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あいづき
2025-10-09 22:26:15
Public
創作
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貴女を知る
一人の息子と一人の女
愛ってなんだろうと、聞かれたあの日が懐かしい。
すぐに答えてくれないなんて悲しいわ、なんて言われた事だって覚えてる。
だって僕は、その愛を貴女から受け取って来なかったのだから。
開け放たれた窓から届く蝉の合唱と、室内を巡る読経の音だけが聴覚を支配する。それでも、一種異様な静謐さを自分は纏っている。床から天井まで駆け巡る線香の香りは、馴染みの薄いもので。彼女が好んだ白檀の香りと言えばそれまでだけれど、それだけではない何かが自分の中を蠢いている。
今日は母の葬儀であり、参列しているのも喪主である一人息子の僕と、母が勤めていたスーパーの支店長や一部の親しくしていた従業員が数名程度の質素なものだ。本当ならもう少し報せるべき相手がいるのかも知れないが、生憎学生の僕には見当がつかなかった。母が遺したものは少ない。経済的な部分は別にして、プライベートが知れるものが異常に少ない。息子の僕でさえ交友関係を微塵も把握していない。良くも悪くも個人主義の人だと言えばそれまでだけれど。感情論で言えばもう少し名前くらい言っておいても良いんじゃないかと思う。
個人情報の塊であるスマートフォンを見ようにも、昨今ロックが厳しくて突破が出来ていない。だからこそ、倒れた現場を目撃している人々しか来ていないのだ。
僕は結局、母の事を何も知らない。
裏返せば、僕は母に興味が薄かった。
その事実が異常に重く、けれどそれこそが母の人となりなのかもしれない。亡くなってからそれに気付くなんてことが本当にあるんだという実感と共に脳が揺れる。幸い学生とはいえ成人はしているから、今後の生活に支障はないけれど。
母の事を知りたいと思ったのは、これが初めてかもしれない。
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