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Hizuki
2025-10-06 23:09:38
3118文字
Public
あんスタ[零薫他]
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リライト
【あんスタ】零薫。ツアー最終日の夜のホテルで月を見る2人の話。二つの意味の受け取り方は。
ドアの黒いセンサーにカードキーを当てると、ピピッと小さく音が鳴った。取っ手を下げてドアを開け、側のホルダーにカードを差して部屋の照明を付けたところで首を傾げた。
「え、部屋こんなに豪華だったっけ?」
ツアーで各地を回る時、大体俺達の部屋割りは決まっていた。俺と零くん、晃牙くんとアドニスくんで二部屋が用意される。ホテルは事務所が手配してくれたもので、今回も零くんと一緒のツインの部屋だとは聞いていたけれど、それにしては随分と部屋が広い。内装も豪華で、おまけに正面には一面のカーテンが引かれている。ということは、その向こうは間違いなく窓だ。カードキーの番号で上の階だということは分かっていたから、カーテンを開ければばっちりと夜景が見られるのだろう。
「今日がツアーの最終日だったじゃろ。労いの意味も込めて少しグレードアップしておいたぞい」
引いてきたキャリーケースを部屋の隅に寄せ、軽く中を見て歩いていると、背中から答えが返ってきた。しておいた、ということは、零くんの指示によるものだということだ。
「それ、どこから出てるの?」
とはいえ、当然予算はある。俺達は大体ライブの演出の方に大半を割り振るから、それ以外の部分は抑えることになる。おおよその金額と内訳は俺も共有してもらっていて、今回のこういった経費もギリギリいっぱいまで削っていることは分かっていた。振り返って尋ねれば、同じように荷物を置いた零くんがニコニコと笑って人差し指を口の前に立てる。
「えへへ、秘密じゃよ」
「
…
なるほど、零くんのお財布からか」
わざとらしい幼い声と態度。自分がやりましたと自白しているようなもので、実際その通りなのだろう。
「ってことは晃牙くん達の部屋もでしょ。もう、そういうのは先に言ってよ~?俺だってみんなを労いたいんだからさ~」
俺達は四人でUNDEADなわけで、同じ舞台を走ってきた仲間を労いたい気持ちも同じ。後日今回のツアーの打ち上げに行く予定だから、その時に手を回すことにする。先に零くんに相談しておく分とは別にして。
「すまぬの。少しだけ皆を驚かせたかったんじゃ」
「ううん、お気遣いありがとう。さ、疲れてるだろうし、先にお風呂入っておいでよ」
「そうかえ?では、お言葉に甘えようかのう」
苦笑いを浮かべながら零くんが言った。もちろん今回の行動が零くんからの気遣いだということは分かっているし、素直に嬉しい。とりあえず今の俺にできることは一番風呂を零くんに譲ることくらいだ。俺の方が時間がかかるから、という面もある。提案に頷いた零くんは必要なものを手にバスルームに向かっていった。ガラッと扉を開ける音が聞こえたかと思うと、水が流れ、溜まっていく音に変わっていく。それを聞きながら荷物を整理して、上がってきた零くんと入れ替わりで温かいお湯に身体を沈めた。
お風呂上がりのケアを一通り済ませて戻ると、部屋の様子が少し変わっていた。どうやら照明が最小限に落とされているらしい。代わりに閉ざされていたカーテンが開けられていて、窓の向こうから白い明かりが差し込んでいる。零くんはその光に照らされながら窓の前のソファに背中を預けて座っていた。二人で座っても余裕のあるソファの左側に寄っているから、もちろん反対側は空いている。きっと俺が座れるように空けてあるのだろう。誘いに乗るようにそこに腰を下ろすと、座り心地のいい柔らかい座面が二人分の体重を受け止めて沈んだ。一面の大きな窓ガラスの奥に月が見える。見事な満月だった。ツアーの最終日が重なったのは偶然で、ステージが屋外だったのなら天然の照明としていい仕事をしてくれたに違いない。
「月が綺麗じゃのう」
随分と優しい声だった。いや、甘い声という方が正しいかもしれない。
「
…
それはどっちの意味で?」
素直に自然の雄大さに感嘆した言葉なのか。
それとも『もう一つの意味』を込めた言葉なのか。
「どちらと取ってくれても構わぬよ」
俺の問いに小さく笑う声が聞こえた。博識な零くんがその意味を知らないとは思っていない。だからこそ尋ねたわけだけれど、その口振りでは『言葉通りではない意味』をも肯定しているように聞こえる。
「
…
色々飛ばし過ぎじゃない?」
それを聞くには色々どころではなく、段階の何もかもをすっ飛ばしている。俺がそう返したことで、どちらの意味で受け取ろうとしているのかを暗に告げたようなものだ。
「薫くんには分かりやすくしておるつもりじゃけど」
「ちゃんと言ってくれないと伝わらないよ」
零くんからの返事もまた、どちらの意味なのかを示している。
分かりやすい、なんていうものではなかった。『同じユニットの仲間』という言葉で括るには近すぎる距離を互いに許している。ファンの子達が喜んでくれるから、とライブで距離の近いパフォーマンスをすることがある。元々演出として組み込まれているものもあれば、雰囲気に乗せられて勢いでしてしまうことも。そしてその距離はステージを下りても続いている。零くんは俺のサポートをしてくれて、俺は零くんの世話を焼いて。相手の好みを把握していたり、先に食べていて「一口どう?」と差し出されたスプーンを迷いなく口に運んだり。手違いで手配されたダブルのベッドで一緒に寝ることにも抵抗はない。時には、どうしようもない醜態を晒したことだってある。とてもじゃないけれど他の人には見せられないようなものだ。
「
…
お互い様だとは思うが、それもそうじゃのう」
もう少し特別な言葉で『相棒』と呼ぶことも多い。近すぎる距離を共有できるこの関係をその言葉で括るには、そろそろ足りないようにも感じていた。口にすることで今までのバランスが崩れてしまう可能性もある。居心地のいい関係を壊したくなくて、あえて言わなかったことも否定しない。きっと零くんも同じことを思っていて、わざわざ遠回しの言葉を選んだ。俺に通じる言葉だと分かっているから。
「
…
だからさ」
窓の外に向けていた視線を隣に滑らせる。零くんの目は月に向けられたままだ。
「好きだよ、零くん」
まだ零くんと同じ言葉までは口にできないから、その手前の言葉を。
一歩踏み込んで、関係の名前を書き変えるための言葉を。
「
…
くくく、これはやられたわい」
ワンテンポおいて、丸くなった紅い瞳と視線が重なる。そのまま何度か瞬きをして、ふうと息を吐いて零くんが言った。
「ふふ」
普段は俺の方が零くんに驚かされることが多いから、珍しい表情が見られたことに思わず口元が緩んだ。零くんは背もたれに預けていた身体を起こすと、目を細めて笑ってみせた。
「ありがとう、薫くん」
互いに何も言わない関係に甘えていた。
けれどもう、その必要もなくなる。
「
…
愛しておるよ」
そう言った零くんが本当に綺麗で、月の方が霞んで見えてしまった。
別の言葉に隠さない、そのままの言葉。同じ言葉をパフォーマンスの一つとして言うこともある。でも、零くんが今その言葉を向けてくれているのは俺にだけ。さっきよりも優しくて甘い声が、一瞬で俺の体温を上げた。少しだけ空いていた互いの隙間に手を突いて、零くんの方に身体を寄せれば、するりと顔の輪郭を撫でられる。自分よりわずかに低い体温が緩やかに熱を抑えたのも束の間。零くんの親指が俺の唇に触れた。どうしたいのかが分かって、そっと目を伏せる。ゆっくりと、優しく、唇を重ねられる。また熱が上がっていく。曖昧だった境界がしっかりと混ざって、溶け合っていくような感じがした。
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