らぎ
2025-10-13 17:44:40
937文字
Public モノノ怪
 

離坤ドロライ二期 第五回「依存性」「雪」「ふわふわ」

遅刻遅刻〜〜!

本日の十翼は深々と……と言うには少々主張が強く白雪が降っている。苔むした庭石から千歳緑の松の木まで全てを等しく白に染めていく雪片を、ふわふわの掛布と火鉢で程よく暖まった炬燵の中から離の薬売りは眺めていた。少し前の時節に薬売りの技の粋を結集して作られた掘り炬燵は八卦が一振り、離の剣の遣い手をもダメにしてしまう依存性と包容力を兼ね備えていたが、この十翼でそれを咎める者などせいぜい相棒たる離の神儀位のものであろう。
頬を撫でる雪風に目を細めていると、彼の背後、閉じた襖の向こうから柔らかい足音が近づいて来て止まった。かと思うとするりと襖が開いた。
「離の方、お待たせしました。」
現れたのは、鉄紺の着物を纏った坤の薬売り。彼は猫のように部屋に滑り込むと、炬燵の天板に手にした竹籠を置いた。
「戻りましたか、坤……おや、酒は無いのですね」
「呑み過ぎ、です。先程まで何本空けたか──」
「はい、お説教は後ほど……。」
藪蛇だったと首を竦めた離の薬売りは誤魔化すように、先程坤の薬売りが持ってきた竹籠から蜜柑をひとつ取り上げたが、蜜柑の下に行儀良く並んだ見慣れない紙箱を見て首を傾げた。
「これは?」
「ああ……アイスクリーム、ですよ。」
「それは氷菓子……と言うものでは」
せっかくぬくぬく暖まっているのに、何故冷たい菓子など。そんな疑問をありありとかんばせに浮かべた離の薬売りに、坤の薬売りはちいさく笑って匙を手渡した。
「食べてみれば、お分かりになるかと」
疑問符を浮かべつつも特に逆らう理由も無く、離の薬売りは竜胆色の爪先でもって、紙箱に被さって霜のおりた蓋を剥がす。新雪が積もったような柔らかい白を匙で掬って口に含むと、切れ長の瞳が僅かに見開かれた。
「ほう。これは……
火鉢で温められた室内に留まっていたことで知らぬ間に少々火照っていた体に、冷たく甘い氷菓子が沁み渡るようだ。華尼拉バニラの香が鼻腔を抜けていくと、離の薬売りは小さく息を吐いた。
「中々良いもの……ですね」
「そうでしょう。こんな趣向も、偶には悪くない」
口角を満足げに上げた坤の薬売りに、離の薬売りは嫋やかに首を傾げる。
「それはそれとして……こいつに洋酒など合わせて──」
「離の方。」