ウェイドが食器を洗って戻ってくると、先ほどまでおやつを頬張っていたジミーがローガンの腕のなかですやすやと眠っていた。窓から注ぐ秋の陽に照らされた頬の産毛が、黄金色に輝いている。
ウェイドはジミーを起こさないように、まろい頬を指先でそっと撫でた。ジミーの短い尻尾が左右に揺れる。
「ジミちゃんのしっぽ、かわいいねえ」
ウェイドは破顔した。ジミーの尻尾はよく揺れる。おやつを食べているときも揺れていたし、なんならおやつを待っているときから揺れていた。さすがに寝ているときは揺れないかと思えば、夢を見ながら器用に揺らしている。
ぱたぱたぱた、と尻尾が揺れる音の、なんと愛くるしいことか。仔犬のような尻尾の先を指で弄んでいると、ローガンがジミーを抱え直した。
「ジミーは特別だ」
「ジミちゃんのしっぽが特別にかわいいってこと? まあ知ってたよ、ジミーちゃんがローガンのお腹にいるときからね」
「違う」
「ん?」
「──狼は無闇に尻尾を振らない」
犬とは違う、とローガンが続けた。どうやら犬が尻尾を振るのは、家畜化された過程によるものらしい。家畜ではない狼は、感情如何で尻尾を振らない──ローガンは当然とばかりに言った。
ウェイドは垂れたままのローガンの太い尻尾を見て頷いた。
「ふーん、なるほどね」
ローガンの言うとおり、たしかに彼が尻尾を振ることはなかった。酒を飲んでいるときも、葉巻を吸っているときも、その雄々しい尾が揺れることはない。
──だけど。
ジミーがローガンの腕のなかで身じろいだ。Mommy、とくぐもった声をあげて、まるいおでこをローガンの胸に擦りつける。ローガンが応えるようにジミーのふわふわの髪と折れた柔い耳に優しくキスを落とすのを見て、ウェイドは眦を下げた。
狼は尻尾を振らない──そんなことはない。
ウェイドは知っている。
ママと呼ばれたローガンが尻尾を緩やかに振ることを。
愛し子にキスをするとき、尻尾が優しく揺れることを。
「──ジミー。起きたのか?」
眠りから覚めた愛し子に見つめられて、尻尾がひときわ大きく、いとおしく揺れることを。
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