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せいる
2025-10-12 07:10:16
3231文字
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Do for you(MP47無配)
10/4 MP47の無配です。風邪を引いた信一と龍捲風の親子の話ですが、書いてる人は信風書く人です。多分大幅に加筆修正して11月に出す予定の龍親子本に収録するかも…??
ーあぁ帰ってきたか。
昨日今日とまともに顔を見ていなかったからと、龍捲風は自室で本を読みながら信一を待っていた。しかし外から聞こえてきた足音は何かおかしい。まるで足を引きずるような音に怪我でもしたのかと、急いで部屋から飛びだした。
バタンと扉が開く音の後、ほとんど床に倒れ込むように人影が中に入ってきた。
「信一!!」
信一はあきらかにどこか調子が悪いことがわかる緩慢な動作で起き上がると、ズルリと扉を背に床に座りこんだ。
「ごめん、起こした?」
「いや」
そう言いながら、信一の全身を確認する。服には血がついているものの、怪我をした様子はない。しかし赤い顔と荒い呼吸、咳を我慢する様子から恐らく熱があるのだろう。額に手を当て体温を確認しようとすると、ぷいと顔を背けてしまう。
龍捲風の眉間の皺が深くなったことに気づいたのか、信一が軽い口調で喋り出す。
「あー全部返り血。問題ないよ。ちょっと調子悪くて手こずっちまっただけ」
ちゃんとカタはつけてきたから、といつものようにヘラヘラ笑ったつもりだろうが、疲労か体調不良か、顔の筋肉は本人が思っているようには動かず、熱で潤んだ瞳も相まって泣きそうに見える。
「待ってろ」
龍捲風は台所に向かった。その途端後ろから苦しそうに咳き込む音が聞こえてきた。この体調ではシャワーを浴びることもできないだろう。タオルを濡らして血も含めて身体を拭いて、着替えさせて、水分を摂らせて、ベッドに放り込む。朝になったら医者に連れて行く。いや、医者に来させよう。
そこまで頭の中で行動を決めて、タオルを持って戻ると体を引きずって自身の部屋に戻ろうとする信一が目に入る。
「おい、そのまま寝るなよ」
信一の歩みは止まらない。龍捲風を振り返らずに言葉だけを返してくる。
「兄貴に移したくない。離れてて」「気にしてる場合か」
その肩を掴むと振り返った瞳に鋭い光が灯り、同時に強い力で手を跳ね除けられる。
思ってもみなかった行動に動きを止めた龍捲風を見て、信一は何か悪いことをしたと自覚している子供みたいな、ひどく幼い顔をした。しかしすぐに険しい表情に戻って、そのまま部屋の中に入ってしまう。
龍捲風の目の前で扉が閉まる。ドアノブに手をかけて軽くひねるが、半周も回らないうちにガチャっという音がして止まった。
ー鍵閉めやがった。
普段はまず鍵をかけることなんてないくせに、こういうときに限ってかけるとは。信一の部下でも、阿七でも、とにかく誰か叩き起こして連れて来るか、いっそ扉くらい壊してやるかと思ったが、それこそ病人相手にすることではないと流石に思いとどまる。
扉の前に立ち尽くしていても仕方がない。龍捲風はまた台所に戻って、薬缶に入れた水とコップ、普通の果物よりも食べやすいかと缶詰めの桃を皿に出して、盆に載せて部屋の前に置く。これしかできないのがひどくもどかしかった。
翌朝起きて一番に信一の部屋の前に置いていたものがなくなっているのを確認して、龍捲風はひとまず安堵した。
自分一人だと朝食を用意する気にもなれないが、信一が起きて食べることを考えて粥を作った。理髪店の仕事がなくとも、安全管理委員会主管にはやることがあるし、信一が看病されたくないなら家にいたってなんの意味もない。出かけるしかない。
途中で誰かに信一の様子を見に来てくれるように頼もうと考えながら身支度をしていると、提子がやってきた。信一に朝になったら様子を見に来るように言われていたらしい。ならば尚のこと自分が家にいる必要はない。
心ここにあらずといった様相の龍捲風に住民が声をかけてくる。
「今日はどうしたね?随分うわの空じゃないか」
「調子でも悪いのかい?」
「俺は問題ないんだが、そ
……
」
そこにまた別の住人が通りかかる。
「こんなところにいた。ねえ龍兄貴、信一どこか知らない?」
「風邪引いて寝込んでる」
あぁ、と周囲が納得する。
「なるほどね、龍さんが冴えない理由はそれか!」「他のことが手につかなくなるくらいに心配ならついててやんなよ」
龍捲風は長く煙草のけむりを吐き出す。
「移したくないから、近寄るなとさ」
早く帰ったら信一に気を使わせるかもしれない。仕事が一段落しても、龍捲風は冰室の隅で煙草を吸って帳簿を眺めていた。阿七は大佬の不調が何も信一を心配しているだけではないと理解しているらしく、テーブルに頼まれてもいない料理を並べる。
「いつも本人が言ってるでしょう?あいつは大老がいれば十分なんですって。看病もしてやれないなんて落ち込んだら怒られますよ。信一が食わないからって適当にしてないでちゃんと飯食ってください」
阿七に見張られながら食事をした後に、散々歩き回ってから自宅に帰ると、テーブルの上にメモが一枚載っていた。
「粥美味しかったありがとう」
けれどきちんと冷蔵庫に移された鍋の中身は殆ど減っていない。きっとまた気を使わせてしまったのだとやりきれない気持ちになる。あの子にしてやれることがどんどん減っていくことをこんなに寂しいと思うとは。
翌日龍捲風が理髪店の仕事を終えて帰宅すると、信一がのろのろとリビングにやって来た。心なしかやつれてほっそりとしてしまった輪郭に胸が痛む。もともと白い肌は血の気がなく、顔色も悪い。
言ったら怒られるだろうが、できるなら代わってやりたかった。黒社会に引き入れておいてどの口がと自分でも思うが、幼い頃も今もこの子が怪我をしたり、体調が悪くなると生きた心地がしないのだ。
起きていいのか?気分は?飯はもう食えるのか?食べたいものは?髭を剃ってやろうか?シャワーを浴びるか?まだ無理しないほうが良いから、とにかくゆっくりしてくれ。
そんな言葉が次から次へ口から溢れそうになるのを、ぐっと堪える。
「もう起きて大丈夫か?」
「
……
ごめん。心配してくれたのに、俺
……
」
ーあぁ、開口一番にそんなことを言う必要なんてないのに。
「いや、あれは俺が悪い。お前が気を使ってくれたのにしつこかったな」
「哥哥は悪くないよ」
二人の間に流れた気まずい沈黙を吹き飛ばすように、信一が明るい声を出す。
「とりあえずなんか食って薬飲のんで、もう少し大人しくしてる。月末までにちゃんと治さねーと」
「粥あっためてやろうか?」
「うん。ありがと。じゃあシャワー浴びて来ていい?」
龍捲風はゆっくりと頷いた。
信一との会話、ふつふつと粥が煮える音とシャワーの水音。この2日ほとんど静まり帰っていた家の中に、生活の音が戻ってきた。
龍捲風はぼんやりと鍋を見つめる。どれだけ強くなっても守れないものが山程あった。いや、強くなればなるほど失うものが多くなった。その最たるものがあの抗争だ。雷震東は倒したものの、自分は一体何を守れたのだろうか。そんな失意の中にいた龍捲風の元に来てくれた希望が信一だった。この子が来てから今までの日常は忙しく騒がしく、そしてたくさんの幸せで溢れかえっていた。だからどうかこの子だけは自分の命が尽きるまで守らせて欲しい。自分がこの子にもらったものを返したい。けれどすべてを返す前に、小さな信仔は成長して龍捲風が守らなくても立派にやっていける大人になってしまった。
「あーさっぱりした!」
龍捲風の物思いは信一の声で終了した。先程よりも声にハリがあるのを感じて嬉しくなる。粥をよそってテーブルに置いてやった。
「ゆっくり食えよ」
「あのさ、治ったら髭剃ってくれる?」
「あぁ。それに食いたいものがあったら言え。作ってやる」
「
……
」
「どうした?」
「兄貴に髭剃ってもらえてさ、料理だって作ってもらえてさ、俺ってほんと幸せだなって」
「大げさなやつだな」
良かった。自分が思うよりもまだ信一にしてやれることはあるらしい。
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