望月 鏡翠
2025-10-14 23:39:20
879文字
Public 日課
 

#1869 小さな塊

#毎日最低800文字のSSを書く

 龍の翼に生えている風切り羽を集めると、川に向かった。血が流れ込んで湖の水は赤く濁っていた。
 雨の影響で川の水も濁っていたが、湖よりは綺麗な水が手に入る。形が良い羽根は汚れを落として矢羽にするのだ。折れや綻びがないのか見る。
 親の羽根は大きすぎて使えるところはあまりなかった。
ちょうどいいのは雛の大きさだった。鷲に近いから使いやすい。
 萬木は最後まで迷っていた。
 雛をそのまま持ち帰って剥製にしたらもっと高値で売れる。その案をまだ諦めていなかったのだ。
 しかし、ここで待って骸拾いに連れて帰ってもらうなら、鮮度が足りない。
 鱗のついた皮はともかく羽根と肉は腐り落ちて崩れてしまうことだろう。
であれば、と全ての風切り羽を引き抜いて矢に使うことにした。
 もう一生食うに困らぬだけの稼ぎが約束されているというのに、矢の補充のことを考えてしまうのは、もう魂に染みついた習性に近かった。
 この美しい風切羽の束だけでも一財産になる。
 丁寧に洗い清めてから、羽を飛ばないように陰干しにした。
 それが終わってから、ようやく体に染みついた血も洗い落とすことができた。狩人といえど、好んで血まみれでいるわけではない。
 ただ、命の方を優先すべき状況が続いていただけだ。
 服を脱ぎ、水に投げ込む。いつまでも血と泥が滲み出てきた。顔を拭うと固まった血がこびりついていた。一昼夜放置したせいで、擦っても取れない汚れになっている。
 萬木は顔にこびりつく塊に、爪をかけて引っ張った。
「いって……
 頬に痛みが走る。パチと音がして何かが剥がれ、手のひらに跳ね返って川に落ちた。瘡蓋でも剥がしてしまったのだろうか。触れた指先にぬるりと真新しい血がつき、水と一緒に流れていった。
 水面を見る。流れに映る顔は歪んでいて、水の色が透けていて色もわからない。血が出ているということくらいしかわからなかった。
 取れない塊は、瘡蓋に汚れが固まったものなのだろうか。不愉快だが、後で処置をするしかない。川から上がると洗った服を干し、乾くまで体を火のそばに横たえた。