望月 鏡翠
2025-10-12 01:04:00
1003文字
Public 日課
 

#1868 翌朝

#毎日最低800文字のSSを書く


 休憩を挟みながら這うように野営地の場所に辿り着き、萬木は己の判断の正しさを悟った。
 野営地は、完全に踏み荒らされていた。
 ここでは暖を取ることも日に当たることもできなかったし、夜暗い中で体力を使いながら、やっと辿り着いたとして、そこで力尽きていただろう。
人足がどこに消えたのかは、近くから聞こえる烏の声が教えてくれたが、興味もなければ、弔う義理もない。
 必要なのは、食糧と装備だ。
 雨よけは吹き飛んでいたが、岩陰に隠した荷は無事だったし、明るい場所でなら、飛んでいったものもいくつか見つけることができた。
ようやく立て直し、命の心配をしなくてよくなると、萬木はようやく獣から人に戻り思考を取り戻した。
 水辺に残してきた骸や絶命を確かめられていない雛のことも気にかかる。しかし一番の懸案は記憶が途絶えていることだ。
 気を失う前の記憶を手繰り寄せる。
 龍は殺した。あとは生け捕りを狙った雛だけのはず。
 その瞬間に、何かが聞こえた。
 言葉。だがあれは音ではなかった。何かの意思に貫かれたようだった。
 あの瞬間、萬木は死を覚悟した。死んだはずの龍が息を吹き返したように見えたからだ。
 そこからあとの記憶がなく、気がつけば地面に大の字に倒れていた。
五体満足。冷えてはいたが、服が乾いてくれば問題なく動き回ることができる。
 体が病に打たれた様子もない。
 極限状態で思ったより疲れていたのだ。
 萬木はそう結論づけた。
 骸拾いが来るまでは、時間がある。それまでゆっくりと体を休めて、取り分について考えれば良い。彼らの荷馬車に乗せてもらって帰ったっていいのだ。
 兎でも捕まえようと思ったが、死体あさりのカラス以外の生き物の気配は全くなく、保存食を食うよりなかった。
 翌日、体力が戻った萬木は、龍の骸の元まで戻った。
 立派ない前足の爪と角を引き剥がすためだ。爪は上手くいったが、角は頭蓋から生えていて、手持ちの道具では歯が立たない。
 木札をかけておいて、骸拾いに任せることにした。持ち帰ることができなかった部分も、ここは狩人の取り分だと主張しておけば、あとで戻ってくる。
 彼らは妖怪の異様に固い体殻や骨に立ち向かう術をよく心得ている。
 街に戻ったら面倒な手間賃の交渉が待ち受けているが、それを除けば良い仕事仲間であり、狩猟の成果を最大限金に変えてくれる便利な連中だった。