この世界には、マグルと呼ばれる『魔法』が使えない者と、そうでない者が居る。マグルは基本、魔法の存在を認識出来ない。ので、特別な場合を除きマグルが魔法の存在を知ることはない。魔法使いたちは魔法を隠しながらマグルと同じ世界で暮らしている。
魔法は、生まれながらに使えるものだ。そんな魔法が使える子供たちが行く学校というものがある。そこは、『ホグワーツ魔法魔術学校』。魔法が使える子供が通う数少ない学校の一つだ。11歳になると学校から手紙が来て、入学を知らされる。それはとても名誉なことであり、誇らしいことだ。
そんな中、今年もホグワーツに入学する生徒は、9と4分の3番線に集まっていた。
「9と4分の3番線なんてどこにあるんだろう…」
そう、不安そうに呟くのはモサモサした頭の少年、緑谷出久だ。
「テメエは親の話を聞けや…」
「し、仕方ないだろ?浮かれてたんだから」
あわあわと答える緑谷の隣りに居る少年は、爆豪勝己。二人は幼馴染だった。
行き交う人々が、二人のカートを不思議そうに見つめる。ホグワーツは寮生活なので、季節ごとの荷物や教科書を、一度に持っていかなければならないのだ。そんな中、爆豪は行き交う人々の中で自分と同じカートを押している人物を見つけた。紅白色の髪に、綺麗な顔立ち。爆豪でさえも見惚れてしまうほどの美しさだった。何も言わなくなった爆豪を不審に思い、緑谷もその視線を追いかけた。
「あれは…」
「行くぞ」
爆豪はそれだけ言うとズンズンと歩いて行ってしまう。それを、緑谷は慌てて追いかけた。
「なぁ」
「?」
爆豪は迷うことなく例の人物に声をかけた。その人物はビクリと肩を揺らして爆豪を見た。
(オッドアイ…)
左右違う綺麗な瞳に爆豪はまた息を呑んだ。そんな爆豪を見ている少年は、コテンと首を傾げて不思議そうにしている。
「何か用か?」
「…ホグワーツ、お前も行くンか?」
「あぁ」
「…9と4分の3番線、行き方教えろ」
「良いぞ。こっちだ」
少年はカートを押しながら歩いていく。爆豪はそれについて行きながら口を開いた。
「お前、今年からか?」
「あぁ、…もしかしてお前もか?」
「おぅ」
「お、ここだ」
少年はある柱の前で立ち止まる。そこは、9番線と10番線の間の壁だ。
「9番線と10番線の間の壁に向かって行けば入れる」
「あんがと」
「…うん」
少年は少しだけ寂しそうに言う。そんな少年を見て爆豪が口を開きかけた時だった。
「かっちゃん!ようやく追いついた…」
「るせぞクソナード!」
「辛辣!!」
爆豪がガウ、と吠えるが緑谷は慣れたようにかわす。そんな二人を見ていた少年は、キョトンとした顔をしている。
「友達か…?」
「え!いや、友達と言って良いのかわからないんだけど、友達という対等な間柄というわけでもないし…」
緑谷は自分の顎を掴んでブツブツと呟く。早口すぎて少年には何を言っているのかわからないようだ。
「ただの幼馴染だわ」
「そうなのか」
「幼馴染…うん!僕は緑谷出久と言います!」
「お、俺は轟焦凍だ」
「よろしくね、轟くん!」
緑谷はニコッと笑う。そんな会話をぼんやりと聞いていた爆豪の肩を、轟がちょんとつついた。
「?」
「名前…知りたい…」
「爆豪勝己」
「よろしくな、爆豪」
轟はふわりと微笑む。その破壊力に緑谷の目がやられたのは、言うまでもない。
その後、どうにか回復した緑谷の一言で三人は9と4分の3番線に足を踏み入れた。壁に向かって走ると、壁にぶつかることなく通り向けた。駅のホームには汽車が停まっていて、多くの家族がホグワーツへ向かう子供の見送りをしていた。荷物を駅員に渡して汽車の乗る。汽車の中は幾つかの個室になっているようだ。
「轟くん、よかったら一緒に座らない?」
「いいのか?」
轟はチラリと爆豪を見る。その視線に気がついた爆豪はポン、と轟の頭を撫でて空いていた個室に入った。轟は彼の行動に驚いていたが、嬉しそうに頬を緩めて爆豪が入った個室に入った。
「かっちゃんがあんなことするなんて…」
そんな緑谷の呟きは誰も聞いていなかった。
汽車が出発してから数分、席順は窓側に爆豪、その目の隣りに轟。爆豪の前が緑谷という、緑谷にとってはなんとも言い難い席だった。普段粗暴で乱暴な幼馴染が、窓の縁に肘をついて外を見ている。さらに詳しく言うのなら、窓に映った轟を見ている。緑谷はそれを横目に見ながら轟と雑談を続ける。
「僕の両親とかっちゃんの両親は二人とも魔法使いなんだよ」
「そうなのか、……いいな」
ポツリと呟かれたその言葉。それの言葉の意味を爆豪たちが知るのは、もう少し先のこと。
そんな時、反射した向こう側を見ていた爆豪が、個室の外を通った生徒がローブを着ていることに気がついた。
「そろそろ着替えるか」
「あ、もうそんな時間か、早いな」
「あっという間だったね」
「うん」
ニコニコと笑う緑谷に爆豪は舌打ちを零しながら、自分も着替えるために立ち上がった。
汽車から降りた三人は、漕がなくても動く船に乗ってホグワーツに向かう。ホグワーツはとても大きく、特に一年生には大きな感動を与えた。船から降りて城の中に入ると、丸眼鏡を付けた人物が生徒の前に現れた。歳は五十くらいだろうか。いかにも魔女、という格好をしている。彼女はマクゴナガルと名乗った。
「準備があるので此処で待ちなさい」
大きな扉の前で、一年生は立ち止まる。マクゴナガル先生は一度広間に入って行った。残された生徒のザワザワとした空気の中、轟に話しかけてきた人物がいた。
「もしかして君が、轟炎司の息子かい?」
「…?」
轟の目の前にで出てきた人物は、金髪の髪をしていた。嫌味を含んだ言い方に轟は眉を寄せた。そんな轟に、彼はマルフォイと名乗った。
「もしかして、隣りに居る二人が君の友達?」
「……」
「君のような貴族には似合わないよ。僕が友達を教えてあげる」
マルフォイは握手を求めるように手を差し出す。けれど轟はその手を振り払う。
「友達くらい自分で選ぶ」
美人が怒ると怖い、とはよく言ったもので。轟からは怒りが滲み出ていた。そんな轟にマルフォイはふん、と鼻を鳴らしただけだった。辺りがピリピリとた空気に包まれる。その空気を破ったのは、いつの間にか戻ってきたマクゴナガル先生だった。
「用意が出来ました。来なさい」
先頭に居た生徒が先生の後を追う。そんな中、轟は俯いたまま動かない。父親の名前が知られていることは分かっていた。けれど、こんなにも早く言われるなんて。轟は無意識に、顔の火傷を手で覆う。けれど、そんな轟の手を掴んだ人物がいた。
「大丈夫かよ」
「…ば、くごう」
爆豪は轟の声が震えていることに気がつくと、彼の頭をポン、と撫でる。
「行くぞ」
「…うん」
爆豪は轟の手を掴んだまま、広間へと足を踏み入れた。
そこは、全校生徒が集まることができるほど広く、天井は空を映し出している。4つの長い机が縦に置かれていて、それぞれ生徒が座っている。
「ここで止まりなさい」
マクゴナガル先生の言う通り止まった生徒たちは、周囲からの視線にそわそわしつつ前を見る。
「此処で暮らすにあたって、皆さんには各々寮に入ってもらいます。ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、そして、サラザール・スリザリン」
マクゴナガル先生は隣りに置いてある古びた帽子を持ち上げてから言う。
「寮は帽子が決めてくれます。名前を呼ばれた者から前に来なさい」
それから、次々生徒の寮が決まっていく。すぐに決まる者もいれば、中々決まらない者もいる。そんな中、マルフォイが呼ばれる。彼は用意されていた椅子に座り、マクゴナガル先生が帽子を乗せる。帽子が触れるか触れないかのギリギリで、帽子が「スリザリン!」と叫んだ。スリザリンの寮生は喜び、マルフォイを歓迎していた。それを見ていた三人の耳にヒソヒソ声が聞こえる。
「闇の道に堕ちた魔法使いはみんなスリザリンなんだって」
「へぇ…」
その声を聞いて、轟は不安になってくる。自分はもしかしたらスリザリンかもしれない、という考えが轟の頭の中を埋め尽くす。
ーー怖い。
「轟、」
そんな轟の名前を優しく呼んだのは、先ほどから手を握っている爆豪だった。
「大丈夫だ、帽子はお前の希望を聞いてくれる」
爆豪はそれだけ言うと、名前を呼ばれて前に出ていく。離れてしまった手が恋しい。轟は理由もなくそう思った。その頃、緑谷はグリフィンドールに選ばれ、歓迎されていた。
爆豪が椅子に座る。帽子が乗せられる直前、
「グリフィンドール!」
甲高い声が響いた。その後、轟の名前が呼ばれる。そんな彼を見た生徒からは、様々な声が上がる。
「あれが轟炎司の…」
「カッコいいね」
「あの火傷…呪いか何かか?」
「あいつ絶対スリザリンだな」
悪意、嫉妬、興味、好意。人間の様々な感情をごちゃ混ぜにした視線を、轟は受けている。幼い頃からたくさんの視線を浴びてきた轟にとって、これは日常的なこと。我慢していれば、何も感じなくなる。轟は無表情のまま椅子に座る。そうして、被された帽子が唸り始めた。
「うぅん…難しい…実に難しい…」
緑谷と爆豪も、それをじっと見守っている。そんな中、轟の脳裏に二つの寮が浮かんだ。一つは、格式高いスリザリン。もう一つは、緑谷と爆豪同じであるグリフィンドール。どちらが良いか、聞くまでもない。
「グリフィンドール!!」
帽子の声が、広間に大きく響き渡る。それから一拍置いて、生徒から歓声が上がった。 帽子を脱がされ、グリフィンドールの机の前に立った轟を生徒は温かく迎えた。
「これからよろしくー!」
「轟くん、よろしく〜!」
緑谷も他の生徒も、少しの戸惑いはあったようだけれど何も言わなかった。そんな中、轟は爆豪の隣に座った。目の前の緑谷が驚いた顔をしているが、轟は気づいていないようだ。
「爆豪、ありがとう」
「ン」
轟の微笑みに、爆豪は少しぶっきらぼうに答える。それが照れ隠しなことは、轟以外の全員が理解していた。
それから、数分後、新入生全員の組み分けが終わった。それを合図にダンブルドア校長が手を叩くと、机の上に豪華な料理が並べられた。それを見た生徒から、歓喜の声が上がる。
「轟、どうした?」
「え、あ…いや…」
どう見ても不安そうな轟に、爆豪は声をかける。その優しさが、彼の傷ついた心を癒してくれている。轟はそれだけで、幸せな気持ちになるのだ。
「どれ食べようかなって」
「好きなの食やいいだろ」
爆豪はパッパと近くの皿から料理を取って、彼の皿に乗せた。
「ありがと」
「ン」
側から見れば、二人はもう長い間付き合っているように見える。それほど、甘い空気が流れていた。けれど当の本人たちは、想いを自覚してはいないのだ。それを見ていた緑谷は、これから起こりそうな波乱に小さくため息をついた。
夕食が終わると、一年生はそれぞれの寮の監督生に案内されながら、これから自分たちが世話になる寮へと足を踏み入れた。
「気をつけて、階段はじっとしてないから」
「じっとしてない…」
疑問に思った緑谷が上を見上げると、動き回る階段が数多くあった。
その後、大きな絵に居る女性に合言葉を言い中に入る。
「じゃあ今日は解散。しっかり休んでくれ」
それぞれが部屋に入っていく中、一人だけ動いていない人物がいた。轟だ。談話室にある暖炉を眺めながら、マルフォイに言われたことを思い出していた。
『轟炎司の息子』
それは轟にとって、トラウマそのものだった。幼い頃は魔法使いとして相応な実力を身に付けさせるため、父親は轟に厳しい教育を強いた。できるだけ多くの知識を植え付け、役に立つように。時には暴力や暴言も吐いた。母はマグルだったようで、様々なストレスから母は心を病み、幼い轟に煮え湯を浴びせてしまった。
ーー母はきっと、溢れてしまったんだ。
母を傷つけ、家族をバラバラにした。そんな父親を、轟は許せなかった。だから父親の反対を押し切り、ホグワーツに入学したのだ。
「轟、」
過去のしがらみを抑えていた轟に、爆豪は優しい声をかけた。その後ろには、様子を見守るように緑谷がソファに座っている。
「ばく、ごう」
「話、言いたくないなら聞かねぇ」
「…うん」
そう言って優しく頭を撫ででくれた爆豪の姿が、轟の記憶の中の母と重なった。出会って半日ほどしか経っていないのに、どうしてこんなにも優しくしてくれるのだろう。轟は不思議で堪らなかった。
「…聞いて、くれるか?」
覚悟を決めたような轟の声は、震えていた。その変化に気付いた爆豪は、彼の手を引きながら部屋に繋がる階段を上がっていく。こんなところでする話ではないと思ったからだろう。緑谷はオロオロとしていたが、轟が「大丈夫だ」と声をかけたのでついて行くことにした。
階段を上がりドアを開ければ、円を描く様にベッドが並べられている。そのベッドの上に乗っているのは、彼らが汽車に置いてきた荷物だろう。
それぞれが割り振られたベッドに座ると、轟は俯きながらも自分の境遇について話し始めた。
話を聞いている間、二人は何も言わなかった。そうして話終わった時には、日付けが変わっていた。
「ごめん…もうこんな時間…」
「謝ることないよ!」
申し訳なさそうな轟の声に、緑谷は言う。それを聞いた彼は、嬉しそうに微笑んだ。
「なんかあれば聞いてやる。でも今日は寝ろ」
「うん、ありがとな」
ボスン、と爆豪ベッドに寝転んだ。もう着替えるのさえ億劫だ。明日着替えよう。三人はそんな事を思いながら眠った。
《翌日》
この部屋で一番初めに目覚めたのは爆豪だった。スーツケースから服を取り出し着替える。それから髪を整えていたところで、轟がモゾモゾとベッドから起きてきた。所々髪が跳ねているが、それでも尚美しいのはどういう事だ、と爆豪は独りごちた。
「はよ」
「おはよう…」
爆豪はふっと、笑うと、まだ眠そうな轟の側へ行き彼の寝癖を櫛で直してやる。綺麗に整った髪を見て満足そうに笑った。
「ありがとう」
「おー」
そにまま何事もなかったように服を着替え始める轟と、教材を用意し始めた爆豪。そして忘れてはいけない緑谷。彼は起きるタイミングを完全に失っていた。あの幼馴染みが、出会って一日ほどの彼に世話を焼いている。それがどれだけ驚く出来事なのか。これは彼しか分からない難題であった。
入学して最初の授業は魔法薬学だ。どうやら一年生全員が一斉に行うようで、スリザリンの生徒も席に座っている。轟と爆豪、そして緑谷は前から3番目の席に腰を下ろした。木材で作られた教室は少し薄暗く、ホグワーツの歴史を感じさせる。ガヤガヤという教室に、バン!と扉を開けてスネイプ教授が入ってきた。
「この授業では杖を振ったり、馬鹿げた呪文を唱えたりはしない。魔法薬調合の微妙な科学と、芸術的な技を諸君が理解できるとは期待していない」
漆黒のマントを靡かせながら入室してきたのは、暗そうな雰囲気丸出しのスネイプ先生だ。
続く…?
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