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青色
2025-10-08 22:50:27
4262文字
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燭鶴「キャンディ」
パン箱さんのイラスト(
https://x.com/box_of_baguette/status/1975218651038183671
)を元に書きました。
記念日に待ちぼうけくらってる鶴さんと、キャンディと、光忠くんがくれるキャンディより甘いものとか、そういう感じです。いちゃついています。
文中にちらっと出てくる福ちゃんのお相手についてはご自由に想定してください。
なんか光忠くんって鶴さんにダメ出しされてもそれを睦言と思ってそうな気配ある。確かに鶴さんの光忠くんへのダメ出しって睦言なのかも。(?)
鶴丸は街角の公園のベンチに腰掛けていた。
今日は令和への遠征任務で光忠と二人でこの街にやってきている。向かってみれば任務自体は些細なものだったので早く片付いていた。今は任務の完了報告を本丸に送り、帰還指示を待っているところだ。
指示があるまで恋人である光忠とベンチでおしゃべりでもしていようと思っていたのだが、彼は用事があると言って一人で買い物に行ってしまった。
だから鶴丸は独りでこの公園で待っているのだ。おおかた光忠は2205年では手に入りにくい調味料を調達しに行ったのだろう。光忠が出発前に何かの購入申請を済ませていたことを鶴丸は知っている。
待っているあいだ、暇したらいけないから、と光忠からは棒付きキャンディを二本もらった。これは先ほど通りがかった雑貨屋のキャンディの自動販売機で彼が獲得したものだ。だからそのうちの一本をとりあえず舐めて鶴丸は光忠を待っている。これは、ソーダ味。
かなり小さくなってしまったが、鶴丸はそれをかじらずに丁寧に舐めて味わっていた。
というのは、このあいだ長谷部にのど飴をもらった時、口に放り込んだ瞬間からガリガリかじっていたら、それを見ていた光忠に「鶴さん、飴はね、ゆっくり舐めて味わうんだよ」とたしなめられたからだった。
だから、きみにもらった飴は大事に舐めているぜ、光坊。
そんなことを頭の中で呟きながら舐めていたら、ソーダ味のキャンディは棒だけになってしまった。まだ光忠が来ないので二本目の包みを開けて、口に咥える。
今日は言われたとおりにちゃんとゆっくり舐めて味わっているのに、もう二本目だ。ゆっくりじっくり舐めているのに。
ちょっとこれは待たせすぎじゃないか?と鶴丸は口をへの字にした。実は、今日は鶴丸と光忠との、恋人としての記念日なのだ。そうだというのに、なんだか手持ち無沙汰に待たされている。
記念日に愛しい恋人を放置していていいのか?それでいいのかい、伊達男。
鶴丸はそこまで記念日やイベントに執着するタイプではないけれど、少し、寂しいと思う。いや、記念日だとかそういう問題ではなく、独りでぼんやりとしているのが寂しいなと思うのだ。すっかり光忠と二人で一緒であることに慣れてしまった。
鶴丸は引き続き二本目の棒付きキャンディーを舐めている。これはいちご味。
このベンチは歩道に対して背を向けているので、鶴丸の背後にはいろいろな足音の人が歩いて行った。軽やかな足音、重たい足音、子供、老人、女性、男性。
しばらく道行く人の足音に耳を傾けていたら、その中でひときわ輝く足音を鶴丸の耳は拾った。目を瞑って、その足音に集中する。
上等な革靴が地面を蹴る音、自信を帯びた、やや大股なリズム。
間違いなく、光坊だ。
鶴丸はすぐに振り返りたい気分だったけれど、そうするとあまりにも待ちわびていました!という感じになる気がして、格好をつけるために鶴丸はあえて振り返らなかった。そもそも、光忠と決まったわけではないし。足音はすぐそばまで近づいてくる。いや、この足音はやっぱり彼のものだとしか考えられない。そう思った瞬間に、背後からよく聞き慣れた声がする。
「つーるーさん」
ほらな、御名答。
鶴丸の予想どおり背後から現れた光忠は、鶴丸が座っているベンチに後ろから回り込むようにして姿を見せた。何かを右手で後ろ手に持っているようだけれど、ちょうど角度的には分からなかった。
「ごめんね、けっこう待ったでしょう。お待たせ」
彼はとびきり甘い声でそう言って、困ったような顔をする。その声と表情だけで鶴丸は独りで待たされたことを一瞬で許してしまったけれど、すぐにそれを示すとあまりにちょろい気がしたので、キャンディを加えたままでじっと光忠を見つめた。
「ふふ、そのキャンディ、おいしかった?」
彼はこちらの内心を分かっているのか分かっていないのか微笑んで、左の指先で鶴丸の頬を撫でると、ちょん、と鶴丸が咥えたままのキャンディの棒を触った。
キャンディの味は、可もなく不可もない。適度に甘い、よくあるいちご味だったのだが、鶴丸は光忠の問いにあえて首を振った。首を振って、咥えていたキャンディを口から出すと、代わりにねだるように光忠を見上げた。口直しをくれ、という意味だ。
この伊達男ならすぐにこちらの意を汲んでくれるだろうと思ったのだけれど、唇は下りてこない。その代わり、何かがやわらかく胸元に渡された。条件反射で空いているほうの手で抱えて受け取る。
視線を落とすと、渡されたのは大きな花束だった。黄色を基調とした、鮮やかな花束。後ろ手に隠していたのはこれだったらしい。
「
……
?どうしたんだい、これ。俺にか?」
「うん、今日、記念日でしょう?鶴さんに大きい花束渡したいなって思ってて」
そういえば先日、福島から大きな花束を渡されている男士を見て(彼らはたぶん恋仲なのだろう)、片手で抱えるのに余る花束を自分も受け取ってみたい、と呟いたのだった。なんだか浪漫を感じたのだ。さすが伊達男、それをしっかり覚えていたのだろう。
「鶴さんの瞳に合う色がいいなって思って見てたんだけど、けっこう迷っちゃって。時間かかってごめんね」
「この花は全部光坊が選んだのかい?」
「うん、もちろん。お花のバランスとかはお店の人にアドバイスもらったりしたけど」
これを全部、と鶴丸は花束をじっと見た。何本あるか、ざっと見る限りでは数えられない。しかし、この一本一本を選ぶあいだ、光忠は鶴丸のことだけを考えていたことになる。花束の良し悪しは鶴丸にはあまり分からないけれど、しかし、この花束は今、世界で一番素敵なものに見えた。勝手に顔がほころんでしまう。
「よかった、その顔は気に入ってくれたってことでいい?」
「あぁ、きみが選んだというのがとても良いな。俺だけの花束だ。
……
だがな?光坊、サプライズというのは入念な仕込みが大事なんだ。分かるかい?きみはこのサプライズのために恋人を待たせすぎだ」
「あはは
……
、手厳しい。ごめんね、退屈だったね」
鶴丸の言葉に恐縮しながらもどことなくなんだか機嫌が良さそうな光忠
――
よく分からないが彼は鶴丸にダメ出しをされるとなんとなく喜んでいるときがある、よく分からない
――
は、鶴丸の隣へ、ベンチに腰掛けた。
「いや、退屈だったわけでは、ないが
……
」
鶴丸は片手に大きな花束を抱えたまま、もう片方の手に持ったままだったキャンディを再び咥えて、視線を光忠から逸らした。
退屈だったわけではない。ただちょっと、寂しかっただけで。
今、こうして改めて舐めるとこのキャンディは大して甘くないように感じる。チープないちご味だ。
もっと甘いものが欲しい。たとえば、光坊のキスとか。
だから、それをねだろうと、鶴丸はキャンディを舐めるのをやめて名前を呼ぼうとしたのだけれど。
それよりも早くキャンディの棒を持っていた手に光忠の手が触れて、口からキャンディを取り上げられた。
「
……
?」
次の瞬間、抱えた花束ごと抱きしめられるようにして光忠に口づけられていた。一秒、五秒、十秒ともう少し。長い。
しばらく二人は溶けあって、そして余韻を残して光忠の唇はゆっくり離れた。
「
……
真昼間の公園で、大胆だな、光坊」
「そう?だって鶴さん、ずっとキスしてほしそうな顔してるから。してあげたくなっちゃうよ」
「なっ、
……
いや、そんな、ことは」
なくは、ないけれど。でもはっきりとそれが光忠に伝わっていたというのはどうも恥ずかしい。
照れを隠そうと思って光忠に取り上げられたキャンディを取り返そうとした。咥えて決まりの悪さを誤魔化そうと思ったのだ。しかし、光忠がさっと後ろに手を引いたので、鶴丸の手は届かなかった。
「おい、俺の飴だぜ。返してくれ」
「だーめ、もうキャンディはおしまいです。甘いのが欲しくなったら僕がいくらでもあげるから」
光忠はそんなことを言って、空いているほうの手を鶴丸の方へ伸ばしてくる。彼はその指先で、鶴丸の唇に触れた。
「だって、もう、鶴さんはこのキャンディを甘いと思えないはずだよ。とびきり甘いのを味わっちゃったでしょう?」
鶴丸は無意識に唇を舐めた。そこには先ほどのキスの余韻がまだあって、煮詰めた砂糖のような甘さを感じる。そんな気がした。甘い。けれど、もっと欲しい。
「光坊、どうやら俺は甘党だったみたいだ。このくらいの甘さじゃまだ足りない」
「ふふ、そうかなぁって思ったよ」
「なら、もっと甘いのをくれるかい?」
鶴丸がねだるように首を傾げると、光忠は微笑んで、しかし、首を振った。
「鶴さんが言うようにここは真昼間の公園だから、部屋に戻るまでは」
彼は唇の前に人差し指を立てた。お預け、ということである。
「でも、部屋に戻ったら、今日はいくらでも」
「
……
言ったな?」
鶴丸がそう言って、誘うように光忠を上目でうかがったら、彼は鶴丸から取り上げたキャンディを口に入れてガリガリかじっている。
「おいおい、きみが飴をかじるなって俺に言ったんだぜ?」
「うん、でもね、こうしないと今すぐにかわいい鶴さんを食べちゃいそうだったから」
キャンディをかじりおえた光忠がそう言って、困ったように笑った。
「これ、悪くはないけど、面白みはない味だね」
「そうだな、俺は光坊がくれる甘いののほうが好きだ」
「僕も甘い鶴さんのほうが好き」
彼はそういいながら鶴丸の頬に手のひらを添えて、親指でこちらの唇を撫でた。口を開いたら、早く欲しいとねだりそうだったので、鶴丸は口を開く代わりにぎゅっと花束を抱きしめた。
「いいなぁ、花束は鶴さんにぎゅってされて」
「花に嫉妬してどうする」
「まぁ、そうだけど、それだけ鶴さんのことが好きってこと」
「はは、そりゃ恋人冥利に尽きるってやつだな」
真面目な顔をして言う光忠を見て、鶴丸は笑った。記念日に待ちぼうけをくらったことなどすっかり気にならなくなっている。
もらった花束で顔を半分隠しながら、鶴丸は続けた。
「俺もきみのことが大好きさ、光坊。末永く愛してくれ」
「もちろんだよ」
光忠が花束ごと鶴丸を抱きしめた。甘いキスは、部屋までお預け。お預けのぶん、きっととびきり甘いだろう。
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