夏から秋に少しずつ季節が変わっていく時を肌で感じながら裏山の薬草採取スポットに歩いている左近と乱太郎は少しぎこちない雰囲気の中歩いていた。実はこの二人、先日恋人同士になったばかりで今日が恋人になって初めてふたりきりになれたこともあり双方が緊張しているのだ。
「き、今日もいい天気ですねっ!」
「あ、ああ。そうだな。」
まだ恋人同士ではなかったときのほうが難なく会話が続いていたのに恋人という立ち位置にランクアップしてしまうとこんなにも会話に迷ってしまうのかと左近もその横にいる乱太郎も今現在身に染みて感じている所である。
前なら売り言葉に買い言葉で言い合いをしながらもどんな授業をしたとか、今日のランチは何セットにするかだとか他愛のない話をしながら笑いあっていたというのに。
結局、薬草の採取スポットに着くまでふたりは何の会話もしないまま、薬草採取を始めた。薬草を踏まないように細心の注意を払いながら足を進めて薬草採取をしている二人は集中しているせいか会話はなく、辺りには鳥のさざめきと木々が風によって揺れる音しか聞こえない。
乱太郎はあらかじめ保健委員会の顧問である新野洋一からこの採取スポットで採れる薬草を聞いて昨晩のうちに図書室から薬草図鑑を借りて採れる薬草を絵にしたためてきていたので、自作の薬草図鑑と照らし合わせながら足元にある草たちを見つめていた。
(確か、数馬先輩が一番欲しいって言っていた薬草はこのあたりのはずなんだけど…。)
自分の手元と足元を交互に見ながら草を踏みつぶさないように歩いている乱太郎は、そばにあった小石に気づくこともないまま、その小石に躓いてこけてしまう。
「うわぁっ!」
躓いたことによって口から大きな声が出た瞬間に、次に来る地面に体が叩き付けられる痛さにきゅっと目を瞑ると、乱太郎!という左近の声とともに手を引かれたと思ったら、ドン!という衝撃が乱太郎を襲った。
「いたたた…。」
やっぱり痛かったな…。と独り言を漏らしながら瞑っていた目を開けると、恋人である左近の顔が目と鼻の先にあって、思わずひゅっと喉から音がした。
乱太郎が転んだ瞬間、そばにいた左近がこけないようにと彼の手を引っ張ったのだが、その引っ張る力が強すぎて今度は左近のほうに乱太郎が倒れてきてしまい、今の体制と言えば乱太郎が左近を押し倒しているそんな状況になっている。
「すすすみませんっ!すすすぐどきますねっ!」
誰が見ても分かるような赤い顔をしながら左近の上から退こうとする乱太郎に左近は彼の手を引いて待ったを掛けた。
早くこの状況から抜け出したかった乱太郎は左近がどうして自分のことを引き留めてきたのかという困惑と、左近の顔が目と鼻の先にあることでキャパオーバーしているところだ。左近は自分の上で慌て切っている乱太郎にフッと笑みを零した後、キャパオーバーして思考停止している彼の唇に触れるだけのキスを落とした。
「…な、ななっ!」
今、何したんですか!?と顔をさらに赤くさせた乱太郎に左近はお前の唇にキスしたけど。とあたかもその行動が正しいですよ。とでも言うようにあっけらかんと回答した。
「なんで、いま!?」
「そこにおまえの顔があったから。」
「~っ!そういうことを言ってるんじゃないっ!」
左近を押し倒しながらポカポカと乱太郎より少し厚い彼の胸板を叩いていると、ふいに彼から名前を呼ばれて思わず反射的に顔を上げると左近の顔が近づいてきており、あ。と気づいた瞬間にまたキスをされた。
「…ははっ、顔真っ赤。」
沸騰したやかんよりも赤いぞ。と笑い続ける左近に悔しくなった乱太郎は先日房中術の授業で習った方法と同じようなキスを左近にしてみせた。
「…先輩も真っ赤じゃあないですか。」
「う、うるさいっ!その煩い口をまた塞ぐぞ!」
ほかの人が見かけたらすごい体制をしていることに二人は気づかないまま、行き道中のぎこちなさなどどこかへ消え失せ、気のすむまで二人の時間を過ごしたようである。
結局、忍術学園に帰るのが昼から夕方になってしまった左近と乱太郎は保健委員会委員長である数馬に盛大に心配されたが、ここまで遅くなった理由を聞かれた際には少し泥だらけの衣服を身に包んで二人とも少し顔を赤らめながら、猪に追いかけられて…。と答え、なんでそこで顔が赤くなるんだ…?もしかして熱!?と数馬に疑問を与えながら心配されたそうである。
了
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