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A4
2025-10-07 01:04:00
2822文字
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助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
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劇場の中で/ 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
これも体の付き合いが始まって間もない頃のイメージ。チャンピオン視点。直接的な表現はありませんが、性的なはなしをしています。
新エリー都いちばんの品揃えかつ信頼できると評判の、ビデオ屋の店長と一緒に映画館にやってきた。
ここでいう店長とはもうひとりの店長、すなわち兄妹のうち上の方、つまり兄を指す。
ルミナ・スクエアにあるグラビティシアターではなく、ヤヌス区の中でも場末の界隈にある寂れた映画館であった。新しい商業施設が建ち並び人々が行き交う活発な区域と違って、ここはしんと静まりかえり、そのくせ、うるさかった。背の低い、あまり丈夫ではなさそうな造りの建物のそこかしこから、息を潜める人々の気配がする。カーテンの陰から、路地の間から、あるいは扉の隙間から、じっとこちらを観察しているようであった。
エージェントであるライトにはこの視線がうるさく、かんに障った。
敵ではない。
脅威ではない。
しかし、張り付くような視線。
好奇心とは違う。
怯えているわけではない。
監視、その言葉がぴったりだった。
ライトを連れてきたアキラはまったく頓着しないようで、何度もその道をたどってきたことを示すように、脇目も振らず迷うことなく映画館にたどり着いた。
道に面した窓口で切符を二枚買う。アキラは「チケット」とは言わなかった。古いことばだと感じて揶揄すると、切れ長の目を少し見開いて、アキラは薄く微笑んだ。「ここではそう言いたくなるんだ」と言って、今日の日付がスタンプで押された半券を渡してくれた。
なぜ二人で映画に来たかというと、ライトが言い出したのだった。
妹のおすすめはあらかた観た。借りたり、彼女の部屋で共に鑑賞した。
兄たるアキラがそれを快く思っていないことは感じていた。
そうとは見えないが、彼は静かに妹に近づく輩を牽制しているのだった。
戦闘能力もなければ、とりたてて特別な力があるとも思えない彼に興味を抱いたのは、ブレイズウッドにて二人だけで過ごした短い時間で、アキラがライトに忘れられない言葉を述べたからだった。
その後、ひょんなことから一線を飛び越えて、今に至る。
つまり、妹を介さず、直接やりとりするようになった。
おかしなことに、ライトはアキラを抱いていた。
性的嗜好は異性を好むと思っていたが、そうではなかったらしい。
アキラは変なバランスの精神の持ち主で、常識でははかれないところがあり、彼の独自のルールに沿うならば、いわゆる一般的な行動様式をしなくても受け入れられた。
男のからだは女とは違って柔らかくもなければ護ってやりたくなるような華奢なところは少しもない。自分より体格の小さなアキラであっても、腕に抱けば体のごつさがわかった。
だが不思議なことに、彼をかき抱いてからだを繋げると、海のような深さがあり、さざ波のような揺らぎがあり、それにずっと耽溺したくなる。低く穏やかな声が唸って喉から声を絞り出すのを聞くと狂おしい気持ちになって、ずっとその声を出させたいと、責め立ててしまう。
映画館のエントランスをくぐると、毛足の長いカーペットが郊外仕様のブーツを柔らかく受け止めた。どことなくホコリっぽく、間接照明はしゃれた雰囲気よりむしろ、寂れた印象を与えた。細い廊下を進んでいくと少し開けたロビーに出て、そこには数人の男女がいた。彼らはみな独りで、ポスターを眺めたりパンフレットをじっくり読み込んだりしていて、誰も喋っていなかった。
小さな映画館であったので、スクリーンも一つだ。アキラがライトの手を取り、中に導いた。暗がりだったので、サングラスをずらして彼の顔を見ると、「つまづいたら大変だ」と悪戯っぽく言った。まるで妹にするように、彼はライトを導くのだった。
二人は後方の真ん中に座った。ブザーが鳴り、ロビーにいた人々も入ってきた。それぞれ定位置があるようで、思い思いの場所に座っていた。劇場の中が暗くなり、予告編もなく、映画が始まった。
この映画の事前情報は何も与えられなかった。
ライトはただ、あんたの好きなものが知りたいと言った。
アキラは「つまらないかもしれない」と前置きをした上で、偶然にも彼の好きな作品が上映されると教えてくれて、そうして、今、並んで映画を観ている。
退屈な映画だった。カメラが淡々と景色を映す。ストーリーがあるのかどうかもわからなかった。サイレントで、字幕での説明もない。
だが、アキラは食い入るようにスクリーンを観ていて、何を見ているのか知りたくなり、ライトも見入った。退屈だったが、苦ではなかった。そんなこともあるのだ。知らなかった。
映画は一時間の尺もなく、始まったときと同じように唐突に明かりがつき、観客は静かに劇場から出て行った。
アキラが立ち上がらないのでライトも座っていた。
「ライトさん、寝なかったね。えらい」
そんなことを言うので、笑ってしまう。
「いいや、何度も危なかった。意識が遠のいた」
「そんな風には見えなかったけれど」
「なんだ、集中していたと思ったのに、こっちに気を配る余裕があったんだな」
「もちろん」
アキラは顔をほころばせた。いつもの穏やかな笑みではなく、思わずといったくしゃくしゃの笑顔だった。
肘置きに置いた手に、彼の手が重ねられた。
「実は、ずっとこうしてみたかったんだ。でも、一生懸命、映画に集中しようとしているあなたの姿を見ていたらできなくて」
「
……
あんた、人たらしだって言われないか? 誰にでもするのか?」
「ライトさんには僕がどう見えているんだろう。映画を誘ったのなんか初めてだし、リンにもぼろくそに言われるアート映画を一緒に観たいと思った人も初めてだし、自分からこうしたいってなるのも、今までにはなかったことだ」
「もしそれが本当なら、あんたは俺を口説いているように思えるんだが」
「え?」
静かにライトが告げると、アキラは目を丸くした。こんな表情になると、ずいぶんと年若に見える。
「事実を述べると口説くことになるのか」
「場合によってはな」
「じゃあ、そういう意図はなかったと告げよう。誤解させたのなら悪かった。口説いてはいない。ただ、あなたをたぶらかそうなんて魂胆もない。
——
本当に、僕の本心だよ」
それがどれだけ人を狂わせるか、アキラはわかっていないのだ。
老練で人を惑わすプロキシかと思いきや、人間関係のこととなるとデータを全て消去されて一からプログラムを入力しなければ情緒もないような言動を取る。
この歪さを、ライトは好ましいと思ってしまった。
だが、彼はこれ以上の関係を望んでいない。
だから、ライトは見えない線を踏み越えなかった。
きっと、劇場に残った二人の姿はスクリーンから見れば切り取られた1シーンのようだろう。
この先、どうなるのか、誰も知らない。
拒まれるのではないかと恐れを抱きながら顔を近づけると、アキラは少し顔を傾けて目をつむった。
これは許されるのかとおかしくなって、エンドロールの一つ前のように、ライトとアキラは唇を重ねた。
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