戦いともなれば、余程力量差がないかぎり装束は乱れるものだ。衣服が白いこともあってか私の乱れは他の戦士団よりも目立つようでしばしば将軍に注意を受けていた。どうもこの男は私の存在が気に障るらしい。
主たるシウグナスがこの世界の人間に呼ばれ、しばらく戦闘が起こりそうにない時。
「最終皇帝、来い」
将軍に呼ばれ指示の通りに片膝を折る。最初は天頂、チリを上からだんだんとはたき落としていく。クラパットとリボンタイのズレを直され「良し」と言われて立ち上がる。ローブの裾、ブリーチズ、シューズとチェックが入りくるりと私を将軍が一回りして終わる。
「もういいぞ」
「そうか」
私は頷き、将軍は去る。そういう一連の流れだ。
……私をただ嫌うならば分かるが何故こんなにも己に構うのか。おそらく彼はグレロンの人間だとは思うのだが、だからこそ理解ができない。
首を捻ると主が楽しそうにこちらを見ているのが見えた。
――というのはしばらく前のこと。私が皇帝時代の記憶を半ば思い出しそれを将軍と共有するようになってからもこの行為は続いている。
「前から思っていたのだが、手慣れているな」
将軍の前で頭を下げ、そういえばと気になっていたことを口にする。
「なんだ、このことは思い出していないのか。俺様は一時期お前の侍従をしていたんだぞ」
「……少年近衛兵からではないのか?」
「その前身、とでもいうか。元は宮殿に仕えられる身分ではなかったし段階を置いた訳だ。宮殿の常識とやらもその時に叩き込まれたぞ」
「そうなのか、すまぬ」
顔を上げろと言われ指示通りに首を動かす。
「それで、身支度もやらせていた」
「まあ……。ああ、朝は貴族の仕事だから俺様はやっていない」
「他に宮殿でそんなにも装束を崩すことがあるか」
「ん……まあ無い、な。どちらかというと戦場で」
「戦場?」
クラパットの歪みを直す将軍が一瞬動きを止めた。盗み見た表情は変わらないが取り繕うための指の動きはややぎこちない。
「戦場に出ているならばもう“将軍”のはずでは」
無言。
「私が無理にさせていた?」
「それは違う」
否定。
立て、と言われて素直に立ち上がる。
「なんだ、その、俺様が身支度を手伝えば皇帝と距離が近くてもおかしくはないだろう。大声で話せない事などを、少し、な」
「ああ、なるほど…………?」
確かにそうかもしれないが。なにか足りていないような気もする。
「後のことはお前が自分で思い出してからにしろ。終わったぞ」
「うむ」
見下ろす己の姿は『いつも通り』皇帝の形をしている。
「感謝する」
「……おう」
ごにょごにょと珍しく言葉尻を濁らせた将軍はさっさと戦士団の中に戻っていった。
首を巡らせると主と目が合う。主は「思っていたよりもつまらぬ関係だったな」と言って余所を向き、私は意味を汲み取れず首をかしげた。
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