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雪洞
2025-10-11 13:46:34
67171文字
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【マレ監♀長編】かたち
7章沿いの長編。二人で話した夜やリリアの夢での一幕、監督生が夢を見るif、両片思い状態からお互い自覚し想いを告げ合うまでの話。7.5のネタも若干あり。また、以前書いた「刹那」を流れに組み込んでいます。うち監設定ががっつり絡む話なのでキャラシ見たほうが分かりやすいです。
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序章
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別に、自分が不幸だって思ってるわけじゃないの。
あるところに、少女がひとりおりました。
くるくるとした毛先が愛らしい蜜のような金の髪、夢見がちなハシバミの目。そんな色を持って生まれた小さな女の子は、お母さんに育てられ幸せに暮らしておりました。
少女が育ったのは、たくさんの色が集まる街でした。月が昇っても眠らぬ街はいつも負けじとぴかぴか輝いて、なんと目眩のすることでしょう。
街はもうあらゆる色で溢れておりましたから、少女は自分の色が少し人目を引くことも、お母さんたちが違う色を持つことも、気にすることはありませんでした。きらきらと光る瓶が好きなお店のおばさんも、聞き慣れない言葉遣いのお客さんたちも、みんな少女をお姫さまのようにかわいがってくれました。
ところが、ある日少女とお母さんは居場所を失ってしまいました。お店に住まわせてくれていたおばさんが、故郷に帰らなければならなくなったのです。
少女の新しい家は、静かで寂しいものでした。お母さんは眩しい光の渦の中へ出かけ、どうにか少女を養おうとしましたが、その暮らしはピンのこぼれるオルゴールのように、ぽろぽろと、たちゆかなくなっていきました。
お母さんの目は、くらりくらりと、眩しさばかり見るようになりました。
そして、忘れもしない寒い寒い冬の夜のこと。少女はまたお母さんがお仕事に行くものとばかり思いました。だから「いってらっしゃい」と眠たい目をこすって手を振りました。
お母さんは行き先を告げず闇の中へ飛び込みました。
お母さんが帰ってくることは、二度とありませんでした。
少女はおばさんの家で暮らすことになりました。初めて会ったおばさんは、お母さんの妹でした。おばさんは、どうしようもない母親に育てられた少女を哀れんで、「わたしがきちんとした人にしてあげますからね」と言いました。
少女は新しい街へ行きました。そこは朝日と共に起き月と共に眠る、きちんとした繰り返しの街でした。騒がしくない代わりに、周りは同じ色を持つ子ばかり。少女はいつしか自分の珍しい色に指をさされるようになりました。
おばさんは、少女の色にたいそう目を光らせておりました。どこから持ってきたものなの? そんな問いかけに、少女は答える言葉を持ちません。少女は何も知らなかったからです。ただ、お母さんと違うことしかわかりませんでした。
口さがない人たちのために、おばさんはお話をつくりました。少女は父親と死に別れ、それを嘆き悲しんだ母親は心身を病み遠くで暮らしているのだと。ああ、なんて哀れなのでしょう。
少女の色は本当は顔すらわからないお父さんと同じものでしたし、お母さんは今どこにいるのか誰も知りません。ですが、少女の世界では、おばさんのお話こそが正しいものでした。
少女はかわいそうなおんなのこになりました。
哀れむ代わりに誰もお母さんことを聞こうとしません。哀れむ代わりに誰もほんとうのことを知りません。
少女はしだいに自分の色がわからなくなっていきました。それが善きものかどうかすら見失っていきました。
そんなとき、たったひとり、おばあさんが少女を励ましてくれました。おばあさんは夏になると少女を緑あふれる北の地の静かな家に呼び寄せて、お休みの間ずっと豊かで瑞々しい暮らしをさせてくれました。太陽のまぶしい光に照らされて、少女の頬は色づきました。白く閉ざされた冬でも、おばあさんの元にいるときだけは、少女は心から笑うことができました。
おばさんは、服も、ごはんも、小さいけれどお部屋もくれました。学校にだって通わせてくれます。手を上げられたことなど一度だってありません。
でも、おばさんの目はいつも言っているのです。「ここはおまえの居場所じゃない」と。
少女は、おばあさんがいればそれでよいと思いました。
おばあさんのもとではどんな絵も描くことができましたし、どんな色で糸を紡いでもいいのです。お母さんがいなくても、たくさんの温もりで心が満たされていくのです。
少女はおばあさんがいてくれたら、それだけでよかったのです。
それだけで、よかったのです。
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