空宮 ゆき
2025-10-09 02:45:35
1083文字
Public 輪廻の唄
 

手記:20XX年6月30日


 おかしくなりそうだ。
 あの日、確かに僕はそれを受け入れてしまった。
 それが間違いだったと気づいたのはあれから数年経った後だった。

 僕は本当に27歳から進めなくなってしまった。

 おかしい気はしていた。
 いくら傷つけても半日あれば元に戻る身体。随分経っているはずなのに消えない傷。
 不安をぬぐえないまま、その日を迎えてしまった。

 危篤になった先生……養父のもとへ走る。実の息子ではなく、僕を呼んでいるそうだ。

 「君に1つだけ……悪いことをしてしまった。もうここで白状するしかない。」
 危篤と知らされていたが、先生の状態はまだ安定していた。妙に落ち着き払った様子に違和感を覚えるほどに。
 「君も賢いから気付いているだろう。自分の身体がどうなっているのか。」
 「先生?」
 「私は君を、失ってしまうのが怖かった。」
 「……。」
 「君はいつでも、私を信じてくれた。」
 「先生には返しきれない恩がありますから、当然のことです。」
 「私は、君のその心を、利用してしまった。」
 「え……?」
 先生の言っていることが上手く理解できない。僕を、利用していた?先生が?
 「落ち着いて聞いてほしい。あの日君の身体に施したものだ。」
 「……。」
 「もし、私の実験が、間違っていなければ……君は不老不死になった。」
 「え……?」
 「あの実験で、20数人に対して遺伝子操作をしたんだ。生き残った者は皆、回復力が上がっている。」
 「はぁ……。」
 「君が一番うまくいったんだ。あれから一切姿が変わっていないのだから。そうに違いない。」
 「……わかりません。証明できてないじゃないですか。」
 「そう、か。君はそういう子だったね。」
 「先生?」
 「1つ、ここで約束してくれるか?私のわがままなのだが……。」
 「どうぞ、何なりと。」
 「輪廻転生を証明したい。」
 「不老不死の次はそこなんですか……僕を証人にしたかったってことですか?」
 「あぁ。もう一度出会いたいと思ったからな。」
 「……待ちます、でも二世紀くらいにしてくださいね?」
 「大丈夫、私は必ず君のもとに行く。」
 「……信じますよ。先生。」

 そのあとのことはよく覚えていない。冷たくなっていく先生の手を握りしめて。どうしたっけ。

 ​先生、僕は貴方が戻ってくるまで、どうしていればいいのでしょうか?

 今日は、誕生日だったっけ。まともに祝ってもらった記憶もないし、そこまで大事にもしていないが。
 ​少し贅沢をして、心を労わっても怒られはしないだろう。