ゆうり
2025-10-08 15:50:03
5236文字
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推しへの投資について。

転生現パロ界のヘクジェラちゃん達がお互いの推しに入れ込む話。
CP推しってなんて言う…(* ᐕ)?

「なにコレ?」
課題が立て込んでいた事もあってジェラールが数週間ぶりにヘクターの自宅を訪ねてみれば、いつも2人で食事をするのが精一杯のローテーブルの上には前世の自分を似せたぬいぐるみやアクリルスタンドなどのグッズの数々が積まれていた。商品名を見てみれば全部ジェラール様くじ?
「なにコレ!?」
「そんなに強く責めなくてもいいじゃないですかオレも反省してるんですよ!!」
当の問題児、ではなく問題の大人であるヘクターは半泣きを通り越して全泣きと言ってもいい。
良い大人がグッズメーカーの策略に上手い事引っかかってどうするのか。
そもそも本物の自分はここに居るというのにそんなにも偶像のジェラールが欲しかったのか。
いくらヘクターが反省の弁を述べようがジェラールはヘクターに対して胡乱な目を向けざるを得ない。本当に何をやっているんだかとしか言えない。
べこべこに凹んでいるヘクターのへこみが戻るまでは時間がかかりそうなので、ジェラールは溢れそうに積まれた前世の自分グッズを検分する事にした。
一番目に付きやすいのはど真ん中に置かれた大きなぬいぐるみだ。試しに手に取って抱いてみるが大人が抱いて寝てもいいくらいのサイズである。抱き心地もふかふかとして悪くはない。
ジェラールがぬいぐるみの柔らかさを堪能していると絶賛凹み中のヘクターから要らない一言が入る。
「それ一番上のA賞なんですよ!2個しか在庫ないやつで
「ああそう。」
正直どうでも良かった。


「君さ予算的な物もどうかと思うし場所的にも結構な割合を占拠されてるわけだけど何がしたかったの?」
……ラストワン賞が欲しかったんです……。」
「何それ?」
「最後のくじを引いたら貰えるオマケですかね?」
ジェラールにとっては未見の世界の事なのでピンと来ないが字面の通りならば最後に残ったくじを引いたら貰える賞という事だろうか。
そういえばローテーブルの端に1箱だけ被りのない賞品があったように思えた。
ジェラールがその箱を手に取って良く見ると記載もあるのでこれがそうなのだろう。
中身は皇帝継承した後の前世の兄からの引き継ぎの黄金の鎧を身にまとい、外套を翻して剣を構える前世のジェラールの姿のフィギュアだった。
箱の中に入っているので細かい所までは分からないがなかなか精巧に作られている代物のようだ。
だがヘクターがこれを欲しいがために最後までくじを引き切ったという事は、この姿の前世の自分への執着心の現れだったりはしないのかと思うとジェラールは何となく不満だった。
「そういえば君は皇帝の私に傾倒してたものね。」
第二皇子期は目を合わせるどころかこちらの気配を感じるだけでも避けられていたのに、前世の父の力を継承して帝都を脅かす魔物達を討伐後はその力を認めて皇帝であるジェラールにそれまでの事を謝罪し仕えてくれた。
ヘクターからしたら即位後の姿の方が当たり前かつ自然なのだろう。
よくよく見れば他のグッズもどちらかと言えば黄金の鎧姿の物が多いように見えるので、ヘクターの需要には合っているのかもしれない。何故かA賞の大きいぬいぐるみは白いケープを羽織った姿だが。
ジェラールは近くに置いてある抱き心地の良かった自分姿のぬいぐるみを引き寄せてぎゅうと抱きしめる。正直このモヤモヤはどこにぶつけたら良いのか自分でも分からない。
ヘクターにぶつけたいのか、前世の自分にぶつけたいのか。
ジェラールがちらりと横目でヘクターを見ると疑問を持ったような顔でジェラールの方を見ているがまあそうもなるだろうとは自分でも思う。こんなやり場のない怒りで駄々をこねるなんて、子供でもないのに。抱きしめた自分ぬいに顔を埋めて何とか感情を逃がそうとすると声が掛かる。
「あの?」
ごめん、私が勝手に変な事言ってるだけだから、放っておいてくれていいよ。」
「あの、オレはあの時は皇帝のジェラール様にという訳では無くてですねあれだけの事をやったオレに対して膝を折って目線を合わせて俺を求めてくれた貴方に惚れたんですけど。」
相変わらず自分ぬいを抱き抱えながらジェラールは今ヘクターに言われた事を反芻する。だって前世でも聞いてない事を今聞かされたような気がするのだから。
「あの、今のって?」
「記憶の容量が大きくなりすぎてわかんないですけど、今まで貴方に伝えてはいないかもしれませんね。」
もちろん想いの確認はし合っているけども、じゃあ何をきっかけにいつからなんて事は改めて確認する機会も無かったのでその話はジェラールにとっては初耳だ。まさかあれから2000年以上の時を越えているのに今更が過ぎる。
「格好とか立場じゃなくて、アンタそのものに惚れてるので皇帝だからとか関係無いです。」
じゃなかったら今世でまでここまで執着してないです、と更に釘を挿されて先程まで落ち込んでいたジェラールの気分はどこかに飛んでしまった。
あまりの衝撃にジェラールが動けないでいるとヘクターに抱いていたジェラールぬいを奪われて脇に置かれる。
「まあこれも可愛いとは思うんですけど、抱きつくならオレにしてくれた方が嬉しいです。」




​───────​───────​───────

「なんだろう、特にこれといってなにかした訳じゃないのに疲れた。」
普段ならそんなだらしのない姿を見せる訳にはいかないのだが今日はとにかく消耗が激しかった事もあってジェラールは自宅リビングのソファに倒れ込む。
とりあえず自宅に着いた事をヘクターに連絡しておこうとソファの近くに置いた鞄からスマートフォンを取り出そうとすると、ころりと転がるのは自分と良く似た赤毛を模した小さなぬいぐるみ。あの後いくつか被っているのでとヘクターから譲られた。
ボールチェーンが付いていて鞄に付けたりしてもいいのだろうが、流石に自分の姿のぬいぐるみを付けるような者はいないだろう。
もちろんぬいぐるみの服装は鎧姿なので今の姿と同じなのは髪と目の色くらいだが、それでも気恥ずかしいものがあるので大人しく自宅内で待機してもらう事にしようとジェラールは考えた。
とはいえどこに置いておこうか自室の机の上が一番適当かもしれないとぬいぐるみを眺めながら悩んでいると、いつのまにか帰宅していたヴィクトールがリビングに入ってくる。
「どうしたんだジェラール、そのぬいぐるみ。」
「あ、兄さんおかえりなさい。ええと。」
なんだかんだで最終的にはなんとなく機嫌を直してしまったが、推しに貢ぐ恋人が何となく納得いかずにモヤモヤする気持ちも残ってないではないので兄への説明については迷ってしまう。
「ヘクターと喧嘩でもしたのか?」
「えっ。」
「昔はそういう難しい顔をしていたのはヘクターの方だったんだがまあ仲良さそうなら何よりだ。」
「まあ、悪くはないです。」
恋人が推しに貢ぐ姿に嫉妬しているだけです、とはヘクターとジェラールの名誉の為にも必要以上に暴露する必要は無い。
複雑な思いで手の中のぬいぐるみを眺めていると、隣に座ったヴィクトールが意外な反応を見せてくる。
「ん?それはジェラールの姿のぬいぐるみだよな?」
「昔の私を題材にしたくじの景品だそうでヘクターから貰いました。」
ヴィクトールが気にしているようなのでぬいぐるみを渡すと、ヴィクトールはぬいぐるみをくるくると回して悩んでいるような表情をする。
「これと同じ商品かは分からないが、ヘクターの姿のぬいぐるみを見たような気がする。」
「えっ!?」
「カラーバリエーションが凄く沢山あってだな、何故ヘクターの色違いまでと思った記憶がええと、ああこれだ。」
ヴィクトールが自分のスマートフォンを使って検索して出た情報をそのままジェラールに向けて見せてくれたので、そのまま端末を借りさせてもらう。
画像には確かに色々な色を持ったヘクターのぬいぐるみが写されていた、もちろんヘクターの色である蒼髪のぬいぐるみも。
画面に食いつくジェラールの隣からヴィクトールも覗き込んでくる。
「なんでそんなにバージョン違いがあるんだろうな?」
「多分1000年以上の中で職業の代替わりがあったとか従兄弟に聞いた事があるのでそれかと。」
歳上の従兄弟は最後の継承皇帝の生まれ変わりという事もあって会えば話が尽きない相手だ。
なんなら従兄弟の恋人も傭兵だし、画像の中の紅色の頭のは多分その従兄弟の恋人のものだろう。
画面をスクロールして商品情報を見ると「全部傭兵ぬいだけくじ」という商品名が確認できた。なんだろう、ジェラールにとって既視感と少しの苛立ちを覚える商品名だ。
だがそれが恋人の姿をした物ならば話は別になる。
「くじなのか、これだけ種類があると欲しい物はなかなか手に入らないだろうな。」
「要するに全部買い占めればいいって事でしょう?」
「うん?」
弟が何を言っているのか兄にはちょっと理解出来なかった。



見せたいものがあるからと今日はジェラールの自宅へと誘いを受けたヘクターはリビングで圧倒されていた。自分の自宅にも同じ様なものは存在するがそれ以上の物。
「当事者になってヘクターの気持ちがやっとわかったような気がする。」
「いやこれオレの購入量超えてますよね!?」
「まあ、全部買ったからね。」
それは当然でしょうとなんて事ない顔をするジェラールとつい先日のぬいぐるみに嫉妬するジェラールとの振れ幅が大き過ぎてヘクターは着いて行けていない。そもそもどこに需要あるんだ全部傭兵ぬいだけくじ。
「ちなみにラストワン賞はヘクターの関節可動域のある特大ぬいぐるみ。さすが初代。」
「なんですか初代って?」
「私も実質初代みたいなものだよ。」
前世の姿をした特大ヘクターぬいを抱いてジェラールは得意気な顔を見せる。
全部ジェラールだけくじと違って8種類ある全部傭兵ぬいだけくじは推しだけ手に入れるという事は確かに難しいのだろう。だが潤沢な資金力はここで使うものではないとヘクターは頭を抱えた。
「あまりこういうものには挑戦した事が無かったけど、恋人が推しだと本気を出さないといけなくなる気持ちはわかった気がするよ。」
「まあ、そこはありがとうございます。」
ヘクターの自宅にも相変わらずジェラールのグッズが一角を占拠しているのでどうにかしないといけないし二重の意味でヘクターは頭が痛い。まだ自分の場合は全て推しなのでジェラールよりはマシなのかもしれないが。
「オレ以外のはどうするんです?オレのも被ってますけど。」
「ヘクターのは被っていいの、普段使い用と観賞用と保存用だから。」
保存用とは?とヘクターは疑問に思ったが推しに対する行動は人それぞれなのだろう、その言葉を飲み込むことにした。
「要らないなら1個欲しかったんですけどね。」
「ヘクターのを?何に使うの?」
「うちで留守番してるジェラール様ぬいぐるみにと思ったんですけど。」
とヘクターが話すうちにジェラールがなるほどと閃く様な表情を見せ、立ち上がったかと思えば足早に自室の方に向かいその手に前にヘクターがあげたジェラール様ぬいを持って戻ってくる。
「なんでそんな素敵な事思いつかなかったんだろう!」
満面の笑みを浮かべながらヘクターぬいと並べてジェラールはご満悦だ。ヘクターもヘクターぬいに必死になるジェラールの姿はちょっと引っかかるものはあるが、2人のぬいぐるみに対してとなれば悪い思いはしない。
「じゃあヘクターに1個あげる。観賞用は普段使いと兼用でいいかな。」
そう言われてヘクターはジェラールから自分に良く似たぬいぐるみを1個譲り受ける。保存用は何がなんでも死守するんですねという要らない一言は胸に置いたまま。
「他のはどうしようハーキュリーズのは従兄弟にあげたら可愛いって言ってくれる気がする。」
「あそこはそうですね。」
ハーキュリーズ本人は苦い顔しそうな気もするが在庫がジェラールの部屋に溢れるよりは遥かにいいのでヘクターは同調する。
「オライオンのは本人に押し付けたらいいんじゃないですか?」
「いっぱい付けてくれそうだしね。あとは部屋に保管しとくしかないかな。」
「そのうち本人達と出会う可能性だってあるでしょうしね。」
ヘクターがそう言うとジェラールは驚いた顔を見せる。
「なるほどそうかこれは可能性の世界かもしれないんだね。」
「まあ単純に無駄遣いの結果。」
「無駄じゃないから!ねえ2人とも。」
先日ジェラールぬいを渡した時には不本意な顔をしていたジェラールがヘクターぬいとジェラールぬいに話しかけつつとても嬉しそうだ。
お互いに推しに向けての行動が度を過ぎてしまったとは思うがおかげで落ち着くべき所に落ち着いたようで何よりだ。