はな
2025-10-12 07:00:00
905文字
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愛のしるし

狼ウルと狼仔ジミちゃんのしっぽの話

 ウェイドが食器を洗って戻ってくると、先ほどまでおやつを頬張っていたジミーがローガンの腕のなかですやすやと眠っていた。窓から注ぐ秋の陽に照らされた頬の産毛が、黄金色に輝いている。
 ウェイドはジミーを起こさないように、まろい頬を指先でそっと撫でた。ジミーの短い尻尾が左右に揺れる。

「ジミちゃんのしっぽ、かわいいねえ」

 ウェイドは破顔した。ジミーの尻尾はよく揺れる。おやつを食べているときも揺れていたし、なんならおやつを待っているときから揺れていた。さすがに寝ているときは揺れないかと思えば、夢を見ながら器用に揺らしている。
 ぱたぱたぱた、と尻尾が揺れる音の、なんと愛くるしいことか。仔犬のような尻尾の先を指で弄んでいると、ローガンがジミーを抱え直した。

「ジミーは特別だ」
「ジミちゃんのしっぽが特別にかわいいってこと? まあ知ってたよ、ジミーちゃんがローガンのお腹にいるときからね」
「違う」
「ん?」
「──狼は無闇に尻尾を振らない」

 犬とは違う、とローガンが続けた。どうやら犬が尻尾を振るのは、家畜化された過程によるものらしい。家畜ではない狼は、感情如何で尻尾を振らない──ローガンは当然とばかりに言った。
 ウェイドは垂れたままのローガンの太い尻尾を見て頷いた。

「ふーん、なるほどね」

 ローガンの言うとおり、たしかに彼が尻尾を振ることはなかった。酒を飲んでいるときも、葉巻を吸っているときも、その雄々しい尾が揺れることはない。

 ──だけど。

 ジミーがローガンの腕のなかで身じろいだ。Mommy、とくぐもった声をあげて、まるいおでこをローガンの胸に擦りつける。ローガンが応えるようにジミーのふわふわの髪と折れた柔い耳に優しくキスを落とすのを見て、ウェイドは眦を下げた。
 狼は尻尾を振らない──そんなことはない。
 ウェイドは知っている。
 ママと呼ばれたローガンが尻尾を緩やかに振ることを。
 愛し子にキスをするとき、尻尾が優しく揺れることを。

「──ジミー。起きたのか?」

 眠りから覚めた愛し子に見つめられて、尻尾がひときわ大きく、いとおしく揺れることを。