望月 鏡翠
2025-10-16 22:23:00
991文字
Public 日課
 

#1871 呪い

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 翌朝、微睡から目を覚ます。昨日鱗を引き剥がした場所が痒かった。触ってはいけないとわかっているのに、手が伸びる。あとで薬草でも探して、処置しておこう。
 爪がコツと硬いものに当たる。血が固まった瘡蓋ではそんな硬質な音は鳴らない。血の気が引いた。
 小刀を抜く。
 刃に映る姿を見る。
 煌めく青い鱗がそこにはある。思わず昨日剥がして、手元に残しておいた一枚を確かめた。剥がした鱗はそこに残っている。生えたのか。
 震える手で、鱗に爪を立てる。肌が傷つくのも構わず、無我夢中で引き剥がした。瘡蓋なのか鱗なのかもわからなかった。血で偶然張り付いただけのものなどという言い訳はもはや通じなかった。
 痛みと血の中で、傷つく頬を指で弄り、何も硬いものがないことをなんども確かめて、痛みに呻きながら体を横たえた。血を止めて、目を閉じて、食べ物を口に流し込んで眠った。
 この悪い夢は終わったはずだ。
 翌朝、目が覚めて頬に触れた。そこに再び硬いものを感じたとき、萬木は半狂乱になった。
 今度こそ、顔にどれほどの傷が残っても構わないと小刀を手に取った。顔面の皮を引き剥がそうとして、ふと手をとめた。
 広がっている。鱗の生えた顔と目があった。
 昨日は四枚くらいだっただろうか。少なくとも目尻のあたりは無事だったはずだ。顔を横に向けねばならず、苦労した覚えがある。
 指先が震えた。どうして広がった。剥がしたからか、それとも時間と共に広かっていくのか。鱗に触れた指先が震えていた。
 どうしてこんなことになっているのか、理解ができなかった。毒か病か。
 呪いという言葉が頭に浮かんだ。気を失う前に、あの龍の声が体を刺し貫いた。その結果がこれなのではないか。
 そのひらめきは確信だった。
 しかし、因果関係を理解したとして、体に起こった異常を解決する手段を知らなかった。
 原因を龍だと定めたところで、それはすでに死んでいる。末代まで呪ってやるという言葉がある。もしこれが魂と引き換えに萬木に刻まれた呪いだった場合、どうやったら晴らすことができるのだろう。
 妖怪を専門にした連中に、その手の事柄の専門家もいるのだろうか。いずれにせよ、すぐに今いる場所から離れて人の領域に戻りたかった。
 山中の只中で人はあまりにも無力だ。
 周囲の山が、居場所を奪って押し潰してくるような気がした。