しといだぜ!」
「マジすか、助かる~」

なんて気安い会話が聞こえた。

ふたつめの『あれ』は、右に見えるゾロとウソップ。
ゾロはヘラヘラした笑みを浮かべてシャチと談笑している。

「最初はうるせェと思ったが、聞けなくなると思うと名残惜しいな。お前らの断末魔」
「そっかー。うちのオタマ、『断末魔』で定着しちゃったか~」
「また泊りに来いよ、ゴッド! しりとりしようぜ!」
「深海コワイ、しりとりコワイ……!」

ウソップはへっぴり腰でゾロの背に隠れ、楽しそうなペンギンの傍らガクガクと震えてただならない様子だ。

みっつめの『あれ』は、左に見えるロビンとイッカク。

「ねえロビン、この国で文化祭にピッタリのテーマを見つけたんだ! あのね――
「あら、素敵ね」

二人は仲良くくっついて、秘密の話に花を咲かせている。

まあローからしたら、どれもだいたい通常どおりだから、ナミにこう言った。

「何かおかしいか?」

それが悪かった。
ナミどころか、ほかの麦わらクルーにも火がついてしまったのだ。

「そもそもねえ、いったいなんなのよハゲをテフロン加工って!」

ナミは拗ねたように当たってくるし。

「断末魔って……何があったんだよ! コエー!!」

チョッパーは縮みあがって叫び、ローの足に縋りつくし。

「ウソップさんは断末魔じゃなくて、しりとりの方に怯えてますが」

ブルックは背後に立って見下ろしてくるし。

「あーん、美女が二人で内緒話! なんてミステリアスな花園♡」

サンジのハリケーンが観測史上最大の風力を観測した。

「つまりお前は何が言いたいんだ、ナミ屋」
「なんで私たちの知らない話であんなに盛り上がってんのよ! ズルいじゃない!」
「あァ!? おれに言うな」
「あんたんとこのクルーでしょ。あんたに言わないで誰に言うのよ」

はっきり言って横暴だ。
外野のやつらも「そうだそうだ!」「さみしいぞ~!」「おれたちも混ぜろ!」など野次を飛ばし、チョッパーにいたってはローの体によじ登り蹄でほっぺをグリグリする始末。重いし、痛い。
四皇――認めたくはないが――のクルーは、態度まで四皇レベルである。

そんな状況なのに、船長のルフィは「仲良しだなー、あいつら」なんて、のんきなものだ。

「何言ってんのよルフィ!」
「そうだぞ麦わら屋。仲良しじゃない」
「ちょっとトラ男は黙ってて! よその船の機密めいたこと、あんなに楽し気にやり取りしてるのよ。あんた寂しくないの!?」
「んー? いいじゃねェか、別に」

ぷりぷり起こるナミの傍ら、ルフィは鼻をほじっている。

そんな彼が顔色を変えたのは、次の瞬間。
ブルックのささやくような一言を聞いてからだ。

「人は秘密を共有することで、その集団を仲間と認識しやすくなるだとか」
「おい、骨屋お前……!」

しれっと紅茶を飲むブルックを、ローは睨みつけた。
だってそんなことをルフィに言ったら――

「え!? おいトラ男、それはダメだぞ!」

あっという間にゴムの腕にぐるぐる巻きにされてしまうのに。

ローの体をギチギチと音が鳴るほど強く拘束したルフィが、耳元で遠慮なく叫ぶ。
彼は加減というものを知らない男だ。

「うちの船のやつらは一人だってやらねェからな! たしかにみんな頼りになるけどよ!」
「馬鹿いうな! てめェのクルーなんざいるか。それに万一おれが欲しがったとして」

ローが彼のクルーに順番に目をやる。

フランキーは「アウ! もう出発か?」なんて大きく手を振っているし、ウソップは変な方向に行こうとしているゾロを引っ張ってこちらに向かってくる。

ロビンなんてルフィの背中に耳を生やして、このやり取りは全部つつ抜け。

こっちにいる奴らだって、先ほどのルフィの発言に一人残らず照れてしまっていて、ずらり並んだアホ面名鑑のできあがりである。

ああ。まったく、くだらない。
あいつらの目には、太陽の色をした麦わら帽子と、それが一番似合う男しか映ってないというのに。

――ありえねェだろ」
「そうか? なら、いい!」

お日様みたいにニカっと笑うルフィを引っぺがし、そのままジンベエに手渡す。
新しい海の皇帝が「じゃあな」なんてフレンドリーに振る手を無視して、ローは自分の船へと向かった。

ああ、本当に清々する。
麦わらの一味のアホくささが、うちのクルーたちにうつったら目も当てられない。
あのおかしなノリは、どんな名医だって治せないのだから。

ポーラータング号から、クルーたちのキャプテンコールと、『断末魔』が聞こえた。

これでいいのだ。
うちの船は。



おしまい