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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第19回お題「世話を焼きたくなる人(子)」
両片想いの赤安のお話です。ライバボも少し。諸々捏造しています。
朝起きてすぐ、降谷は喉に違和感を覚えた。
昨日、赤井と降谷はゲリラ豪雨に全身をずぶ濡れにされてしまった。
赤井の方が自分よりも長く雨に打たれていたため、「風邪引かないようにしてくださいよ」などと警告したりもしたのだが、まさか自分の方が風邪を引いてしまうとは。
赤井には絶対に自分が風邪を引いたことは知られたくない。そう思いながら、降谷はマスクを引き掴んで家を出た。
昨晩、組織の末端の人間を三人捕獲した。聞き取り調査を行った結果、彼らより少し上のレイヤーにいる人間が近日中に動く情報を得た。正確な日時はわからないが、近日中ということになると今日明日にも動く可能性がある。
降谷は警察庁に着くと、すぐに自分に与えられた個室へと移動した。この大事な時期に、周囲に風邪をうつすわけにはいかない。しばらくはこの部屋で過ごそうと降谷は心に決めた。
午前中。部屋には自分ひとりしかいないので集中して仕事をすることができた。しかし、時間が経つにつれて喉に痛みを覚えるようになった。心なしか身体も熱い気がする。このままでは悪化する一方だろう。
とはいえ、自宅に帰れるような状況でもない。呼び出しがかかれば、すぐに出動できるようにしておかなければならないからだ。
どうしたものかと降谷が頭を悩ませていると、スマホが鳴った。発信者は“赤井秀一”である。降谷の携帯番号は、昨日、赤井に教えたばかりだった。用事は仕事か、プライベートか。呼び出し音だけでは何も判断できず、降谷は応答ボタンを押した。
「もしもし」
少し掠れた声が出てしまい、降谷は焦った。
『降谷君?』
「あぁ、すみません。どうかしましたか?」
『昨日捕獲した奴らのことで、聞きたいことがあるんだが』
気のせいだろうか。いつもより低く抑えられているような声が聞こえる。集中しなければ、赤井の言うことを聞き逃してしまいそうだ。
「聞きたい、コホッ、ことですか、コホッ」
うまく声が出せず、咳き込んでしまう。まさかの失態に、降谷の身体からぶわりと汗が噴き出した。
『
……
降谷君』
「な、んですか
……
」
『
……
君、風邪を引いたんだろう』
「いえ、今のはちょっと咳き込んだだけです」
『熱は?』
駄目元で誤魔化せないかと思ったが、赤井相手では無理だった。具体的な聴取に入られてしまう。
「
……
はかっていません」
『薬は?』
「飲んでいません」
『今、どこにいる?』
「庁舎です」
『少し、待っていてくれ』
「え?」
そこで電話は切れてしまった。まさかここに来るつもりなのだろうか。赤井に再び電話をかけてみるが、繋がらない。
降谷はどうすることもできず、椅子の背もたれに体重をあずけた。
三十分ほど経っただろうか。部屋のドアをノックする音が聞こえる。来訪者は赤井だとわかっていたので、「どうぞ」と声を上げる。自分の声が、思っていた以上にひどく変わり果てていた。
赤井がドアを開けて部屋の中へと入って来る。「あまり僕に近づかない方が!」と声をかけたが、赤井は構わず降谷のいる場所へ近づいてきた。
ここまで走って来たのだろうか。赤井の額には汗が滲んでいる。赤井の右手には、ビニール袋が握られていた。
「ドラッグストアの店員のオススメをすべて買ってきたよ」
赤井がビニール袋の中に入っているものを降谷に見せた。体温計、マスク、経口補水液、水、冷却シート、パウチ容器のゼリー、栄養ドリンク、のど飴、そして複数の薬。風邪を引いたときにはこれがあればいい、というものがほぼすべて揃っている。
「ありがとう、ございます
……
コホッ、コホッ」
「まずは熱をはかってくれ」
赤井が体温計を取り出す。降谷はおとなしく赤井に従った。体温計を脇に挟み熱をはかると、三十八度六分と出る。
「やっぱり、熱があるようです」
赤井が手を差し出してきたので、降谷はそこに体温計を乗せる。体温計に表示された数字を見た赤井は、次に冷却シートに手を伸ばした。パッケージを破り、降谷の額にそれを貼る。ひんやりとして気持ちがいい。
「早く薬を飲んだ方が良さそうだ。その前に、腹に何か入れた方がいいんだが
……
ゼリーは食べられそうか?」
「
……
はい」
飲むタイプのゼリーを手渡される。キャップを外して、降谷は少しずつそれを喉に通した。赤井は三種の風邪薬をビニール袋から取り出し、降谷に見せる。ちょうど買いに行こうと思っていた薬があったので、赤井から青色のパッケージを受け取った。すぐにペットボトルの水を渡されたので、薬の封を開け、水と一緒に二錠の薬を喉に流し込む。
ふぅ
……
と一息ついて、降谷は赤井に礼を言った。
「ありがとうございます」
「いや」
自分の同期にも、直属の部下にも、こんなに甲斐甲斐しく世話をしてもらったことはない。
「あなたって意外と世話焼きなんですね
……
」
熱のせいか、心の中で思ったことをつい口に出してしまう。降谷の呟きに、赤井は微笑んだ。
「そんなに意外だろうか」
はい、とこたえると、赤井がさらに笑みを深めてゆく。その笑みに、降谷は見覚えがあった。
「そういえば
……
あなたがライと呼ばれていたとき、同じようなことがありましたね」
「あぁ
……
熱を出した君が、無理して任務に行こうとした日のことか」
「あなたに止められましたけどね」
「『病人は足手まといだ』
――
だったかな」
あの頃を真似て言う赤井に、降谷は思わず笑ってしまう。今の赤井を知ってしまうと、あれは演技だったのだとわかる。
冷たい言葉を放ちながらも、あれやこれやと世話を焼いて、自分が眠るまで傍にいてくれた。そういう優しいところが、昔からこの男にはあるのだ。
「ええ。本当はあなたが何と言おうと任務に行こうと思っていたんですよ。でも、あなたに額を触られたら身体から力が抜けてしまって
……
」
「掌で熱をはかろうとしただけで、君には何もしていなかったと思うが」
「あれはただ、あなたの手が大きくてあったかくて、眠たくなっちゃったんですよ」
眠りに落ちる直前。ライがやわらかな笑みを浮かべたのを、降谷は思い出していた。その笑みが今の赤井と重なって、降谷は穏やかな気持ちになる。
そうして昔のことを懐かしんでいるうちに、あのときと同じように眠気が訪れた。
薬のせいかもしれないし、赤井が傍にいて安心しきっているからなのかもしれない。
「少し眠った方がいいんじゃないか」
「はい、ちょっとそこのソファで横になります」
窓際に、大人ひとり寝転べる大きなソファがある。足が飛び出してしまいそうだが、一休みをするには十分な大きさだ。
本来は来客用として使うものだが、今日この部屋には赤井以外の人間が来る予定はない。
降谷はソファへ移動し、ゆっくりと横になる。すると、赤井も向かい合わせのソファに座った。
「赤井、これ以上そばにいると、僕の風邪がうつってしまいます。あなたは早く部屋の外に
……
」
「いや、君が眠るまでそばにいるよ。“ライ”のときと同じようにな」
「あなた、仕事はいいんですか? あ、昨日捕獲した人間のことで聞きたいことがあったんですよね」
身体を起こそうとすると、赤井にやんわりと止められてしまう。肩に触れた赤井の手が熱い。
「君が回復してからでいい」
「でも
……
」
進捗に影響はない、と続ける赤井に、降谷は何も言えなくなってしまう。
「今はとにかく休むんだ。
……
おやすみ、降谷君」
赤井の優しい声が降りてくる。こくりと頷くのと同時に、降谷の身体からすうぅっと力が抜けていった。
目が覚めてすぐ、降谷はスマホを見た。一時間ほど眠っていたようだ。何も連絡が入っていないことに安堵し、降谷は身体を起こす。身体はだるいが、悪化しているわけではなさそうだ。
ふと、向かい合わせのソファで赤井が眠っていることに降谷は気がついた。赤井のその姿には違和感しかなかった。
赤井は黒色のマスクをしている。テーブルの上には、封の開けられた薬。
降谷は赤井に駆け寄った。赤井の額に掌を当てる。ひどく熱い。
こんなに短時間で、自分の風邪がうつるわけがない。昨日のゲリラ豪雨で、赤井も風邪を引いてしまったということなのだろう。自分より少し発症が遅かっただけで。いや、自分の部屋に入ってきたときにはすでに、風邪の症状を自覚していたのかもしれない。
赤井の額に、冷却シートを乗せる。似合わないなと心の中で感想を呟いていると、赤井が目を開いた。シートが冷たすぎたのだろうか。「すみません」と反射的に声を上げると、赤井は「いや
……
」とこたえる。声は低く掠れていた。
「まさかあなたまで風邪を引くなんて」
電話のときの声。額に滲んだ汗。熱い手。自分が今まで気づかなかっただけで、思い返すと赤井が風邪を引いている兆候はあった。
「大したことはないと思ったんだがな。熱が上がり始めるとは誤算だったよ」
降谷の胸がどきりと鳴る。
少し気だるげな表情をしている赤井は、いつにも増して男くささがあるような気がする。
あまり意識しすぎないようにしなければ、と自分に言い聞かせながら、降谷は呟いた。
「お互い早く治しましょうね」
「ああ。君が早く治るよう俺が看病をするよ」
深く考えぬまま「はい」と頷きそうになり、降谷は慌てて否定する。
「いやいや、何を言っているんですか。あなたも病人なんですよ?!」
「心配無用だ。君より早く治る予定だからな」
「いや、あなたより僕のほうが早く治ります! 僕があなたの看病をしてあげますよ。風邪を吹き飛ばすほど栄養のあるごはんを作ってあげます」
「君の手料理か。それはいいな」
自分たちはいったい何をやっているのだろうか。熱のせいでおかしくなってしまったのだろうか。
そんなことを思っていると、自分のスマホからメッセージアプリの通知音が聞こえてきた。
いったいなぜ赤井がここにいることがバレているのか。スマホに届いたのは、自分たち二人へのメッセージだった。
「赤井、呼び出しです。行けますか?」
「問題ない」
赤井の声は、掠れながらも低く色気がある。風邪を引いていても様になるとは、いったいどういうことなのだろう。
降谷は鼻を啜った。鼻水が出始めて、いよいよ風邪らしさに拍車がかかる。しかし、今は休んでいる場合ではない。
「
……
では、行きましょう」
書類を鞄につめて、部屋を出る
――
その直前、赤井がこちらを振り返って言った。
「今夜、君の家に行ってもいいだろうか?」
「いいですよ。早く治ったほうが看病しましょう」
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