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みずあめ
2025-10-09 23:25:58
2781文字
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brmy
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槻壱
初書きのため解釈違いご容赦ください🙏
「たいがあ」
気の抜けた声が聞こえ、俺はコーヒーを淹れていた手を止めて顔を上げた。ソファーにはさっきまで春日がいたはずだけれどその姿はなく、でも確かに今の声は春日だったから首を傾げた。
「無視すんなー
……
」
「春日?」
ああ、やっぱり、春日の声だ。
手に持っていたヤカンをコンロに置き、俺はキッチンを出てソファーの正面へ回った。案の定そこには座面に横たわり体からだらっと力を抜いた春日がいた。顔色と表情、それに手足の様子を観察するようにじっと見れば春日は居心地悪そうに顔を顰める。
「どうした」
「
……
やっぱいい」
「は? なんか用があって呼んだんだろ」
「そうだけど、いーや。むこういって」
「はあ?」
しっしっ、と。力の入っていない手を振られて余計に眉間に皺を寄せた。いったいなんなんだ。細かく聞き出したかったけれどあまりしつこくすると何も言わなくなってしまうことも分かっていたから、俺はぐっと言いたいことを飲み込んだ。
「
……
コーヒー、淹れてるけど」
「ん、のむ」
「クッキーは」
「いらぁん」
「体調悪いのか」
「
……
いつも通りだから別にへいき」
「どのレベルのいつも通りだ」
「心配いらんレベル」
だとしたら、わざわざ俺を呼びつけた理由は。聞こうと思ったが春日はそれ以上の会話を拒否するように俺から視線を外しスマホを見た。顔色も話し方も、確かに心配はいらなそうではある。
それでも数秒春日を見つめ、俺はふうと息を吐いてキッチンに戻った。すっかり落ち切っているフィルターに追加でお湯を注ぎ、コーヒーの溜まったサーバーとコップ二つを持ってソファーへと向かう。まだ寝転がったままの春日はチラッと俺の方を見たけれど起き上がることなくスマホをいじり続けていた。
「今日は一日ダラダラしてるけど休みなのか?」
「そー。締め切り近いのもないし、配信も今日はしないから、ダラダラする日」
「そうか。そこ、狭くないか。ベッドで寝てりゃいいのに」
「
……
おこげ」
俺に返事をすることなく春日がぽつりと呟いた声に、おこげは「みゃう」と窓辺のひだまりの中で寝転がったまま返事をした。飼い主に似ず元気に動き回るタイプだが、今は日向ぼっこが優先らしい。
なんとなく、たぶん、もしかしたら、春日は今日は俺といたいのかも、と思った。コイツは自由なタイプではあるけれど、暇だからと言って自室から出てきて共有スペースでごろごろするようなことはあまりない。そう考えればさっき無意味に俺の名前を呼んだのも、構ってほしかったのかも?と勝手に解釈を進めていく。体調がそこまで悪くはない休日に、俺といることを選んでくれるのは、結構嬉しいかもしれない。
「春日」
「なに」
「買い物でも行くか?」
「はあ?
……
いや、行かないし。荷物持ちとか出来ないからね俺」
「え? や、そうじゃなくて
……
、あー、じゃあドライブ?」
「
……
なに? 出かけたいの?」
訝しげな顔で見られ、俺は首を傾げた。今すぐできるデートの定番はそのあたりかと思ったけれど、どうやら俺のしたいことはうまく春日に伝わっていないらしい。
よく考えれば春日は圧倒的にインドア派で、外に出かけること自体あまり好まない。一緒にいられるなら手段はなんでも良いんだから、それなら家の中でできることの方が良いだろう。
「はっ! 映画か!」
「え、なにが?」
「誓さんは今日は打ち合わせで夜まで空けると言っていたからまだしばらく帰ってこないだろうし
……
何かつまめるようなものを用意すれば夕飯をしっかり作らなくても
……
」
「大河? おーい、自分の世界に入んな」
「え? なんか言ったか?」
「見たい映画でもあんの?」
「俺はなんでもいい。春日は?」
「は? 映画見たいんじゃないの?」
「えっ、映画もダメか
……
?」
「
……
タンマ。はじめっから、話の擦り合わせしよ」
呆れたようにため息を吐いて、春日はのろのろと体を起こした。背もたれに寄りかかってテーブルの上にあるコーヒーを見つめるから、春日のコップにもコーヒーを入れて手渡してやる。
ありがと、と小さく呟いて、春日はコーヒーの水面に息を吹きかけた。弱いその吐息では冷めるのには時間がかかるだろう。
「で、大河は何がしたいわけ?」
「
……
俺は、なんでも」
「? じゃあなんでいろいろ提案してきたの」
「春日が
……
」
「俺?」
「
……
や、悪い、そうじゃない。
……
そっか」
「は? なに? 一人で勝手に納得してんなよ」
「俺が、春日と一緒にいたいと思ったんだ」
「
……
いるじゃん?」
「あぁ。でも、せっかくお互い予定のない休みだし、春日の体調もそこまで悪そうじゃないし、もっと恋人らしいことができないかと思って」
「ぶっ」
ようやく口をつけたコーヒーを軽く吹き出して、春日は目を丸くして俺を見つめた。
「
……
どうしたの、きゅうに」
「いろいろ考えたらそう思っただけだ」
「
……
恋人らしいこと
……
」
「おまえは、何かしたいことあるか?」
春日はうぅ、と小さく唸り声をあげ、両手で持っていたコップをテーブルに置いた。全然減っていないなと見ていると「たいが」といつもと違う音で俺の名前が紡がれる。
顔を向けると、春日は両手を伸ばして俺のことを見つめていた。
「
……
ん」
何を求められているのか脳みそが考えるより先に体が動いて、春日の体をぎゅっと優しく抱きしめた。耳元で吐き出された小さな小さな吐息は、安心した時のそれだった。
「さっき、大河のこと呼んだじゃん」
「ん? ああ、あれ」
「
……
別に一人で全然起きれるし動けるけど、部屋まで運んでくれないかなって思って呼んだんだよ」
「
……
そうか」
「そう。でも、なんかマジの顔で心配されてウザかったからやめた。けど、さ、恋人らしいことしたいなら、させてあげる」
「
……
、
……
なにを?」
「部屋まで連れてってよ。これはコキ使ってるんじゃなくて、大河に甘えてるやつだから、いいでしょ」
首に巻き付いた腕は、俺が何か文句を言ったら簡単に離れていってしまう気がした。調子のいいこと言って人のこと使ってるだけだろと頭の片隅で思うけれど、でも、これが春日なりの甘えならそれでもいいかと思ってしまう。
抱きしめた体は薄く、軽く、ほんの少し力を入れるだけで簡単に持ち上がった。ふっと笑う声が耳元で聞こえて肌が粟立つ。
「大河の部屋でもいいよ。大河が好きな方で、一緒にごろごろしよ」
「
……
いつも通りじゃねえか」
「ばか。恋人っぽいこと、いくらでもできんだろ」
ぐりっと擦り付けられた額におこげの存在を思い出し、立ち上がってソファーの向こうを見れば、おこげはひだまりの中で丸まって眠っているようだった。俺は心の中で飼い主を借りることを謝ってから、春日を抱いたままリビングを出た。
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