syanpon
2025-10-16 09:09:33
2066文字
Public
 

「そういうとこも好き」

行商√
オトスバ

 この世には正解のない物事が多すぎる。
 恋愛も右に同じく、好意の伝え方というものは人それぞれ、生き物それぞれである。
 同じ「好き」という言葉一つにしたってその二文字が秘める意味は多種多様だ。

「今日も愛してるぜオットー!」
 
 そうしてオットー・スーウェンはこの掛け値なしに伝えられるナツキスバルの「好き」に頭を悩ませていた。

「おはようオットー今日も好きだぜ」
「おはようございますナツキさん。後ろの言葉はいりませんけど」
「はぁ!? 相棒からのあいらぶゆーくらい素直に受け取っとけよな」
「あんたのそれは押し売りでしょうが!」

 はいはい、と頭を掻いて背を向ける悩みの種を見送ってオットーは大きくため息をつき愛竜のブラッシングをはじめる。
 朝起きた時、食事の時、お礼を言った時など些細な事柄に絡めてスバルはオットーに「好き」をぶつけてきていた。そしてそれを適当にあしらうのがもはや日課となってしまっている。なんなら挨拶よりも好きと言われる回数の方が多い。
 
 スバルがオットーに伝えてくる「好き」にはオットーに対する真っ直ぐな好意しか感じられない。人から好意を持たれることは悪くない。むしろ商人なんてものをやっている以上持たれる印象は良ければ良いほどいい。

「でもなあ」

 ただ、その裏表のない「好き」に対して行動がチグハグなのだ。あの人「おはよう今日もいい天気だね」くらいのノリで好きと言ってくる。

 好きにも種類がある。多種多様だ。
 そして言葉に秘められた感情がわかったとしても自分に向けられたそれが友愛なのか恋愛なのかは判別がつきにくい。なにせ初恋は猫で友人は好き好き言ってくる彼がはじめてなのだ。自分を中心としてみた判断材料が少なすぎる。あと普通に鬱陶しいタイミングで言ってくるから余計に紛らわしい。

「困ったなあ……
「困りましたねえ」
「困りますよね……? ん? フルフー?」

 オットーの呟きに困ったような声をあげた相棒にまた一つオットーは首を傾げた。

 ***

「あのさぁオットー」
「はい」
「俺お前に好きっていうのやめるわ」
「え」

 ぼちゃりとオットーのスプーンから野菜が落ちてスープにもどっていく。それを目にもとめずにスバルは頬をかいて独り言のように淡々と話し続ける。

「いや、なんかお前に世話になってばっかなのに好き好き言ってめんどくさがらせるのも悪いなって最近思い始めて。いや、今更かよ! ってツッコミはナシね?」
「え、と」
「お前とはいい友達でいたいしこれからも商売続けていきたいしさ!」
「う……
「好きでもない野郎に告白されんの嫌だったろ? ごめんな」
「い!」
「い?」
「嫌では!! な、い、です……嫌では……

 だんだんと言葉が尻すぼみになっていく。自分の言った言葉と今までの言動が一致しなくてその不自然さに居た堪れなくなりテーブルに額を預ける。目測誤ってゴンなんて鈍い音が響いた。顔も熱いし額も痛い。

 沈黙してしまったオットーの顔を見ようとスバルがオットーの前髪を一房摘んで横にかけてくる。その指先を摘んで捕まえるとつむじのあたりをくるくると指が回ってくすぐられた。

「でもお前、俺のこと好きじゃないだろ」
……嫌いでもないです」
「好きって言われるたびめんどくさそうだった」
「あんたのタイミングが悪すぎるのもあります」
……じゃ、好き?」
…………黙秘、します」
「じゃあさ、俺が他の人好きになってもいーい?」

 オットーはガバリと顔を上げて立ち上がる。指先から手首に握り変えてぐいと自分の胸元に手のひらを押しつける。そのままぎゅっと目を閉じたままオットーは叫んだ。

「あ、あんたが僕のこと好きって言ったくせに!!!」

 確かに好きと返してこなかったのは自分だけどスバルが他の生き物に自分に向けていたような好意を向けるというのは話が違う気がするのだ。スバルのオットーに向けた好きはそんなに軽いものだったのかとここにテーブルがなければ肩を揺さぶって問い詰めていたかもしれない。
 齢20の純朴な青年の心を弄ぶとはどういう領分だと自分のことを棚に上げて目の前の少年を睨みつけてやろうと目を開く。

「僕に散々好きって言って今更乗り換えようだなんて__」
 
 ――そこには唇を震わせてにやつきを誤魔化そうとしているナツキスバルの姿があって。

 オットーが言葉を発しようとする前にスバルが笑い混じりに口を開く。

「お前、俺のことやっぱ好きじゃない?」
「好きかは知りませんよ! ……ただ」

 ヤケクソになって冷めてしまいそうなスープをかき込む。「おーおー、むせるぞオットー」と野次を飛ばしてくる声にも揶揄いが滲んでいて大変ムカつく。両手を合わせてごちそうさまを唱えてからオットーはスバルをびしりと指差した。
 
「あのねえ、あんたは一生僕に好きって言ってればいいんですよ!」
「オットーさん、可愛いとこあるのね」