wawan78
2025-10-15 22:33:34
2924文字
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夜食には甘すぎる

ネド主 主は、なんだろ、💉主かな

名前名前 装備の手入れをしていると、それなりの時間で小腹が空いていたことに気付いた。深夜を過ぎた今は同居人も夢の中、……まあひとりで何か食べたところで文句も言われまい。寝ているところを起こすほうがよくないだろう。
 というわけで冷蔵庫を覗いた。嗜好品や軽食を入れてあり、いつでも気軽に漁れるように設置したものである。何度かあいつの菓子を食べてしまってから、絶対に食べられたくないものにはデカデカと名前が書かれるようになった。それでも食べたらどうなるのか非常に興味があるが、別に加虐したいわけではない。関係悪化の懸念を差し置いてまでやるべきではないことだ。
 めぼしいもの(と、ドルネドが自由にできるもの)がないな、と冷蔵庫を閉めると、上のカゴに見慣れない袋が入っているのに目がとまった。

……、パンケーキ、ミックス……?」

 袋を手に取り裏面を読んでみる。材料を混ぜて焼くだけで、手軽に店で提供されるようなパンケーキが作れる、らしい。
 普段ドルネドは自分で料理をしなかった。美味はプロが作るものを享受するのがいちばん確実だからだ。しかし、簡単に再現できるのなら? 自分も楽しめるし、一度に二人分作れるらしいから、起きてきたあいつに食べさせることもできる。悪くない。料理をしないとはいえ、仕事で僻地に出かけた時などは自給自足をする程度は心得ている。混ぜて焼くだけならできるだろう。軽い気持ちで普段湯を沸かすくらいしか使われない、クッキングヒーターの前に立った。
 これを買ってあるということは。棚を探ると案の定、調理器具一式が揃えられていた。使うなとは書いてないし聞いてもいない。冷蔵庫をもう一度見てみると、ミルクと卵もあった。いいじゃないか。こっちも名前は書いてないので使って良いとする。
 袋を開けると小袋がふたつ、中に真っ白できめ細やかな粉が詰まっていた。この小袋ひとつで2人前らしい。わかりやすくて良い。ドルネドのように、普段キッチンに立たない者向けの商品なのだろう。
 まずは卵とミルクを混ぜる。目玉焼きくらいなら焼くので卵の扱いは慣れている。片手で割ると透明な白身と、ぷるりとオレンジ味の濃い黄身がボウルに滑り出た。まるまると黄身にハリがあり、鮮度が高いことを伺わせる。この世界だと……星見鶏(星屑を主な餌とする鶏。殻に細かい星のきらめきが散っている)あたりの卵だろう。安価で栄養価が高く、庶民は庭でも飼っている。
 軽量カップでミルクをはかり、卵を落としたボウルに注ぐ。瓶には草花を身に着けた牛が踊る絵が描かれており、踊り牛(草花をドレスのように身に纏って雌雄ペアで踊る牛。雌の機嫌が良いと出産経験がなくても搾乳可能)のミルクであることはすぐにわかった。
 袋の裏をよく読むが、混ぜ具合までは書いていない。大抵こういうものは均等になるまで混ぜるのが定石であろう。であればと泡立て器で黄身と白身を切りながら混ぜていく。ややコシの強い卵だったが、集中的に潰すとほどよくミルクと混じり合い、薄黄色の液体になる。
 あまり自分では頼まない種類の料理だが、同居人はよく食べていた。そういえば、パンケーキはいつもこの薄黄色をしている。卵の色だったのか、となんの役にも立たない気付きを得た。
 次に、粉を入れる。適当に混ぜてもダマにならないそうだ。成分表示を見るといろいろ添加物が記載されていた。プロの腕は添加物によって代替えが可能なわけか。面白い発見だ。感心しながら袋の口を切って逆さにし、ドサッとボウルに白い粉が山となる。若干細かい粉塵が立ち上ったがすぐおさまった。生身なら咳き込んでいたかもしれない。
 零さないように注意しながらぐりぐりとかき混ぜていく。なるほど、確かに特に気をつけなくてもダマにならない。とろりとした薄黄色の液体は、甘い香りを放っていて魅力的だ。だがこんなものをそのまま口にしたら腹を壊すのは周知の事実。また袋の裏面に書いてあるとおり、薄くバターをフライパンに塗って熱し、ほどよいところでレードルですくいとって、生地を流し込んだ。レードルの縁から流れ出た生地は一瞬広がったあと細く繊細に落ちていき、またフライパンの表面に円状に広がっていく。粘土のある甘い香りの生地、中々官能的な光景である。うまく丸く広げられると楽しい。やっているのがドルネドというのがなんとも雰囲気のおかしなことになっているわけだが。
 生地は注ぐのをやめるとすぐに縁からかわいていく。数分待てばやがて表面に細かな気泡がふつふつと湧き出した。
 あと少ししたら裏返そうというところで、背後から足音が近付いてくる。名前だった。眠そうな目をこすりながら、ぼうっと珍しくキッチンに立つドルネドを視界におさめ、理解しようとしている。……不釣り合いなことは認めよう。

……
……
……
……パンケーキ」
「ああ、袋があったのでな」
……焦げます……よ」
「む? そうだった」

 急いでフライ返しを滑り込ませ、さっとひっくり返す。やや黒いか。まあ生焼けよりはマシだろうし、香ばしいのも悪くないだろう。流石に焼き加減はプロ並みとはいかない。
 名前はゆらゆらとドルネドの横にやってきて、しばらく一緒にフライパンを見ていた。下から生地がゆっくりと持ち上がり、膨らんでいく。膨張が止まったところで皿に乗せると、店で提供されるものと全く同じ……とはいかないまでも、それに近い形状には出来上がった。

「できるものだな」
……
……
……
……ほら」

 皿にパンケーキが乗っても半分眠ったままらしい。ぼうっと見つめるものがなんなのかよくわかっていないのではないか。手で端をむしって口元に持っていくと、無抵抗に唇が開かれた。中に入れてやると食いついて、指先の先端までくわえられてしまう。そっちは美味くないだろうに。

……
「どうだ? 書いてある通りに作ったから、間違いはないはずだが」
……
……
……、おいひ」

 少しは目が覚めたのだろうか。普段の澄ました顔とはまるで違う、妙に幼く見えるほどふにゃあとした、骨が抜けたかのような笑顔を向けた。
 ドルネドは一口も食べていないのに、すでに甘いものはいらない気になってくる。

「シロップ、買ってあります」
「棚か?」
「あと、お茶……いれ……

 立ったまま寝だしたので抱き止めた。焼きたては諦めてもらうとして、温め方を調べておこう。

……

 パンケーキいちまい、焼いただけであるものの。自分で食べるだけではなく、誰かのために作るのも、楽しみのひとつになり得るものか、と興味深い発見だった。手の込んだものは無理にしても、少しは練習してもいいかもしれない。普段なら辛口の評論家が、すぐそこにいるわけだし。

「残し……バター……
「明日の朝目覚めたらな」

 寝室に持っていくのもなんだかもったいない気がして、すぐそこのソファに寝かせた。もう一枚分生地はある、焼いてしまって、寝顔を眺めながらいただくとしよう。





(バターで焼くと焦げやすいよ)