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採掘すずめ
2025-10-12 20:36:40
3983文字
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SS
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【SS】左頬の秘密
ヴィフタルの左頬にある♯型の傷の謎に迫るSS。
ヴィフタルがユウェラ邸の一員になってから2ヶ月くらい経った頃、まだヴィフタルが18歳、レシタリアが24歳の頃のお話です。
「お待たせいたしました、お母様」
「レシタリア先生、どうもありがとうございました」
暖かな日差しが降り注ぐ、穏やかな午後。
6〜7歳ほどと思われる邪悪な村人の少女を連れて二階の楽器部屋から館の玄関へと降りて来たレシタリアは、待機していた女性エヴォーカーと挨拶を交わし、にこりと微笑んだ。
「娘さん、今回はよく頑張ってピアノの練習ができていましたよ。とても上手になりました。今日のレッスンで伝えたこと
……
指遣いを正しく直すことと、フレーズの終わりを優しい音にすることを忘れずに、この調子で丁寧に練習してみてくださいね」
「はい!せんせい、ありがとうございました!さようなら!」
「はい、ではまた二週間後にお待ちしていますね。さようなら」
嬉しそうにスキップをしながら帰路につく少女の後ろ姿を微笑ましく見送っていると、背後から若い青年の声がかかる。
「レシタリア様、ピアノのレッスンお疲れ様でした」
「ヴィフタル」
振り返ったレシタリアに名を呼ばれた青年は、まだ少年の面影を残した明るい笑顔で近付き、興味津々といった様子で話し始める。
「あの女の子、前回はうまく弾けなくて泣いていたのに、今日は凄く上手になっていて嬉しそうでしたね!」
「そうですね」
ヴィフタルの言葉に同意しながら、レシタリアは再び少女が去っていった方向に顔を向けた。
「楽器をやっていると大体あの位の年齢で最初の大きな壁に当たるんですよ。習い始めの頃は曲が簡単なのであまり練習しなくても上手に弾けて楽しいのですが、ある程度のレベルからはきちんと部分的な練習を繰り返さないと上達しなくなるんです」
「へぇ、そういうものなんですか」
「そうなると、すぐにはスムーズに弾けるようにならないからつまらないし、反復練習は面倒臭いし、でやる気を無くしてしまう子も多くて
……
。心配していたのですが、前回効果的な練習方法を伝えたところ、難しい曲でもきちんと練習すれば上手に弾けるようになることや、憧れの曲を弾く楽しさに気付いてくれたようで
……
ホッとしました」
温かい眼差しでそう口にする主を目にし、ヴィフタルも柔らかな笑みを浮かべる。
「レシタリア様はやっぱりお優しいですね。習いに来る子たちの事をそんな風に優しく真剣に見守ってくれる先生だから、あの子も頑張ってみようと思ったんじゃないでしょうか?」
「ふふ
……
せっかく習いに来てくれるのなら音楽を好きになってもらいたいですからね。さぁ、ひと休みしましょう。お茶を淹れてもらえますか?」
「はい!もう準備は出来てますよ!どちらでお休みになりますか?」
「気が利きますねぇ、助かります。今日はちょっと貴方と大事な話がしたいので
……
私の自室でお願いできますか?」
「大事な話
……
ですか?わかりました」
想定外の主の言葉に一瞬きょとん、としてから小さく頷くと、ヴィフタルはレシタリアの後に続いて三階へと向かった。
* * *
「うん
……
美味しいです。紅茶を淹れるのが上手になりましたね、ヴィフタル」
「本当ですか!?へへ、ありがとうございます!」
懐っこい笑顔で瞳を輝かせるヴィフタルを前に、まるで仔犬のようだな、とレシタリアは心の内で思う。
もし彼に尻尾が生えていたのなら、千切れんばかりに振っているだろうことは間違いない。
「貴方は本当に呑み込みが早くて優秀ですよ。さぁ、冷めないうちに貴方もどうぞ」
「はい、それじゃ、いただきます」
それまでレシタリアがお茶を飲む姿を向かい側に座って眺めていたヴィフタルは、主に促され、少し緊張した様子でぎこちなくカップに手を伸ばす。
中身を零さないよう、真剣な瞳で慎重にゆっくりと口元に運び、一口飲んでホゥ
……
と息を吐いて再びゆっくりとカップをソーサーに戻すと、その様子を見ていたレシタリアが苦笑した。
「お茶を飲む仕草がまだ固いですねぇ」
「ブフッ
……
す、すみません
……
やっぱり、こういうオシャレなお茶を飲むのはまだ慣れなくて緊張します。前の洋館では、オレみたいな下っ端のヴィンディケーターがエヴォーカーの方々とこんな風に席をご一緒するなんて考えられませんでしたから」
「この館では貴方は下っ端ではなくわたし専属の従者ですし、主であるわたしが許可しているのですから遠慮などしなくて良いですよ。最低限のマナーさえ気をつけていただければ結構ですから、気を楽にしてください」
「はい、ありがとうございます。ところでレシタリア様、大事なお話というのは
……
?」
「あぁ、」
ヴィフタルに訊ねられたレシタリアは、手にしていたカップを置くと正面から青年を見据え、一呼吸置いてから改まって口を開いた。
「話というのは、貴方の左頬のその傷について、です」
「え
……
っ」
「貴方の主として、どのようにしてその傷を負ったのかを把握しておきたいと思いましてね」
その言葉を聞いて目を見開いたヴィフタルは、普段の明朗さを忘れてしまったかのように無言になりレシタリアを見つめ返す。
「深く考えずにシャープくん、などと茶化して呼んでしまっていましたが
……
もしも貴方がその傷に関して何か嫌な思い出があるのだったら申し訳なかったなと
……
。話したくない過去なのでしたら無理に話さなくて構いません。ですが、もしそこまで深刻な出来事ではないのなら、良ければ傷ができた原因を教えていただけませんか?」
「あ、あの、えーと
……
、その」
訊ねられて沈黙を破ったヴィフタルは、落ち着きなくレシタリアの顔をチラチラ見たり目を泳がせたりしながら困ったように言葉を濁す。
「やはり、思い出したくはない出来事ですか?でしたら
……
」
普段明るくはきはきと受け答えをするヴィフタルの珍しい様子を目にし、何か事情があるのだろうと察したレシタリアが申し訳なさそうに話を終わらせようとすると。
「ち、違うんです!これは、その
……
そんな深刻な話じゃなくて!」
意を決したように、ヴィフタルは全身に力を込めて大きな声を出した。
そして視線を下に落とし、頭の頂点まで真っ赤に顔を染めながら、今度は控えめな声で続ける。
「オレがまだ十四歳くらいの頃なんですけど
……
仲間のヴィンディケーターの尊敬する先輩たちって大体身体のどこかに戦いで負った傷があって、それが凄く強そうで格好よく見えて
……
。それで、オレもカッコつけたくて、自分でナイフを使って傷をつけたんです
……
!今思うと、あの頃のオレ何やってんだってホント恥ずかしくて
……
。レシタリア様、この事は他の皆さんには内緒にしていただけませんか
……
?」
俯いたまま一気にそこまで話したヴィフタルは、恐る恐る視線を上げて主の顔色を伺う。
若気の至りとはいえ、あまりにも馬鹿らしい話で呆れられただろうか。
真面目で上品なレシタリア様のことだ、軽蔑されてしまったらどうしよう。
しかし。
「ふっ、くくく
……
!」
予想に反し、レシタリアは可笑しくてたまらないという風に手で口を覆い、肩を震わせて笑いを堪えていた。
「レ
……
レシタリア様〜!?」
「すみません、あまりに予想外だったもので
……
」
非難めいた口調で名を呼ばれたレシタリアは、笑いを抑えきれず、困ったような歪んだ表情をしながら謝罪を述べる。
そして改めてヴィフタルに向き合って話し始めた。
「貴方にもそんなやんちゃな頃があったのですね。いや、でも安心しましたよ。戦闘の中で自然に負った傷にしては珍しい形状だったので、どこかの乱暴者に捕まって弄ぶように切られたか、もしくは目上の仲間に上下関係を叩き込まれる目的で傷つけられたのかと考えていましたから」
安堵を含んだ声でそう告げられ、羞恥と不満で若干むくれ気味だったヴィフタルの顔が落ち着きを取り戻す。
「レシタリア様
……
。うぅ
……
すみません、何だかご心配をおかけしてしまって」
「それにしても、そこまではっきり傷跡が残るほど深く切るとは、随分痛かったでしょうに頑張りましたね?」
「あの時は謎のオレ強ェー!凄ェー!感が溢れてて、何か耐えちゃったんですよね
……
」
「ふふ
……
まぁ、そういう年頃ですよね。貴方だけでなく、結構な数の人がそのくらいの時に何かしら自分の歴史に残るやらかしをしていると思いますよ」
「そんなもんでしょうか?あ
……
もしかしてレシタリア様も?」
「さぁ、どうでしょう?ご想像にお任せしますよ」
「えぇ!?ずるいですよ!レシタリア様がやらかしたお話も聞きたいです!」
「恥ずかしいので秘密です♪」
「そんなぁ〜!」
ひとしきり言い合った後、二人は顔を見合わせ、どちらからともなく笑い合った。
「今日は本当の事が聞けて良かったです。話してくださってありがとうございます。他の皆には内緒にしておきますので安心してください。わたしたち二人だけの秘密、ですね」
「はい
……
ありがとうございます」
秘密、の部分で人差し指を鼻の前に立て、いたずらっぽくウィンクしながら言うレシタリアの仕草の美しさに釘付けになりながら、ヴィフタルは嬉しそうに応える。
「でも
……
恥ずかしいことは恥ずかしいんですけど、レシタリア様がシャープくんって呼んでくださったことで、この傷が正式に自分のチャームポイントになった気がして嬉しい気持ちもあるんです、オレ」
「それは良かったです。では改めて、これからも宜しくお願いしますね、シャープくん」
「はい、任せてください!」
すっかりいつもの調子を取り戻したヴィフタルは笑顔を弾けさせ、得意気に言い放った。
「そういえば、実家の父からお菓子が届いているんですよ。一緒に食べましょうか」
「いいんですか?やったー!」
ティータイムはまだまだこれから。
洋館の一室からは、楽しそうな二人の声が途切れることなく流れていた。
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