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みずあめ
2025-10-12 01:22:28
2305文字
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brmy
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篠静
【ちょっと急用。勝手に入って進めてて。】
掃除の約束をしていた日の朝にそんな連絡があり、俺は預かっている合鍵を使って静さんの部屋へ入った。
「お邪魔しまぁす」
電気の消えた玄関で一人呟き、慣れた仕草でパチパチと電気をつけていく。もはや見慣れてしまった、魔窟のような様子の部屋に、ふっと笑って腕捲りをした。
静さんが帰ってくるまでに終わらせられるかな。そうしたら少しだけ、いちゃいちゃさせてくれるかな? 下心を誤魔化すように「よしっ!」と声を出して、早速掃除に取り掛かった。
すっかり部屋が綺麗になっても、静さんはまだ帰ってこないし、連絡のひとつもなかった。今日は午前中に掃除して、昼はどっかに食べに行こうって話していたのに。
真面目に掃除をして埃や汚れまみれになった俺は「シャワー借りますねー」と誰もいない空間に向かって言い、ついでにパパッと浴室の掃除もして汗を流した。服は静さんのクローゼットから勝手に拝借して、床に落ちてる洗濯物と一緒に俺の服も洗濯機に突っ込んだから、帰る時に忘れないようにしないと。
朝急いでいたのか土が乾燥している植物の水やりもしてあげたかったけれど、俺にはどの子にどれくらい水をあげるのが正解か分からないから、余計なことをして植物を枯らしてしまうのは嫌で手を出さずにおいた。静さんが帰ってきたら教えてもらおうかな。でも、どれが何でどういう特徴があるのか、俺に覚えられるとは思えない。
買い置きのインスタント食品の賞味期限が近いことと、未開封の通販の段ボールを見つけたこと、洗濯洗剤がもうそろそろなくなることも、忘れずに伝えないと。
「
……
静さん、まだかなぁ」
窓を開けて新鮮な空気を部屋の中に通す。さっき自分できっちり整えたベッドに腰掛けて、静さんへの連絡事項を頭の中で整理していた。ああ、それと、お昼ごはん、一緒に食べましょうって。静さんは一人だと食事を抜いてしまうことも多いから。
「
……
やばい」
めちゃくちゃ眠い。昨日、終電ギリギリまで外で飲んでたから、ちょっと寝不足気味なんだった。
動いている間は気にならなかったけどただぼーっと座っていたら急に眠気が襲ってきた。でも静さんそろそろ帰ってくるかもだし、ごはん食べないとだし、それに、えっと、何を言わなきゃいけないんだっけ。
眠気でぐちゃぐちゃになった頭ではうまく考えがまとまらず、俺は欲に抗えずにベッドに体を倒した。あー、これ、絶対寝ちゃうやつだ。せめて静さんに連絡を、と、伸ばした手は布団をぎゅっと掴んでそれを体の上にかけた。あれ!? 寝る気満々じゃん! 声を出すことも億劫で心の中でツッコミを入れ、俺は目を閉じた。おやすみなさい。早く帰ってきて、俺のこと怒ってね。
ぱちっと目を開け、一瞬で自分の部屋ではないことに気がつき勢いよく体を起こした。左右を見渡してすぐ、静さんの部屋に掃除をしに来ていたこと、静さんがなかなか帰ってこなくて待っているうちに眠ってしまったことを思い出して体から力を抜く。
「ん
……
あいざわ、おきたの」
「!? え、あ、静さん
……
!?」
聞こえた声に慌てて振り返ると、俺が眠っていたベッドの隣で静さんも横になっていた。静さんな枕元に手を伸ばして外していたメガネをかけ、いつも通りの顔で俺を見上げてくる。
「
……
掃除、終わりました」
「ああ、うん、そうみたいだな」
「えっと、あと、インスタント食品の賞味期限が切れそうです」
「了解。さっさと食べないと」
「あ、服、借りてます」
「見覚えあるなと思った。やっぱり俺のか」
「あと、あと
……
なんだっけ、まだ言わなきゃいけないことあったんですけど
……
静さん、なんで寝てるの」
「帰ってきたらおまえが気持ちよさそうに寝てたから。昨日の夜に急に仕事を頼まれて徹夜でやったから寝てなくてさ。まだ眠いんだけど、言わなきゃいけないこと、思い出せそう?」
静さんはごろっと体を回転させて俺の服を引っ張った。誘われるままにもう一度体を横たえ、枕の上で静さんと目を合わせる。
「なんだっけ
……
んー
……
」
「思い出したら言って。とりあえず、おやすみ」
「あっ」
「ん?」
「一個、いいですか?」
「なに、もう寝たいんだけど」
「うん、でも言えてなかったから。おかえりなさい、静さん」
「
……
ただいま。掃除、ありがとな」
「へへ、はい!」
静さんの腕が俺の腰に回り、そっと抱き寄せられて体温が上がった。さっきまでものすごく眠かったのに目の前に大好きな人がいる状況でのんきに眠るなんてできそうにない。でも静さんは徹夜明けで仕事を片付けてきたところみたいだし、もう目を瞑って寝に入ってるこの人を無理矢理起こすこともしたくはない。
俺はそうっと手を動かして、静さんのメガネを外して枕元に置いた。ちょっと動いたせいか静さんが身動ぎ、俺のことを抱きしめる力が強くなった。二人分の体温で温まった布団の中で好きな人に抱き締められて、眠れないのに起きられもしない状況。そのうちぐーっとお腹まで鳴ってきて俺は一人でちょっと泣きそうになっていた。
どれくらい寝かせたら起こしていいかな? 静さんがいつ帰ってきたのか分からないけれど、俺が眠ってからそこまで長い時間は経っていないはずだから、起こさなければこのまま夜までだって寝続けてしまうだろう。さすがにそこまでこの空腹状態で耐えられる気がしない。視線だけ動かして確認した時計は午後二時を指している。五時くらいまでなら、平気かな。今日は静さんのことを待ってばっかりだ。
ねえ静さん、いい子に待っているから、起きたらご褒美くれませんか?
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