望月 鏡翠
2025-10-10 01:59:22
923文字
Public 日課
 

#1866 末期の一声

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 冬が近いのは独り身の狩人にとっては幸いだった。骸が朽ちにくい。
 爪や牙、大ぶりの鱗など、特に価値が高そうな部分を先にもらい、持って帰ることができない部分は、妖怪の骸を専門に回収している連中に任せて、金に変えてもらうのだ。
 街からの距離を思うと、流石に骸も朽ちているかもしれないが珍しい龍の体だ、骨だけでも金になるだろう。
 雛は、血抜きをして持って帰ってもいいかもしれない。近くの村によって石灰か塩を買う。あるいは少し高いが氷でもいい。
 傷が少ないのを丸のまま持って帰って剥製にするのはどうだろう。
 金勘定を始めた萬木は、欲をかいた。
 龍そのものだけで価値がある。富も名声も思うがままだ。
 しかし、もっと望めるのではと考えてしまったのだ。
 一匹、二匹動けぬうちに始末した。
 頭を砕き、首を蹴り折ったとき、か細い悲鳴が背後から聞こえた。
 骸に寄り添っていた雛である。
 殺された兄弟に呼びかけているらしい。てっきり首がしまって死んだと思っていた一番小さい雛が生きている。
 戦いに集中するために、一度は沈めた考えが再び湧いてきた。あのくらいの大きさなら、捕まえて生きたまま連れ帰ることもできるのではないだろうか。
 戦いの最中に、片手にぶら下げて置ける程度の力しかないのだ。
 萬木が近づくと雛は声を上げながら、親龍の骸の上をちょろちょろと駆け回った。血で足を滑らせて落ちると、開いたままの目玉に向かって鳴いていた。
 すぐに捕まえられると思っていたのだが、雛はまだ未熟な翼をはためかせて、宙に飛び上がった。
 もう飛べるとは思っていなかった、萬木は冷静に矢を番た。
 生きたまま捕まえられたらいいと思っていたが、目の前の獲物を見過ごしてまで達成したい目標ではない。命を刈り取るつもりで放った矢は、うまい具合に少し逸れて翼に命中した。
 ぎゃ、と声を上げて森に墜落する。
 拾いに行こうとした最中、死んだはずの龍の目玉と目があった。
 気のせいであるはずだ。生き物である以上、どれほどの力を持っていても、不死ではない。だが、確かにそれは再び焦点を合わせて、萬木を見つめたのだ。
 ――許さじ。
 声ならぬ声が、体を貫いた。