🐼🎋
2025-10-12 15:07:59
2749文字
Public 村荒
 

午前一時の美味しい夕飯

8/17 GOOD COMIC CITY 31 大阪内吾が手に引き金を GD2025 にて配布しました無配ペーパーよりWEB再録
*村荒が同棲しています

*今後発行する本に再録する場合、こちらは消える可能性があります

「あ?」
 帰宅して、リビングの電気のスイッチを入れるが、光が灯らない。ぱち、ぱち、と何回かスイッチを押してから、電球が切れたのだと悟った。
 ぱち、とスイッチをオフにしてから、リビングと続きのキッチンへ向かい電気のスイッチを押す。今度はぱっと明るくなった。リビングは暗いが、無いよりはマシだろう。
「替えはないから、買ってきてもらうか」
 端末を取り出し、メッセージアプリを立ち上げる。同居人であり恋人である村上とのトーク画面を開くと、『リビングの電球が切れた』とだけ打って送った。
 村上は防衛任務に出ている。夕方に終わると言っていたから、そうしないうちに終わってメッセージを確認するだろう。それまでにリビングのシーリングライトの蓋を外して、口金付近のガラス部に書かれている型番を送れば、どれを買えばいいのか迷わずに済む。端末の時計を確認してから、荒船は端末を尻ポケットに捻じ込んで、リビングの椅子を引きだした。





 防衛任務が終わり、帰宅の支度をしてから端末を確認した村上は、恋人からの連絡に嬉しさと同時に珍しいな、と思った。
 一緒に暮らし始めてから、家で会話するからかメッセージでやり取りするのは必要最小限になっていた。お互いの任務が合わずにすれ違う時は増えたりするが、そもそも荒船がこまめにメッセージを送るたちでもないので、通知が反応するのは珍しいことだった。
 だけれど、荒船からのメッセージはたとえ業務連絡でも嬉しい。荒船から自分だけに言葉をくれるということが嬉しかった。任務で疲れた体が、ほっと解れていくような気がする。ふわふわとした気持ちで端末のトークアプリを開いた。
「ん、電球が切れたのか」
 荒船からのメッセージは、電球がきれたというメッセージと、電球の型番が写してある写真、帰りに買ってきてほしい旨のメッセージが届いていた。
 今日は夕飯を荒船が作ってくれている。キッチンは大丈夫でも、続きになっているリビングが暗いのはさぞ不便だろう。さっさと買って帰ろう。
『村上、了解』
 自宅までのルートを頭に浮かべる。どこかに電気屋かなにかあっただろうか。そう考えながら返事を打ち、端末を尻ポケットへと仕舞った。





「ただいま」
 薄暗いリビングに顔を出せば、「おかえり」と荒船が応えてくれる。リビングの上を向けば、シーリングライトの蓋が外されている。真下には、いつも座っているダイニングテーブルの椅子が置かれていて、シーリングライトの蓋が立てかけられていた。
「買ってきてくれてありがとな」
 キッチンから荒船がこっちにやってくる。小脇に抱えた薄い箱を荒船に渡せば、荒船は箱を開け始めた。
「流石に暗いな」
「そうだな」
 荷物だけ置いてくる、と村上が言えば、荒船は頷いて箱を床に置いていた。
 荷物を置くだけ置いて、リビングに戻る。荒船が椅子に上って、シーリングライトの電球を外しにかかっていた。
「大丈夫か」
「ん、おう」
 天井に近いところでの作業は、自分よりも背が高い荒船でも不安定に見える。慌てて腰を支えると、荒船は「サンキュ」と外した電球を手渡してくる。
「大きいの取ってくれ」
「ん」
 古いのを置いて新しいのを手渡せば、荒船は上を向いて設置し始める。荒船の腰に手を添えて支えれば、荒船は安定したように電球を嵌めていく。
「よ、っと」
 かしゃん、と大きい電球が嵌め込まれた。続いて、小さい方の電球を外しにかかる。しっかりと、荒船の腰を両手で掴んだ。
……あれ)
 荒船の腰を掴みながら荒船の後姿を見上げる。既視感。どこかで見たことがある。
 視線を徐々に下げていく。後頭部から、項、肩、肩甲骨、背中。ゆっくり、ゆっくり視線を下げていく。
「鋼?」
 荒船に声を掛けられ、は、と見上げる。小さい電球を持った荒船が、不思議そうに村上を見つめた。
「どうした?」
「い、や、なんでもない」
 腰から手を放し、電球を受け取る。古い電球を置いて新しい電球を荒船に渡した。
 ふぅん、と荒船は訝し気だったものの、何も言わずに電球を受け取った後はすぐに電球の取り付けにかかる。村上は荒船の腰を掴んだ。
 細いというわけではない、しっかりした筋肉の付いた荒船の腰。手に、しっくりと馴染む。
 かしゃん、という音が遠く聞こえる。よし、と言う荒船の声に、顔を上げた。
「鋼、電気点けてきてくれないか?」
 薄暗い部屋に、荒船の端正な顔。キッチンからの光に照らされた顔も、綺麗で愛しい。
「鋼?」
 きゅ、と荒船の眉間に皺が寄る。本当にどうした、という荒船に、そっと腰に添えた手を離した。
「いや、本当に何でもないんだ」
 リビングの入り口に向かって行き、スイッチを押す。ぱっと明かりがついた。
「お、大丈夫そうだな」
 一回消してくれ、と、椅子に立てかけられていたシーリングライトの蓋を手に取りながら言う荒船に従って、スイッチを押す。消したのを見計らって、荒船が蓋を取り付けた。
「これで、よし」
 がこ、かち、と音がして、荒船がそっと蓋から手を離す。落ちてこないことを確認してから、電気のスイッチを押した。
「よし、終わりだな」
 荒船が椅子から降りて、椅子をダイニングテーブルまで戻す。その間に古い電球を手に取り、片してくるな、とリビングを出た。
 不燃ごみは玄関横の収納棚の中に纏めて置いてある。扉を開けて、手に持っていた電球を不燃ごみの袋の中に入れ、ふぅ、と息を吐く。
 荒船にはああ言ったが、何でもないはずがない。薄暗い明かりに照らされる荒船の後姿。手は、荒船の腰。掴んだ腰は手に馴染んで、放したくなかった。
 身体の底が、ずんと熱くなる。ただ、電球を換えるために荒船を支えただけなのに。
 ちらつく荒船との夜の記憶。荒船の腰を掴むのがしっくりくるはずだ。あの腰は、いつも掴んで、艶めかしく乱れさせているのだから。待ちきれずにシャツを着たまま抱いたことも数知れずある。すぐに思い出せずとも、手がしっかりと記憶していた。
 これからご飯だ。こんな邪な気持ちで戻るわけにはいかない。深呼吸しよう。深呼吸。
 数回深呼吸して心を落ち着けてからリビングに戻れば、箱を片付けてくれた荒船が「ゴミサンキュ」とこちらを向く。と同時に呆れたような表情を見せた。
「お前なぁ」
 なんて顔してんだよ、と言う荒船に、思わず自分の顔をぺたりと触る。そんなに変な顔をしているだろうか。
 荒船が近づいてきて、顔を触っている手の上から触れてくれる。荒船を見上げれば、口角を上げた荒船の、澄んだ紫の瞳と視線が絡んだ。
「なあ、鋼」
――ご飯にするか? それとも、