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yn
2025-10-13 00:30:01
2877文字
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movie100
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034:偽物紳士
映画タイトル100題からおかりしました。
エッチそうでえっちじゃないちょっとやらしい拳コユです。本番無いです。
吸血鬼は鼻がきく。
犬猫ほどとまではいかないが、か弱い人間より遥かに敏感だ。特に満月の夜は顕著なもので、街ゆく人間の柔軟剤の匂いが妙に鼻についたりするし、馴染みの女なら変えた香水の種類まで当てられた程だ。同族の中でもさらに嗅覚に優れたものは調香師として生計を立てているものもいる。
たった百年前までは生かすか死ぬかの瀬戸際にいたケンも、自身の五感に助けられたことは数えきれない。血族のつながりを重視する吸血鬼ゆえか、己よりも弟二人に関する異変の方が敏感に察知できるのも重宝していた。とはいえこの『弟センサー』はケン特有のものであり、自分事より鼻がきくのも己を軽く扱いがちであるためだが、それに気づくのは十年以上先の話である。
さて、そんな吸血鬼なら皆がテンションブチ上がる満月の夜。ケンは鎖に繋がれたまま目前に餌をちらつかされる獣の気分を味わっていた。
とはいえ現在いるのは新横浜駅から少し離れ、スタジアムを越えたあたりに建つラブホテルだ。駅前の喧騒やシーズン中で殺気立ったサポーターの怒号からも離れたエリアにはホテルが点在しており、コユキの父であるゴウセツが不在時限定のデートスポットとなっていた。
怖い御尊父の出張と、吸血鬼の血が沸る満月。重なればやる事は一つしかあるめえよ、とさりげなくお誘いした結果、顔を真っ赤に染めたコユキが小さく小さく頷いたので、現在に至る。
一八〇センチを超えるケンでも両手両足をめいっぱい伸ばして寝転べるほどの大きなベッドの真ん中、自分より二回りも小さな体を腕の中に閉じ込めて小さな唇を喰む。ひとつ、ふたつと重なるリップ音は児戯のようだが、柔らかな唇に触れるたび腹に溜まる重たい欲は可愛らしさとは程遠い。何度か繰り返した後焦らすように離れると、ねだるように名を呼ばれた。
牙で切るといけないから、お前は俺が合図するまで舌伸ばしちゃいけねえよ。はじめに行った約束を律儀に守るコユキは、給餌を待つ雛のように口を開けてケンを待つ。舌を差し込んで粘膜をぬぢぬぢと可愛がると、息の仕方を忘れた娘が子犬のように唸る。息継ぎさせてやれば真っ赤な顔にトロトロの目でケンを見上げてくるからたまらない。
女の香りとでもいうのだろうか。甘ったるくて抗い難い何かが決して狭くはない部屋に満ちて、我慢に我慢を重ねている男を籠絡せんとしている。
それでもケンはハードな百年を生き抜いた海千山千の吸血鬼である。何もわからない娘に気取られず、かつスマートに気遣うフリはお手のものだ。
「ン、だいじょぶ?」
〝ぁ、はひ
……
〟
「やめる?」
被せるように首を横に振られた。即答する娘の唇をもう一度軽く吸う。ケンの着物に縋る細指、時折痙攣する腰。ストッキングの中できゅ、と丸くなる足の指先まで、全てが壮絶に色っぽい。
ついこの前まで男の肌を何も知らない、真っさらな新雪の如き娘だったのに今はどうだ。口を吸うたびに正座の太ももをモゾモゾ擦り合わせて、体に溜まる熱の逃し方がわからなくて泣きそうになっている。可愛くて可哀想で、好ましい。
これが適当に引っかけた女なら、己の技で腰砕けになった様を笑いながら柔らかな身体に手を伸ばして好き放題堪能するところだが、この娘に対して同じように接することはできない。
体を重ねても尚、触れることを躊躇する程にぴかぴかの娘。しかもケンはこの娘にベタ惚れときている。これは本当に計画外の事態であるがそれはそれ、兎に角一夜の発散の延長線上で娘の体を貪るなんてことはあってはならない。
俺って結構理性しっかりめのイイ男だったのね、なんて内心自分を褒め称えながら、優しく、かつ容赦なくコユキの口中を楽しむ。
〝ん、んぷ、ふぅっ〟
訴えるように肩を叩かれて顔を離す。唾液で顎を濡らしたコユキがぼんやりとケンを見上げた。目尻が桃色に染まり、濃いまつ毛が涙で束になっている。
「ん、苦しかったな、ごめんな」
〝だいじょぶ
……
〟
「そか。やっぱ今日はもうやめとくか? しんどそうだぞ」
〝んや、あの、あのね
……
〟
膝を擦り合わせて言い淀んだと思うと、ぎゅうとケンに抱きついてきた。髪が揺れてうなじがのぞく。小さな身体から、うっすら浮いた汗と濃い欲の香りがする。今宵は満月、いつも以上に鼻が利く。柔らかな身体から濃く立ち上るお誘いの気配、熟れた桃かと錯覚するほどに甘く濃く、魅力的。酒に酔ったようにクラリとくるが、ここでがっついては男が廃る。
声だけ笑って背中をポンポン叩いてやると、ケンの肩に顔を埋めたままのコユキがむにゃむにゃ唸った。
〝けんさん〟
「ウン?」
〝も、いじわる、しないで〟
「ンン、してるつもりはねぇんだが」
〝うそつきぃ
……
〟
くしゃりと顔が歪む。
どうすればこの熱から解放されるのか、コユキはきちんとわかっている。ただ、それを言葉にすることができない。ケンに軽々プロレス技をかけられるちょっと普通じゃない娘だが、これまた普通じゃない父親のおかげで経験値はケンの百分の一。婀娜っぽく誘う言葉は知らない上、どうしたら男がその気になるのかなんて解らないのだろう。できる事といえばケンの着物に頭を擦り付けて強請るくらいで、額がうっすら赤くなるだけだ。
だからこの一連の仕草は全て無意識であり、結果としてどんなに男を煽るのかも理解していない。
〝ケンさん、ケンさんどうしたらいいの〟
「何が」
〝お腹の奥、ぎゅうってするし
……
その〟
「んん?」
〝あ、あの
……
〟
ぐい、と襟を引かれて顔が近づく。尖り耳に熱く蕩けた呼吸がかかり、背筋が粟立つ。身体が跳ねそうになるのを堪えて娘の言葉を待った。
〝あのね、笑わないでね〟
「うん、どしたの」
〝えっと、その〟
パンツがもう、だめなの。
「
……………………
」
密やかに告げられた言葉が、ケンの下腹部と脳髄に突き刺さる。ミサイルのようなそれが奥深くで大爆発を起こしている。理性の都が焦土となるのは時間の問題であった。
しかしケンも、何の抵抗もせず理性をかなぐり捨てる程馬鹿ではない。ゆったりとコユキの体を引き剥がし、細い肩を撫でながらなるべく淡々とした口調を心掛けて口を開いた。
「俺ね、もーぶっちゃけちゃうけどお嬢ちゃんにベタ惚れなのよ」
〝えっあっ
……
ありがとうございます
……
?〟
「ほんで、今日はまた、日が悪くてさ」
〝はい
……
?〟
「我慢がきかんと思うのよ。だからね」
肩を掴んだ手に力がこもる。ぐっと押して柔らかなベッドに身体を押し倒して跨ると、全く抵抗しないコユキはどうしたの、と言わんばかりに見上げてきた。乱れた髪、紅潮した顔、ダメになったと自供した布地を気にしてか擦り合わせる両脚。もう辛抱たまらない。
頭に巻いた手拭いと口布を剥いで捨てる。
「だから、本気で嫌だったらさぁ」
〝ケンさん?〟
「俺のこと、グシャグシャにしてでも止めてくれよ」
全部満月のせいにして、高い嬌声を口で直接受け止めた。
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