sousakuyamamusume
2025-10-17 00:19:26
539文字
Public 赤徳
 

苦しみ

赤マントさんの独白

「帰りたくないなぁ。」
 ぼやく彼女。
「だって帰っても夕飯すら置いてないんだ。」
 それはそうだろう、と言う言葉を飲み込む。
「なら、ずっとここにいればいい。そうでしょう?」
「そうしたいのは山々だけど、危ないからさ。」
 悲しげに笑う顔を、もっと美しくしたくて、ナイフを振るった。
……もう少しだけいればいい。」
 僕の言葉に、彼女が口で『ありがと』と言う。
 そのまま動かなくなった彼女。そう、今の彼女は『死んでいる』。
……今でもこうなら、生きていた頃はもっと暖かくて美しかったのかな。」
 僕には、その記憶がない。
 ……僕が正気を失っていた頃、僕は彼女を殺してしまったから。
 こんなにも好きで、一番美しい姿を見たいと願ったのは初めてなのに、僕は永遠にそれを見ることが出来ない。
 一番暖かくて、一番美しい姿は、二度と帰ってこない。
 この胸にナイフを突き立てて、この苦しみをえぐり出せてしまえば良いのに。ああ、苦しい、苦しい、くるしい……
……ずっと、ここにいてくれればいいのに。」
 君の色をみている間だけは、君と話している時間だけは、ほんの少しだけ、苦しくなくなれるのに。
 君がいない時間は、あまりにも、くるしい。
 ……泣ければ、よかったのに。