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けーだい
2025-10-13 08:25:55
996文字
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いやしのひと
フォロワー様の素敵絵をお借りして書いた短文
元のセリフをそのまま組み込めなかった未熟を恥じている
背中に刺さる数多の視線に耐えかねたのは、自分の方だったのかもしれない。
分厚い木製の扉の内側へと彼女が入っていくのを眺める。その背中が振り返ると、彼女はいつものように「お疲れ様でした」と言った。俺より余程疲れているだろうその顔は全く普段通りで、ただ少し不思議そうに、去ろうとしない俺を見つめている。
これから彼女は侍女を呼び、寝支度に入るのだろう。いつまでも俺がここにいては彼女の明日に差し障るし、何より俺の戻りが遅くなればなるほど、あの不躾な視線の主達がどんな噂を立てるかわからない。妙な憶測の元になる行動は避けるべきで、だからすぐにここを去るべきだとも思う。
けれど、足は一歩を踏んでいた。
「失礼」
一言断りを入れると同時に室内に入る。驚いた表情のまま固まる姫様目の前に立つと、背後で重い扉の閉まる音がした。
そのまま勢い丸い額へと唇を落とす。彼女が息を飲む音が聞こえてすぐに離れると、人差し指を唇の前に立てた。俺の意図を察した彼女の唇が、閉じる。
「ここなら、見られないので」
こくん、と頷く耳が赤く染まっている。上げられたその顔にはやがてはにかむような笑みが浮かんで、ようやく俺は息を吐いた。
――
貼り付けたようないつもの顔より、やっぱりこっちの方がいい。
誰に見られているとも知れない城の中で、彼女は自らの弱さを隠すように振る舞うのが常だった。疲れた、なんて言葉を彼女の口から聞いたことがない。そんなはずはないというのに。
だからこうして素直な、彼女らしい顔を見られるのが、何よりも嬉しかった。
「失礼いたしました」
胸を撫で下ろして踵を返す。扉に手をかけると後ろから声をかけられた。
「リンク」
穏やかな声には笑みが滲んでいるような気がした。振り返ると思った通りの笑顔で俺を見上げている。
その翠が、なんだか少し幸せそうに見えた。
「ありがとう。
……
おやすみなさい」
「
……
おやすみなさいませ」
今度こそ部屋を出て、いつものように一礼する。扉が閉まってから顔を上げると、扉の向こうの気配はまだそこにいるのがわかった。少しだけとどまったあと、やがて奥へと消えていく。
彼女に少しでも気を緩めて欲しかっただけなのに、また俺の方が沢山を貰ってしまったような気がする。
このお返しはどうしたらいいだろう。そう考えながら、元来た道を戻った。
名残惜しさだけを、扉の前に残したまま。
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