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雪洞
2025-10-11 13:46:34
67171文字
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【マレ監♀長編】かたち
7章沿いの長編。二人で話した夜やリリアの夢での一幕、監督生が夢を見るif、両片思い状態からお互い自覚し想いを告げ合うまでの話。7.5のネタも若干あり。また、以前書いた「刹那」を流れに組み込んでいます。うち監設定ががっつり絡む話なのでキャラシ見たほうが分かりやすいです。
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刹那
真夜中の舞踏会に優しい時間が流れます。
王子様が亡きお母様と出会えたことを、少女は心の底から喜びました。
王子様は少女の真心に感謝し、かつて茨で捕らえたことを悔いました。
そして、宝箱の本当の鍵が、そっと開こうとしていたのです
……
。
***
かつて戦火のただ中にあった城に穏やかな時間が流れている。まるで夢現が交錯するかのような空間に、確かに幸福という名の今があった。
ふと、ようやっと涙の雨を止め始めたセベクとその頭を撫でているグリム、そして貰い泣きをしたのか微笑みながらも眦を少し濡らす彼女の姿が見えた。
じっくりと言葉を交わした夜が、随分と昔のことのように思える。あれから己にとっては瞬きの間ほどの時間しか経っていないはずなのに。
あの時間が恋しいと思った。オーバーブロットのさなかは、目的に溺れてまともに彼女の顔を見ていたかどうかさえ怪しい。
――
彼女も頑張ってたんじゃぞ?
そうリリアが自身の夢の断片を零した時に言っていた。彼女たち一人と一匹も、シルバーとセベクと共に野を越え山を越え、戦場を駆け抜けたのだと。そして、検査の合間にシュラウドもぼそりと、夢を渡る間にそれはもう色々あったのだと呟いていた。その全ての旅路にやはり彼女もいたのだという。
初めて会った時はどこか頼りなく、容易く手折れそうな花を思わせるほどだったのに
――
今の彼女は遠目からでも真っ直ぐに、しっかりと芯を得ながら立っていた。その静かな強かさがふと笑みとなって咲き零れた瞬間、ヘーゼルの瞳がこちらに向けられているのに気が付いた。
「ツノ太郎!」
視線が交わったそのとき、彼女はその甘やかな声で僕を呼び、制服のスカートを翻して駆け寄ってきた。
「エミリ」
嗚呼、何と切り出そう。名を呼ぶのも久々だというのに。そんな思いが過る間にも彼女は潤む目で僕を見上げ、こう言った。
「お母さんに会えて、よかったね
……
!」
それは、紛うことなき心からの想い。僕の幸いを真っ先に喜び涙する、まじりけのない厚情だった。
恐ろしい思いもさせただろうに、お前は
……
。
気付けば、そっと彼女に手を伸ばしていた。軽く曲げた関節の先で涙を拭ってやると、彼女はまた柔らかく笑んだ。
「お前は、優しいな
……
」
心をそっと撫でるようなその想いが、身の内に行き渡っていくような気がした。そう、お前は、優しいんだ。以前から知ったつもりになっていて、そのくせたった今、我が身をもって思い知る。お前は、僕を驚かせてばかりだよ。
エミリ。ふいに僕の世界へ舞い込んだヒトの子。
――
別れを願わない人なんて、いないと思う!
あの夜、身を切られるように発したお前の思いを、僕は心のどこかで勝手に自身の行いへの肯定に変えてしまった。皆もそうならきっと、と。僕は、お前がこれまで紡いできた生をほんの僅かしか知らない。お前がどんな思いで、何があってあの切なる声を上げたか、真に分かってなどいなかった。それなのに、お前の物語の幸せを決めつけて、お前自身が紡ぐものを途切れさせようとしてしまった。
――
今からでもエミリ、お前を知っていくことは許されるだろうか?
「
……
すまなかった」
「うん」
ずっと、ただその言葉を伝えるべきだったのだと、今なら分かる。
「僕から、お前にしてやれることはないか?」
そう尋ねると、彼女は考える素振りもなく首をゆっくりと横に振る。
「ツノ太郎が、大事なひとたちと一緒にたくさん泣いて笑えるようになったなら、それだけでいいよ」
彼女の瞳はまた柔らかく揺るがぬ光を宿す。
「わたしがここに来て、ちゃんと怒って笑えるようになったみたいに」
その微笑みは、やはり少女が花開いたことを教えていた。
「そんな無欲なことを言うな。何か一つくらいあるだろう?」
そうでなければ気が済まない。僕に叶えられることがあるなら応えてやりたい。そう告げると、彼女は少し思案して、その目を星のように瞬かせた。
「じゃあ、またオンボロ寮に散歩に来て」
それは、出会ってから重ねた僅かな時間。
「それで、また一緒に話そう。ねっ?」
本当に、本当に
――
瞬きのような短い時間だったのに。確かに重ねたそれらが、そして彼女が望んでくれるこれからが、たまらなく愛しく思えた。
何かの予感のように、一斉に胸に去来する。喜び、驚き、穏やかさ。そして避けられぬであろうこと。
――
僕がこれから初めに手を離すことになるのが彼女なのだろう。
命の終わりより早く
――
何もかもを隔てた先へとこの温もりを放さねばならない。僕のことを知らなかったお前を。僕を知ってくれたお前を。もし、その時が来たならば。
そう思うと、ひどく苦しかった。
今、彼女の優しさという名の幸福の中に在って、喜びと同等か、ともすれば上回るほどの胸の疼きが教えている。それはきっと
――
とても寂しいのだと。
散々自戒と自省をしても、性懲りもなくこの幼い欲は現れる。叶うことなら、この手を離したくない。叶わないと分かっているのに。受け入れなければいけないのに。
身体が先にお前に触れていた。
エミリを抱き上げてくるりと回ると、僕の角より高い位置から声が降り注ぐ。
「わっ、ツノ太郎?」
「はははっ! いいだろう? これくらい」
それでも、それでも、それでもと。なおも焦がれる心は叫ぶ。今だけは、いいだろう? これくらい。同じ世界に、同じ時の流れに二人で立っているのだから。
許されたい。お前と共にいることを。
「
……
踊ってくれるか?」
そっと下ろしてやった後
――
微笑みと共に伸ばされた手は、ひどく小さく、温かかった。
――
学園に戻ったら、月夜の晩にまたお前に会いに行く。そして話そう、色々なことを。でもその前に、踊り明かそう、今日のこの日を。
この愛しい温もりを、どうか僕に刻み込ませて。
今ある一瞬だけでもいい。どうか、僕の手を取っていて。
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