goya
2025-10-09 01:42:05
657文字
Public TOV
 

稿

首席+ナイレン隊長の絡み / 過去作のリライト途中のもの

  煙草たばこをダングレストから帝都へ持ち込んだのは、単なる気紛れだった。
 〈ギルドの幹部〉がストレス解消と自傷行為を兼ねて購入したものだが、〈帝国騎士団隊長首席〉が持つにはミスマッチな嗜好品であるし、少々品性に欠ける。英雄として脚光を浴びる機会も減り、恙無つつがなく二重生活を送っているとは言え、評議会の連中に見られでもしたら厄介だ。
 シュヴァーンはアレクセイの駒として弱みを握られないように、そしてふたつの顔を紐付ける証拠を残さないように、常日頃から気を配っていた。
 ……はずだったのだが。魔が差したかな、とシュヴァーンはひとりごちた。

 帝国騎士団本部――柱廊がぐるりと囲む中庭は、見通しの利くようでいて、意外なことに死角がいくらか存在する。
 シュヴァーンは人気ひとけの無いことを確認し、柱と手摺り伝いに屋根まで飛び移った。高度が上がって、何者にも遮られずに吹き渡る夕風とぶつかる。眼下に広がる街は落日を拒むかのように暮れなずんでいた。
 屋根の緩い勾配に腰掛け、懐から紙巻きの煙草を取り出すと、おもむろに一本くわえた。片手で風除をつくり、出力を絞った魔術で火をつける。
 手慣れたものだ。吐き出した自嘲は、煙に混ざって瞬く間に霧散した。
「意外だな、もっと生真面目な野郎だと思っていたんだが」
 ふと己にかかる長い影。
 後頭部へ落ちてきた声に不意を突かれて、その勢いのまま息を吸い込んでしまう。喉への刺激に咳き込みながら振り返ると、滲んだ視界の中で海色の隊服を着た男がにかりと笑った。