匣舟
2025-10-15 16:23:10
2390文字
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そんな簡単にはあげないよ

ショートショートのいす乱(伊助乱)です。
泥酔乱といつもそれを介抱する伊助の話

 微睡む視界の中で自分をあきれながら呼んでいる声が聞こえて、ぱちぱちと目を開けた乱太郎が最初に捉えたのは伊助の顔だった。
「い、しゅけ……?」
あれ、起きちゃったの。乱太郎。」
 寝てくれてた方が僕的には有難かったんだけど。と言って呆れた顔をしつつも、乱太郎の頭を撫でている伊助の手が心地よくて乱太郎はふへへ〜。と間抜けな声を出していた。
 あれ、寝るまでなにをしてたんだっけ?と考えながら、ぼーっとしていると乱太郎。と自分の名前を彼に呼ばれる。
いしゅけ、なぁに?」
お酒、飲まないって約束したよね?」
 なんで飲んだの?といつの間にか笑顔で怒っている伊助の顔が乱太郎の視界に入っているが、酒で酔っているせいかなんで自分がこんな状態になっているのか、誰に飲まされたのか。いまの泥酔状態にある乱太郎はこの状態になる以前のことをあまり覚えてなくて曖昧な記憶しか持っていなかった。この無礼講の宴会は確か大きな忍務をは組全員で成功できたことで開かれたということしか覚えていない気がする。少しだけ痛む頭を抑えながら、乱太郎はふんふ〜ん。と即興の歌を口ずさみながら、伊助を見た。
「なんにも覚えてないの?」
うん?」
お酒、なんで飲んだのって聞いてるんだけど。」
 いつもの乱太郎ならばこうやって詰められた時、毎回土下座をする勢いで謝罪するのにお酒が入ると知能が一気に低下し、今のように気の抜けた返事しかできなくなる。
 伊助への返答になんでなんだろうね〜。わかんなぁい〜。と言いながら鼻歌を歌っている乱太郎にはぁ。とため息を零しながら伊助はまた彼の頭を撫で続ける。
「なんで、わたしのあたまなでるの〜?」
 もしかしてわたしがかわいいから〜?とひとりでキャッキャと笑っている乱太郎にそうだね、かわいいね〜。おまえは〜。と言いながら乱太郎の頭を撫で続けながら、いつの間にか伊助の後ろにいたきり丸に指令を飛ばした。
乱太郎に酒飲ませたのは団蔵だと思うよ。」
 さっきから若旦那のこと見ながら鼻歌歌ってるからね、多分だけど。乱太郎がこんなになるまで飲ませたのはいつもの如く庄ちゃんだからまあほっとくとして
「きり丸、若旦那の事頼んだ。」
任せとけ。」
 ちゃんと乱太郎のこと見とけよ?と言って未だに舞い上がって酒を飲み続けている団蔵の所へ行ったきり丸を見届けたあと、伊助はまた自分の膝に頭を乗せてにこにことこちらを見つめている乱太郎を見た。
「乱太郎、そんなに見られたら穴空いちゃうけど?」
「ふへへ〜、だってそこにいしゅけのかおがあるんだもん〜。」
 いつの間にかぺたぺたと自分の顔を触りながらまたへへへ〜。と笑っている乱太郎にもう好きにさせてあげることにした伊助は、自分の顔を乱太郎に触られながら、しばらくまた頭を撫で続けていたら疲れて眠くなってきたのか乱太郎の瞳がとろとろしているのが伊助の目に映った。段々と瞼が落ちてきた乱太郎を見て、伊助はそっと彼の瞼を覆ってやる。
「乱太郎、眠いなら寝な?」
「やだぁ、まだおしゃけのむ〜。」
「そんな感じじゃ飲めないってば。ほら、水だけ飲んで寝な?」
「やだぁみずのまない……。」
 ねぇ、いしゅけっ!おしゃけちょーらい!と上目遣いで自分のことを見つめてくる乱太郎に、はいお酒だよ〜。と言いながら水を手馴れた手つきで飲ませる伊助。うぅ、おしゃけじゃない〜。と首を左右に振って涙目になりながら駄々をこねる乱太郎だったが、徐々に瞼が落ちていき瞬く間に夢の世界へと行ってしまった。
「まったく。」
 毎回おまえのことを野郎どもから守るのに必死な僕に感謝して欲しいくらいだよ。と自分の膝の上ですやすやと眠っている乱太郎を見てそう思いながら、これぐらいは許されるだろうと乱太郎のおでこにいい夢が見れますように。と言ってキスを落とすと、見計らったように伊助の隣には組の頭脳であり、乱太郎を泥酔させた張本人である庄左ヱ門が立っていた。
乱太郎寝た?」
寝たよ。ご覧の通りにね。」
 寝ている乱太郎のくせっ毛の髪を撫でながら庄左ヱ門にそう言うと、伊助の隣に腰を下ろしてまじまじと彼の膝の上ですやすやと寝ている乱太郎を見つめる。
 毎回、泥酔状態で寝ている乱太郎を見ている伊助は毎度思う。本当にこの人は自分がいくらでも飲めるからと言って他人に酒を飲ませすぎだ。
「庄ちゃんさあ、加減って言葉知ってる?」
 本当に乱太郎だけじゃなくて毎回野郎どもの介抱するこっちの身にもなって欲しいんだけど?と庄左ヱ門を睨んだが、伊助の睨みは彼には効かなかったらしく、少し赤い顔をこちらに向けてケラケラと笑う。
まあまあ、無礼講だからね。そこは見逃して欲しいな。それに、」
 伊助だって美味しい思い毎回してるんだからそれについては文句を言えないと思うけど?と言って伊助の膝の上で眠っている乱太郎の方へ向いてにこにこと微笑んだ庄左ヱ門に今度は伊助が笑う番だった。
ははっ、庄ちゃんでも嫉妬するのね。」
 珍しく少し感情を露わにしている庄左ヱ門に驚きつつ、膝の上ですやすやと眠っている乱太郎を抱いた伊助は、彼を布団に寝かせに行くようで襖を開けてから、庄左ヱ門を見てこう言った。
まあ、でも、庄ちゃんでも乱太郎はあげないよ。僕の目が届くうちはね。」
 それだけ言って乱太郎を抱きながら部屋から出ていった伊助に対して残された庄左ヱ門は先程の言葉にふっと笑いながら、伊助は手強いな。とぽつりと呟いてまだ酒を飲んでいる兵太夫たちのもとへとゆったりとした足取りで向かうのだった。乱太郎に最初に酒を飲ませた張本人である団蔵は、伊助が彼にきり丸を寄越した後、きり丸から首筋に手刀を食らっており、未だに意識を失っている。