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お芋さん太郎
2025-10-17 20:10:42
2462文字
Public
ONEPIECE
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楽しい歴史のつくり方
潜水艦が海中を移動するとき、船は24時間みっちり稼働し続ける。
その間クルーたちは交代で仕事に当たるから、当番によっては長いあいだ顔を合わせないメンバーもいる。
連絡事項を伝えるための掲示板がポーラータング号のあちこちに設置されているのは、そのためだ。
ロビンが小首をかしげたのは、食堂の扉付近にある、船で一番大きな掲示板の前。
大きな見出しが興味を引いたのである。
「〝ハートの文化祭〟?」
ロビンの小さな呟きを、一緒に行動していたイッカクが拾った。
「ああそれね。年に一度、発表会みたいなことをするんだよ、ウチの船」
「発表会って
……
いったい何の?」
「いろいろだよ。本当に、いろいろ。海賊やるのも、いろんな道のエキスパートがいないと立ちいかないじゃない? それぞれの分野の
粋
すい
を集めた、知識と技術の交流会」
イッカクは「準備がけっこう面倒だけどね」とつまらなそうに続けたが、それも耳に入らないくらい『文化祭』の存在は衝撃だった。
知識という言葉はロビンにとって、腹ペコの時に食べるチョコレート。
聞いただけで思わず手を伸ばしたくなる、そんなものなのだ。
持ち前の好奇心が、脳みその中心でパチパチ弾ける。
期待を含むロビンの目に気づいたのだろうか。
イッカクが海賊らしくニヤリと笑って、親指で廊下の一番奥の部屋を指さした。
「記録が残ってるんだけど、ちょっと見てみる?」
ロビンが、パッと花が開くように破顔した。
とはいえ。
「いいのかしら」
「いいんじゃない? だって同盟だし。怒られるときは一緒に怒られよ?」
「そうね。あなたがそれで良いのなら」
ほこり臭くて暗い部屋に小さな灯りをともし、二人で地べたに座りこむ。
まるでイタズラの相談をしている子どもみたいだ。
ロビンは二人だけの秘密という、甘美でちょっと背徳的な雰囲気に酔ってしまいそうだった。
たとえその秘密が、書類あさりだとしても。
「潜水艦って、他の船と違うでしょ。手探りで乗ってるうちにだんだん分かってきたことを共有し合ったのが始まりなんだって」
「なんだかトラ男くんらしいわね」
「悪ノリするやつもいるけどね」
発表後は、それぞれの研究を所定の大きさの紙にまとめ、綴じて冊子にするらしい。
何年か前の冊子をペラペラめくると、イッカクがプッと吹きだした。
「これとか最高! 酒樽でプリンを作るためのガチ考察。結局それは難しくって、小分けにしてみんなで美味しく食べたんだ」
「ふふ、チョッパーが喜びそう。あら、こんなものまで
……
『海戦スタイルフォーメーション⑥』」
「あー! それは見ちゃダメ!」
「そ、じゃあ見なかったことにしましょう」
素直に応じ、ページをどんどんめくっていく。
「『べポの海図の読解要項』『医学的観点からみた効果的な筋トレ法』『創作ボードゲーム』。実用的な研究は、日常にも取り入れてるよ」
「『船長の急なシャンブルズ対策』『嵐の中で100曲歌ってみた』『見た目がキショい深海魚ランキング』
……
とっても興味深いわ」
「え、そんな研究が?」
「意外かしら?」
イッカクが目をまんまるにしてロビンを見つめ、少し苦い顔をしながら指先で適当にページをめくる。
「うん。ロビンは考古学者で頭がいいし、もっと難しいのが好きなのかと思ったよ。こーんなアホ丸出しの研究じゃなくてさ」
彼女の驚きに合点がいって、ロビンが小さく笑いをもらす。
そして囁くように穏やかに言うのだ。
「たしかに難しい本も好きだけど
……
でも私、『麦わらの一味』よ」
「あ、あ~
……
そっか、そうだよね」
「そうなの」
思い出してもおかしいくらい『アホ丸出し』な彼らとの日常を、ロビンは楽しく、愛おしく思ってる。
ずっと隣にあってほしいし、一緒に眠って一日を終えたい。
そんな贅沢な欲でいっぱいなのだ。
納得した様子のイッカクに、ロビンがしっとりした調子で言葉を続ける。
「例えばこれが歴史に残るとして」
「この研究が!? ないない!」
「そんなの誰にも分からないわ。でも残るとして、未来に生きる人は想像するの。あなたたち旅がどんなに楽しいものだったか。どんなに満ち足りたものだったか」
「わぁ~、なんだかそれって
――
」
横目でチラリとイッカクを見る。
彼女の瞳が光を帯びる。
きっと彼女もロビンと同じだ。
「素敵でしょ?」
「うん」
身を寄せ合ってクスクス笑いながら、ロビンはハートの海賊団を少しだけ羨ましく思った。
麦わらの一味ときたら、基本的に記録を残すことをしないので。
もしかしたら、ナミの航海日誌くらいは残るだろうか。
でもそれで伝わるのは、論理的な情報だけ。
考古学者として、今を未来につなげることの大切さはよく分かっているはずなのに。
こんなに好きなのに。
愛してるのに。
残せないものの方が多いなんて、なんだかとっても悔しくなる。
静かに眉尻を下げるロビンに気づかないまま、イッカクが明るく言う。
「カイドウに勝ったら、新しいテーマを見つけたいかも」
「新しいテーマ?」
「ロビンの話を聞いてたら、やる気が出てきちゃってさ。もっとハートの海賊団らしいテーマがいいかな」
彼女がほがらかに夢想するのは、少し先の未確定の未来。
「だって四皇を倒すんだよ。もっと有名になるだろうし、もっともっとできることは増えるよね。仕切り直すにはちょうどいいでしょ」
だけど、きっと叶うだろう。
叶えられるだろう。
この同盟ならば。
航路は進み、敵の強さも最高レベル。
それでもまだ旅の途中なのだ。
まだ『これから』始められる。
始めればいいんだ。
ロビンの目の前の霧がかった道が、一瞬で晴れた。
「そうね。カイドウに勝ったら、私もなにか始めてみようかしら。」
「え、なにするの?」
「さあ?」
テーマはまだまだ見当もつかない。
でもこれだけは決まってる。
麦わらの一味らしいなにか、だ。
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