2025-10-16 05:18:27
15441文字
Public Sigma
 

過去編 Side:S 01



Erato Alpheccaは楽し気に鼻歌を歌いながら掃除をしている。
Phalaena Minorはノックもせず、ガチャッと扉を開けた。
Phalaena Minor : せんせい?ちょっと欲しい本ができたんです……けど……
Erato Alphecca : あ、おかえ――……
Erato Alphecca : ……
Phalaena Minor : ………
Erato Alphecca : ……え、だれ?
Phalaena Minorはパタン、と無言で扉を閉めた。
Phalaena Minor : …………???
Phalaena Minorは確認するようにもう一度中を覗いた。
Erato Alphecca : ……???
Phalaena Minor : ―――
Phalaena Minor : 不審者だ!不審者ですよぅ!!せ、せせせせせんせ、せんせー!!
Erato Alphecca : えっ!不審者!?どこ!?
Phalaena Minor : 鏡見てくださいよぅ!よぉく映ってますからぁ!
Erato Alphecca : 鏡!?
Erato Alpheccaは懐から手鏡を取り出し覗き込んでちょっと前髪を整える。
Erato Alpheccaはぱたん、と手鏡を閉じて懐におさめた。
Phalaena Minor : ………分かりました?
Erato Alphecca : わかんない。
Phalaena Minorはクソデカため息を吐いた。
Erato Alphecca : それでどちらさま?
Phalaena Minor : それはこっちのセリフなんですけどぉ、まあいいです。ここの部屋を使ってるはず?の人の弟子ってことになってる者ですが。あなたは?
Erato Alphecca : 弟子?弟子……
Erato Alpheccaは少しだけ納得したように頷いた。
Erato Alphecca : あたしは話すとちょっと長くなるのだけど……簡潔に言うとダーリンの好きなひと、かな
Phalaena Minor : せんせいの好きな人?せんせい、そういう色恋には興味ないって言うか、めんどくさいって言ってたと思うんですけど
Erato Alphecca : ダーリンそういうとこあるから
Erato Alpheccaはよいしょと腰を下ろした。
Phalaena Minor : へぇ………
Phalaena Minorは未だに廊下から部屋の中中を覗いている。
Erato Alphecca : 入らないの?
Phalaena Minor : ……いえ、ちょっと突然のことに頭が追い付いていないもので
Erato Alphecca : お弟子さんなんでしょう?あたし、最近のダーリンのことはあんまりわからないの。よかったら聞かせてほしいなあ。
Phalaena Minorは「それはつまり長らく連絡を取っていないということで、好きな相手にすることではないのでは?」と思っている。
Erato Alpheccaは首を傾げた。
Erato Alphecca : 師匠のむかしの話とか聞きたくない?
Phalaena Minor : あ、それには興味あります。せんせいいじりのネタになりそう
Erato Alpheccaは置いてあった珈琲を勝手に淹れている
Phalaena Minor : ……とりあえず、詳しい関係と用件だけ先に聞かせてもらえるのなら話してもいいですが
Erato Alphecca : 用件っていっても、大した事じゃないよう。会いに来ただけ……あ、お砂糖ない
Erato Alpheccaはこんなこともあろうかとと傍らの鞄から砂糖を取り出して用意している
Phalaena Minorはめっちゃ寛いでると思いながら大きなため息を吐き、観念したように部屋に入った。どうせそのうち帰って来るやろ。
Erato AlpheccaはPhalaena MinorValeforの前にもカップを差し出した。
Phalaena Minorはカップを受け取り、軽く手を当てている。
Erato Alphecca : にしても、お弟子さんかあ……男の人は弟子をとるものだけど別の種族で、しかも女の子
Erato AlpheccaはじっとPhalaena MinorValeforを見ている。女の子だよな
Phalaena Minorは Erato Alphecca の視線に気づくと、ぽっと顔を赤らめながらもじもじとし始めた。
Phalaena Minor : じ、実はわたしこんな見た目ですが男の子でぇ
Erato Alphecca : え、やっぱり?
Phalaena Minorは「騙されるんだ」と少し複雑な気分になった。やっぱりってなんだ。
Phalaena Minor : せんせいは優しいので、行き倒れていたところを拾ってくれて。種族が違ってもこうしていろいろ教えてくれているんです……
Erato Alphecca : ………。そっかあ
Erato Alpheccaは嬉しそうに微笑んだ。納得したようだ。
Erato Alphecca : そういうとこ、あんまり変わらないんだね。
Phalaena Minor : 昔からあんな風に優しい人なんですか?
Erato Alphecca : 優しいよう。当たり前みたいな顔していつも助けてくれて。でも、抱えなくていい責任まで抱え込んじゃって、だからよく疲れちゃうんだ。
Erato Alpheccaは珈琲に砂糖をたっぷり入れて混ぜている。
Phalaena Minorは「甘そう」と思いながらチラッとカップを見た。
Phalaena Minor : ……疲れちゃう?今はあんまりそういうふうには見えないですけど。昔はどんな感じだったんですか?
Erato Alpheccaはぱちぱちと目を瞬かせた。
Erato Alphecca : 昔はねえダルマスカを守る騎士をしていてね。すっごく強くて優しくて……飄々とした感じだけど、仕事熱心だったなあ。
Phalaena Minor : 騎士仕事熱心
Phalaena Minorは「似合わない言葉が出てきたな」と思いながら話に耳を傾けている。実は人違いだったりしない
Erato Alphecca : あたしのことも馬車が魔物に襲われてたところを助けてくれて、それが縁だったな。
Erato Alpheccaは懐かしいなと思いながら珈琲に口を付けた。
Phalaena Minor : へぇ。じゃあ、恋人さん?はその時に恋しちゃったんですか?
Erato Alpheccaはぽと少し顔を赤らめた。
Erato Alphecca : ふふふ、照れ臭いなあ。
Phalaena Minor : 恋に落ちるとはよく言ったものですね。そんな一瞬でだなんて
Erato Alphecca : だって!本当にかっこよかったんだよ!一瞬で魔物倒しちゃって、優しく助け起こしてもくれてえ!惚れない人いる!?
Erato Alphecca : まあ、その時は恋人いるって知ったから、諦めたんだけどぉ
Phalaena Minor : あ、その時他の人がいたんですね。なんだかんだそういう経験多いんだ
Erato Alphecca : 多いと思うよぅモテモテだもん
Erato Alpheccaはしょもと顔をしわしわにした。
Phalaena Minor : よれよれしわしわのかなしいおじさんからはイメージできない話です。ぴちぴちだったんだなぁ
Erato Alphecca : しわしわなの
Phalaena Minor : 顔が。まあでも、見た目に出始めるのはあと10年くらいかかるんでしたっけ
Erato Alphecca : ん-そうねえ、180とか200とかダーリンまだ170だから
Erato Alpheccaは懐から昔の似顔絵を取り出して見せる。髪型と服以外は変わらないが、心なしかシャキっとしている。
Phalaena Minorは似顔絵を覗き込んだ。
Phalaena Minor : わぁ~、よれてない
Erato Alphecca : よれてるの
Phalaena Minor : 全体的に
Erato Alphecca : うーん………イメージつきにくいけどぉ
Erato Alpheccaは100年以上経ってるしなぁとちょっと納得はしている。
Phalaena Minor : そのうち帰ってくるでしょうし、実際に見たらわかるんじゃないですか?この似顔絵の雰囲気は期待しない方が良いと思いますよぉ
Erato Alphecca : そっかぁ。そうする。
Erato Alpheccaは似顔絵を大事にしまった
Erato Alphecca : 最近のダーリン、どんな感じなの?
Phalaena Minor : うぅん。お酒飲んで、寝て、お酒飲んで、ごはん食べに行って、たまに仕事して、寝る
Erato Alphecca : ………
Erato Alpheccaはきょとんと目を見開いてゆっくり首を傾げた。
Erato Alphecca : 寝てるの!?
Phalaena Minor : 寝てます。起きてる時間の方が少ない日もそこそこあります
Erato Alphecca : うそだぁ!
Phalaena Minor : こんなことで嘘なんてつきませんよぅ、怠惰、ここに極まれり、です
Erato Alphecca : えー!仕事は!?何してるの!?
Phalaena Minor : 気が向いた時に討伐系の依頼をチラホラ受けてって感じでしょうか
Erato Alphecca : あ、やっぱ討伐系なんだ
Erato Alpheccaはちょっと納得した。
Phalaena Minor : まあ、基本はパワータイプでしょうからね。それでも受けるのはそこそこの依頼ですけど
Erato Alphecca : ……仕事に追われたり頼み事に追われたりしてないの
Phalaena Minor : 全く……むしろ意地でも動かないって言うか……
Erato Alphecca : うそお
Phalaena Minor : わたしとしてはもうちょっと動いてほしいものです。動く時は動きますけど
Erato Alphecca : どんな時?
Phalaena Minor : いよいよ路銀が底を尽きそうってなったら
Erato Alphecca : …………えぇ……
Erato Alpheccaはイメージの落差に混乱している。同じ人か
Phalaena Minor : 真面目で責任感の強いかっこいい騎士、って感じのせんせいの方がイメージできないです。誰ですか?それ
Erato Alphecca : えもっかい似顔絵みる
Phalaena Minor : 遠慮しときまぁす
Erato Alpheccaは似顔絵コレクションを取り出しかけて戻した。
Erato Alphecca : ……ん-でも、そっか悪い変化じゃないのかな。
Phalaena Minor : 今の話にいいところありました?
Erato Alphecca : だって、責任を手放せるようになった、ってことでしょう?
Erato Alphecca : 昔はそれができなかったから
Phalaena Minor : 責任を手放すことの良し悪しはまあ、一旦置いておいて。昔はどんな感じだったんです?とんでもないお人好しだったとか
Erato Alphecca : とんでもないって程でもないけど……でも、立場とか責任とか、そういうのはきっちりこなそうとする人だったよ。
Phalaena Minor : へぇ。じゃあ、少なくともサボったりするタイプではなかったんですね
Erato Alphecca : 全然!むしろいつもフォローしてくれるって部下の人たちも言っててぇ逆に仕事抱えちゃうっていうか
Erato Alphecca : あんまり寝れてないときもあって、心配でぇ
Phalaena Minor : あのせんせいがワーカーホリック
Phalaena Minorは信じられないと言いたげな表情を浮かべている。
Erato Alphecca : あ、でもお酒は好きだったよ。仕事終わりの一杯が格別なんだ~~~って、部下の人たちと一緒によく酒場に来てくれてた。
Phalaena Minor : これで実はお酒が嫌いでしたなんて言われたら別人だと断言してしまうところでした
Erato Alphecca : お酒は好きなままで安心したよぅ
Phalaena Minor : でも、どうしてそんな仕事人間が一日中ゴロゴロしてるダメ人間に……
Erato Alphecca : ………。やっぱり、つかれちゃったのかな。
Erato Alpheccaは少し悲し気に目を伏せた。
Phalaena Minor : なにか心当たりが?
Erato Alphecca : ……うん急に退役しちゃって、行方不明になっちゃってあたしもその時は喧嘩しちゃって離れてたから後から知ったんだけど
Phalaena Minorは「喧嘩なんて珍しいな」と思いながら話に耳を傾けている。
Erato Alphecca : 妖異を、討伐しにいってね。あの人しか帰ってこなかったんだって。仲間もみんな、死んじゃったって。
Phalaena Minor : ………………妖異
Erato Alphecca : ……でもね、おかしいんだって。妖異の死骸なんてなくて、仲間の死体はほとんどが武器で斬り殺されたような傷で、だから変な噂、いっぱいあって
Phalaena Minor : ……そもそも妖異なんていなくて、誰かの罠だったとか、せんせいしか生き残っていないなら、せんせいが仲間を斬り殺したんだ、とか。そんなところですか?
Erato Alpheccaはこくりと頷いた。
Erato Alphecca : ヴォイドクラックの調査に行ったから、妖異がいたのはきっと本当だと思うんだけど
Phalaena Minor : ……そうですか。まあ、知能の高い妖異なら、そんな状況を作り出すくらいわけないでしょうね。
Erato Alphecca : ……。詳しいの?
Phalaena Minor : ……えぇ、専門分野ですので。それなりに。
Erato Alphecca : 専門……そっか。妖異学者さん、ってとこなのかな。
Phalaena Minor : 妖異学者とも、ちょっと違うのですが……
Erato Alpheccaは首を傾げた。
Phalaena Minorは正体を明かすべきか、少し悩むように目を伏せた。
Erato Alphecca : ともかく、詳しいんだね。
Erato Alpheccaは難しい内容なのかなということで納得しようとしているようだ。
Phalaena Minor : えぇ、とりあえず詳しいです。それなりに。
Erato Alphecca : そっか。だから君と一緒にいるのも、あるのかな。
Phalaena Minor : ……どうでしょう。そういうわけでもないと思いますけど正直、一緒にいる理由はわたしにも分からないので。
Erato Alphecca : ……何も言ってない?
Phalaena Minor : 全く。拾った理由も自分のことも何も言わない人ですので
Erato Alphecca : ……そういうとこは相変わらずだなあ。
Phalaena Minor : 困ったものです。……本当に
Erato Alphecca : ……でも、ちょっとだけ安心した。
Phalaena Minor : 安心する要素、ありました?
Erato Alphecca : ほら、責任感の強い人だから。仲間を死なせてしまった罪悪感とか、復讐とか考えて、今も縛られてるんじゃないか、って。
Phalaena Minor : ……そこまでは分かりません。抱えているからこそ何も気にしないような振舞い方をしている可能性もありますし、本当にある程度割り切れてるのかもしれませんし。
Erato Alphecca : うん。そうかも。ほんとは色々考えてるのかもしれないけど……でも、少なくとも、気を抜いた生き方はできてるみたいだから。
Erato Alphecca : 復讐考えてる人って、もっとギラギラしてるものだと思うし
Phalaena Minor : ……本当にそうなら、いいのですが
Phalaena Minorは「いっそ復讐でも考えていてくれたら納得いくんだけどな」と思いながらそっと目を反らした。
Erato Alphecca : だって、そんなに器用な人じゃないもの。
Phalaena Minor : ……隠すのは、うまそうに見えますけど
Erato Alphecca : 何も言わないだけならね。
Phalaena Minor : ……いまいち、人の感情を読み取るのは苦手です。もしかしたら、あなたが見ればわかることもあるのかもしれませんが。
Erato Alphecca : あたしもなんでもわかるわけじゃないけどね。顔色伺い過ぎて、思い込んで動いて、それで喧嘩になっちゃったんだし。
Phalaena Minor : ……いったい何が原因で喧嘩なんてしたんです?あんまり怒りませんよね
Erato Alphecca : ………
Erato Alpheccaはちょっと気まずそうに目を逸らした。
Sigma Siegfriedはいつもの調子で扉を開けて入ってくる……
Phalaena Minor : ん。せんせい
Erato Alphecca : ……あ。
Sigma Siegfried : …………
Phalaena Minorはピコッと耳を反応させ、 Sigma SiegfriedValefor の方を見た。はて、何か様子が。
Sigma Siegfriedは状況を視認し……数秒硬直したのちっと青ざめた。
Sigma Siegfried : ……え。……え?
Phalaena Minor : ……せんせい?
Erato Alphecca : ダーリン!遅いじゃない!
Sigma Siegfried : 待て、待て待て待て……え、なんでいんの???
Phalaena Minorは理解した。これが修羅場。
Sigma Siegfriedは逃げようと後ろ手に扉に手をかける。
Erato Alpheccaはダンッと扉に手をついた。
Sigma Siegfried : っひ
Phalaena Minorはソファに乗り上げ、後ろの修羅場を見ている。わぁ
Sigma Siegfried : ちょエナ?なんで追い出さなかった???不審者だよな???
Phalaena Minor : 追い出そうとしたんですけどぉ、口じゃダメそうでしたしぃ、せんせいみたいに力づくも難しいんですよぉ。かよわいので
Sigma Siegfried : えぇ………
Phalaena Minorは「本人に不審者の自覚がなかったもので」と付け足した。
Sigma Siegfriedはまあそうだろうけど……と諦めた顔をした。
Erato Alphecca : この!130年間!何してたの!ずっと探してたんだよ!
Phalaena Minor : 130年???
Sigma Siegfried : 待って、別れたよな??
Phalaena Minor : はい?
Erato Alphecca : あたしは別れるって言ってない!
Phalaena Minor : なんという暴論……
Phalaena Minorはかわいそうなものを見るような目で Sigma SiegfriedValefor を見た。
Sigma Siegfriedは心底困惑している。どうしよう。助けて。
Phalaena Minor : 本当に何があったんです?ちょうどその喧嘩?別れ話?の原因の話を聞こうとしてたところなんですけどぉ
Sigma Siegfried : え、何普通に話してんの?不審者だが?
Erato Alphecca : 確かにちょっとやりすぎたかもしれないけどぉ!ごめんねって言ったもん!ダーリン守るためにやったんだもん!
Phalaena Minor : どこの誰でどうしてここにいてどんな関係性だったのか、聞くには普通に話すしかないじゃないですかぁ
Sigma Siegfried : ままァうんそれもそうなんだが
Sigma Siegfriedは余計なこと言ってないよなという目でErato Alpheccaをちら、と見た。
Phalaena Minor : いったい何をされちゃったんですかぁ?目の前でキャットファイトとか?
Sigma Siegfried : ………うん一旦落ち着いて話そか、な?
Sigma SiegfriedはErato Alpheccaを席に誘導するようにそっと押した。
Erato Alphecca : ……
Erato Alpheccaは先に行けというように顎でくいっと室内を示した。
Sigma Siegfried : ……はい
Phalaena Minor : やだ、せんせい尻に敷かれてるじゃないですか
Sigma Siegfried : ……
Sigma Siegfriedは頭を抱えた。
Phalaena Minor : 後で胃薬くらいはあげますね
Sigma Siegfried : ……うん
Erato Alphecca : ……喧嘩の原因だけど
Sigma Siegfried : ……喧嘩っつか
Phalaena Minor : はい、聞きます。
Erato Alphecca : ……ダーリンのこと傷つけるやつは排除するようにしてたんだけどバレちゃって
Phalaena Minor : …………
Phalaena Minorは「わたしも排除されたらどうしよう」と無言で Sigma SiegfriedValefor の後ろに隠れた。
Erato Alphecca : ……ちょっと、大事になっちゃったからぁ
Sigma Siegfried : ……軽傷6名行方不明者3名死者1名なァ
Phalaena Minor : ヒッ
Erato Alphecca : ほら、ダーリン騎士だししょっぴいたりしたくないから、ちょっと距離おこ、って
Sigma Siegfried : ……
Sigma Siegfriedはそんなやさしい言い方したっけなぁと苦い記憶を辿っている。
Phalaena Minor : ……じ、実際はなんて
Sigma Siegfried : 付き合えねえから無理っつった
Phalaena Minor : …………
Phalaena Minorは認識の差に絶句している。
Erato Alphecca : ……だって、ダーリンが困ったり傷ついたりしてるの見てられなくてぇ
Phalaena Minor : ・・と、当時のせんせいがどうだったかは分からないですけど。あ、ある程度相手を信じて見守るのも一つの信頼の証ですよねね?
Phalaena Minorは「なので帰っていいですか」と言いたげな目で Sigma SiegfriedValefor を見た。
Sigma Siegfried : ………。一万歩譲って守ってくれてたんだとしてもよォ勝手に合鍵作ったりゴミ漁って個人情報特定すんのは
Phalaena Minor : …………
Erato Alphecca : ゴミは情報の宝庫だから
Phalaena Minorは「えぇまだそんなエピソードあるの?」とドン引きしている。
Sigma Siegfried : 私物盗むのも犯罪だかんなァ
Erato Alphecca : お金は振り込んだよ?
Sigma Siegfried : ちがう
Sigma Siegfried : なんで歯ブラシが一万ギルになってかえってくんだよ
Phalaena Minor : ………???
Erato Alphecca : 付加価値
Phalaena Minor : ……これ、なんの話でしたっけ。闇市
Erato Alphecca : あたしとダーリンの蜜月
Phalaena Minor : 良好な関係とは程遠いですよねぇ!
Erato Alphecca : 愛し合ってたもん
Sigma Siegfried : ………まあ、うん、数か月な
Phalaena Minor : わたしに愛はまだ早すぎます。だってほら、わたしまだ14ちゃいのかわいい子供ですので♡大人な話は大人のお二人でぇ
Sigma Siegfried : いやもう別れてっから
Erato Alphecca : あたしは別れてない
Sigma Siegfriedはどうしようと頭を抱えた。
Phalaena Minor : たすけてモスぅ……
Sigma Siegfried : ……130年だぞ?一年も付き合ってねえ相手に今更何を
Erato Alphecca : 今更!今更って!
Erato Alpheccaはむすぅと頬を膨らませた。
Phalaena Minor : あ、あれ怒らせて本当に大丈夫なんですか
Phalaena Minorはこそこそっと Sigma SiegfriedValefor に耳打ちした。
Sigma Siegfried : っつってもなァ話合わせても面倒だし
Phalaena Minor : 行方不明者と死者を出したって考えると下手に刺激するのはちょっと。死にそうで怖いです。わたしが。
Sigma Siegfried : ………
Sigma Siegfriedはあながち否定できないなと目を伏せた。
Erato Alphecca : ずっとずっと心配してたのに!急にいなくなるほうが悪いんじゃない
Sigma Siegfried : ……
Erato Alphecca : ダーリンに傷ついてほしくなかったの!ずっとずっとしあわせでいてほしかったの!あたしはずっとそれだけを考えてたの!
Sigma Siegfried : ……う、ん
Sigma Siegfriedは困ったように頭を掻いた。
Phalaena Minorは「押されてる」と少し焦ったように必死に思考を巡らせている。
Phalaena Minor : なるほど、それなら、せんせいが今幸せだとしたらそれで満足ってことになりますよね。どうなんです?せんせ
Erato Alphecca : ……
Erato Alpheccaはじっと見ている。
Sigma Siegfried : ……うんえっとなァ
Erato Alphecca : しあわせ?
Sigma Siegfriedは少し目を逸らした。
Phalaena Minorは「とりあえず嘘でもいいですから一旦頷いといてくださいよ」とジトッとした目で Sigma SiegfriedValefor を見た。
Sigma Siegfried : 幸せっつかうん、まァそうね
Erato Alphecca : そういうとこ嘘つけないよね
Phalaena Minor : はっきりしてください。そういうところですよ。
Sigma Siegfried : ……待って
Sigma Siegfriedはなんで挟まれているんだと頭を抱えた。
Erato Alphecca : やっぱりあたしが必要?
Sigma Siegfried : ……ちがう
Phalaena Minorは「ほらぁ、躱しきれないじゃないですかぁ」とジトッとした目で Sigma SiegfriedValefor を見ている。
Sigma Siegfriedは深くため息を吐くと、少し真面目な顔をした。
Sigma Siegfried : 。今幸せかっつったらわかんねえよ。少なくとも、昔と比べちゃ山も谷もねえ生活だからなァ
Erato Alphecca : ……色んなことあって忙しそうだったもんね。いいこともわるいことも。
Sigma Siegfried : ……まァ
Sigma Siegfried : でも別に、今も悪かねえとは思ってるよ。少なくとも、お前に守ってもらわなくたって、自分の守り方くらい心得てんだ。
Erato Alphecca : ………
Sigma Siegfried : ……歳も取りゃ変わるもんでさ。平淡な時間でも、これはこれでよ。楽には生きてるよ。
Erato Alphecca : …………
Erato Alphecca : ……わかった。
Sigma Siegfried : だからおめぇさんとは――え?
Sigma Siegfriedは言いかけて二度見した。あっさり引き下がった……???
Phalaena Minorは様子を伺うように二人を交互に見ている。やったか
Erato Alphecca : ……なんとなくわかった。お弟子さんにも話聞いたし、根っこは変わってないけど、生き方は変わったんだなって。
Sigma Siegfried : ………。おう
Phalaena Minorはそっと目を反らした。やべ、話したのバレた。
Erato Alphecca : ……
Erato Alpheccaは少し複雑そうに目を伏せたのち、顔を上げて笑った。
Erato Alphecca : じゃあ……うん、別れよっか!
Sigma Siegfried : ……え。
Erato Alphecca : というか、元々そのために来たっていうか
Sigma Siegfried : ……???
Phalaena Minorは「じゃあさっきまでの暴れっぷりはいったい?」と困惑している。
Erato Alphecca : あたし好きな人できちゃってぇ……
Sigma Siegfried : ……お、おう
Erato Alphecca : でも、ほらダーリンのことも心配だったしぃ、一度様子みてからにしようかなって
Sigma Siegfriedはうまく飲み込めずに目を瞬かせている
Sigma Siegfried : それで130年?
Erato Alphecca : 好きな人できたのは最近30年くらいかな……
Sigma Siegfried : ………。そ、そか良かったな
Phalaena Minor : 探してる途中で好きな人が
Erato Alphecca : うん……優しくてつよくて
Erato Alpheccaはえへへと照れ臭そうに笑った。
Phalaena Minorha
Phalaena Minorは「次の人も大変そうだな」と遠い目をした。
Sigma Siegfried : ……様子見ってその為だけにわざわざ……いっぺん別れてんだから忘れちまえばよかったのに
Erato Alphecca : ……だって。
Erato Alphecca : ……好きとかじゃなくても。命の恩人が、あたしを幸せにしてくれた人が、幸せじゃないのは嫌だもん。
Sigma Siegfried : ………
Erato Alphecca : そういうわけだからゴメンね、ダーリン。寄り戻せなくってぇ
Sigma Siegfried : ……言ってねえけど
Phalaena Minor : せんせい失恋って辛いですね。あとで慰めてあげます♡
Erato Alphecca : それじゃ、待たせてるから行くね。手紙書くねえ。
Erato Alpheccaはひらひらと手を振って去っていった
Sigma Siegfried : ……………
Sigma Siegfriedは呆然と見送った
Phalaena Minor : 嵐のようでしたね
Sigma Siegfried : ……なんだったの?アレ
Phalaena Minor : わたしに聞かないでください。
Sigma Siegfried : ……うん
Phalaena Minor : なんでそんなに覇気がないんですか。とりあえず丸く収まったんですから喜んだらどうです?それとも未練でも?
Sigma Siegfried : そういうんじゃねえよ………
Sigma Siegfried : ……なんで俺がフられた形になってんだよ
Phalaena Minor : 失恋お疲れさまです♡胃薬いります?
Sigma Siegfried : ……うん
Phalaena Minor : じゃあモスに
Sigma Siegfried : ……納得いかねえ
Sigma Siegfriedは大きくため息をついた。
Phalaena Minorはパンパンッと軽く手を叩いた。しばらくするとモスが薬が入った袋を加えて窓に激突したようだ
Phalaena Minor : ……
Sigma Siegfried : ……
Phalaena Minor : なにやってるんですか
Phalaena Minorは窓を開けてモスを拾い、軽く汚れを払った。
Phalaena Minorはぽいっと胃薬が入った袋を渡した。
Sigma Siegfried : おうどうも
Sigma Siegfriedは胃薬を水で流し込んだ。
Phalaena Minorは目を回しているモスを揉んでいる。
Sigma Siegfried : ……痛かったなァ。可哀相に
Sigma Siegfriedは手を伸ばしてモスをいいこいいこした。
Phalaena Minor : これは普通にどんくさいだけだと思いますけど……
Sigma Siegfried : ……おめぇさんが元々どんくせえってことにならねえか?
Phalaena Minor : それは……。そうだったかな……
Phalaena Minorはどうだったっけと昔の自分を思い返している。
Sigma Siegfried : ちっとくらいなら可愛いもんだけどなァ
Phalaena Minor : たまのうっかりくらいはあったかもしれませんけど
Sigma Siegfried : そりゃ今もあるじゃねえか
Phalaena Minor : はぁ?わたしがいつうっかりしたんです?
Sigma Siegfried : え……花の毒浴びた時とか
Phalaena Minor : …………
Phalaena Minorはぽーんっと軽く Sigma SiegfriedValefor の顔面にモスを投げた。
Sigma Siegfried : っと
Sigma Siegfriedはモスをキャッチしてそのままもふもふと撫でている。
Phalaena Minor : ま、わたしはそうそううっかりなんてしませんので
Phalaena Minorはあからさまに視線を反らした。
Sigma Siegfried : ……そうかぃ。そういうことにしといたらァ
Phalaena Minor : せんせいみたいにうっかり執着されて大変なことになったりもしませんので
Sigma Siegfried : …………。あれはうっかりっつか
Phalaena Minor : ま、聞いた感じ半分事故とも言えますが
Sigma Siegfried : ……やりようあったかもしんねえけど
Sigma Siegfriedは軽くため息を吐きつつ、のそのそとベッドに横になった。
Phalaena Minor : 人間の恐ろしさの一端を見た気がします
Sigma Siegfried : ……ありゃ特例だろ。俺に責任がねえとも言わねえけどよ
Phalaena Minor : ……さ、流石にもう、ああいう特例が起きそうな人に心当たりとか。ありませんよね?
Sigma Siegfried : ………流石にもうねえよ。知り合いも大していねえしな。
Sigma Siegfriedはもぞもぞと背を向けた。
Phalaena Minor : なら良かったです。あの恐怖は一度で十分ですし
Sigma Siegfried : おう、悪い夢だと思って忘れちまえ。
Phalaena Minor : そうしまーす。寝て忘れちゃいましょう。
Phalaena Minor : 戻りますよ、モス。
Phalaena Minorはパンパンッと軽く手を叩き、モスを呼び寄せた。
Sigma Siegfried : ん。おやすみ。
Phalaena Minor : はい、おやすみなさい。せんせい