望月 鏡翠
2025-10-10 01:20:40
943文字
Public 日課
 

#1865 残った雛

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 妖怪どもの命の理を、萬木は知らない。
 人の中で最も彼らと触れ合っているにも関わらず、わからぬままだった。
 命がある。おそらく知恵も。
 獣のように見えることもあるが、その営みは獣ほど単純ではない。
 しばしば、生きるためではなく敵対的な意志により、人を害する。
 人を憎むというのが、彼らの本能なのかもしれない。
 何が、獣と妖怪を分けるのか知らないが、どちらも山で出会えば天敵であり、獲物である。
 であれば、子を守る情を利用することに対する躊躇いもない。
 これは蹂躙ではなく力比べだ。知恵と力を比べ合い、勝った方が生き、負けた方が死ぬ。
 家畜の方が、よほど残酷な目に遭っているではないか。餌をやって懐かせておきながら、卵を奪い、子を奪い、殺して肉にして、乳を奪う。
 その手の営みを残酷だと思ったところで、結局萬木は油の浮くような乳をたっぷり入れて砂糖で味をつけた茶が好きだし、子羊の肉は柔らかくてうまいと思う。
人とはそういう理の命なのだ。
 子の悲鳴に焦る姿を見たとき、勝利を確信した。もう片方の目を潰せば、あとは雛を掴んでおけば良い。
 雛が鳴き声を上げる場所に、龍は爪を振るうことができなかった。
 あとは柔らかい場所を狙って矢を射掛けて、弱らせてからとどめを刺せば良い。
それでも爪の一掻きで、人を両断する力を持つ相手である。とどめを刺す瞬間が一番危うい。
 萬木は最後まで油断をしなかった。
 竜を殺すのだという高揚に身を任せることなく、淡々と確実に死んだとわかるまで急所を狙った。
 瞬きも呼吸もなくなり、舌をだらりと垂らして地面に倒れ伏したとき、ようやく肩の力を抜いた。
 あとには三匹の雛が残っていた。
 狩りの最中に首を握りしめていた小ぶりな雛はぐったりとして、死んだ親に寄り添っていた。
 あとは羽を射抜かれて弱っているのが一匹と、暴れぬように尻尾を小刀で刺して繋いでおいたのが一匹。
 爪牙は鋭いが、犬ほどの大きさしかないそれらは、野犬と同程度の脅威だった。
 武器を持たずに相手をするには、十分に危険だったし、大きくなれば当たり前のように人を襲うだろう。
 龍の骸の回収を依頼するため、街に鳩を飛ばしてから、萬木は雛を片付けることにした。