望月 鏡翠
2025-10-11 00:18:33
989文字
Public 日課
 

#1867 そして夜

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 雨と血液がぬかるむ泥の中で目を覚ます。
 空は暗く、闇から落ちてくる雨粒が瞼を叩いた。
 寒さに強張る体が、時間の経過を教えてくれる。動かすと関節が痛み、体が芯まで冷えていた。
 気を失っていたのだ。よりによって手負の妖怪のすぐ近くで。
 己の失態を口汚く罵りながら立ち上がり、自省するよりも先に火の用意と体を温めることが優先された。
 いつの間にか夜になっていたが、血の匂いを嗅ぎつけた獣に襲われずにいたのは奇跡に近かった。龍というのが関係しているのかもしれない。この辺りは熊のような大型肉食獣の姿を全くみない。
 体はすでに冷え切り、衣服も外套の内側までずぶ濡れだ。
 命の危険を感じる寒さだ。
 判断の鈍った頭は拠点まで戻るべきかどうか迷っていた。囮として人足を待たせていた場所だ。
 人間は噛み殺されたか、高いところから落とされて粉々になっているだろうが、野営の場所くらいは残っているかもしれない。
 わざと近くに待機させたのだ。
 しかし、空を飛ぶ龍からすれば近いというだけで、人の足で向かえば遠い。
 濡れた体で火を起こし、ごえて朝を待つのと、同じく濡れて疲れた体を引きずって戻るのと、どちらがマシだろう。
 迷った末に、萬木はそこに残って、夜を明かすことにした。
 葉が細かく密になった木の枝を落として、雨除けを作る。
 火を熾したかったが、乾いた枝は見つからなかった。
 指先が震えている。
 判断を間違えただろうか。
 葛藤するが、今更方針を変える方が悪手に決まっている。濡れた衣服が肌に張り付かぬように引き剥がし、萬木はなんとか雨風が当たらぬ場所で、朝になるまで耐えた。
 龍の肉を食って不死になるなら、食って乗り越えたいと思うくらい辛い一夜だった。
 疲れていたが、やってくる眠気はどうにも死の気配が強すぎる。
 体を動かし凍えないように撫で擦り、再び朝日の温もりを浴びたとき、心の底から安堵した。
 まだ若く体力があることに安堵しながら、雨でふやけた保存食を齧って、体力を取り戻した。
 木の上から矢を射掛け、龍の元に走ったときに置いていったものがある。木の皮をつなぎ合わせて苔で隙間を埋めて作った、周囲に紛れるための外套だ。
 使い終わればそのまま捨て置くものだが、今はともかく枝葉よりも確実に雨風を凌ぐことができる、乾いた場所が欲しかった。