奴田原 ミズキ
2025-10-06 22:47:09
1856文字
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冷めやらぬ熱

近勝(勇舟)
戦闘で昂ぶっちゃったイサミンに押し倒されセンセ。最中はないけど事後はあるぞ!

背を預けた冷たいシーツと裏腹に、触れ合う身体は火の様に熱い。吐き出した吐息ごと全て奪われるような口吸いに視界が明滅を繰り返す。湿った水音が鼓膜を揺らし、早急に剥ぎ取られていく衣類がばさりとベットから床へと落ちていく。
「先生、」
先へ、先へと乱暴な手つきのまま、ひとかけらの理性が唸る。あと一枚、皮が剥がれてしまえば其処にいるのはただの獰猛な獣だ。
レイシフト先での活躍は、原田君から聞いていた。曰く、悪鬼羅刹の如く敵性生物の尽くを切り捨てたのだと。それ故自身の負傷も深く、軽症の原田君はすぐに解放されたが彼は即医務室へと連行されて行ったのだと言う。
怪我人に無理をさせる訳にもいかないので、落ち着いた頃に労おうとすっかりと通い慣れたこの部屋で待っていたのだ。
数刻の後、やっとのことで扉を開けた部屋の主は窓辺で本を嗜む自分を視認した瞬間、ひゅうと息を呑んだ。
「おかえり。大活躍だったんだって?」
――先生」
「怪我を癒やしたとして、疲れただろう。ゆっくり旅先での話でも――ぉわっ?!」
一瞬で距離を詰められたかと思えば、視界が一転。どさりとベットに落とされ、老体になんて乱暴な、と文句を言おうと開いた口へ齧り付くように、熱く濡れた舌が捩じ込まれる。
「っ、!ん、ふぅ、」
唾液と共に急速に吸われていく魔力にぐらりと視界が揺れ、みるみるうちに息が荒くなっていく。ひどく、あつい。
戦場で昂ぶった熱が抜け切れていないのだと、すぐに理解した。薄れる酸素に胸を叩く。が、衰えた身体ではびくともしない。くるしい。あつい。このまま溺れてしまいそうだ。
けれど。どうしても心の底で、剥き出しの欲望を己へ我武者羅にぶつけてくるこの若者が愛おしくもあり、すっかり絆されてしまったな、と、抵抗しようと伸ばした両の手を背に回した。
ぶちぶちとボタンごとシャツを引き剥がされる音がする。ここまできたら好きにさせてしまおう。労るように髪を撫でると、ほんの少しだけ理性を取り戻したのか。やっと解放された唇から銀の糸が伝い、切れる。
「はぁっ、は、っ……
少しだけ眉を下げ、しかし熱を燻らす瞳は未だ鋭く、その眼光に思わず喉を鳴らす。年甲斐もないことだが、自分を必死に求めてくる恋人というのは、その。とても興奮するものだ。
「先生……すみません。説教は、必ず受けますので。どうか、――どうか、私を、」
受け入れてください、と。服を裂き組み敷いている男の口からとは思えない程弱々しい声色に、目を細める。
全く、他に良い人など引く手数多だろうに、よりによってこの老いぼれに欲情するとは。つくづく馬鹿な男だ。
だが、
いいよ、おいで。好きにおし、"勇"君」
本当に、どうしようもなく、愛おしい。
暫し瞬き、そして薄く笑ったかと思えば、獣は牙を剥いた。


***

「本当に………本当に、申し訳ありませんでした……
「あ、はは………ちょっとは落ち着いた?」
「すみません……
あの鋭さはどこへ行ったのやら。欲を吐き出し、すっかり牙をなくした男は深く頭を下げた。止めさせようと起き上がるが、腰に鈍痛が走り思わず唸ってしまう。
「ああっ、動かないで……、すみません、先生。私のせいで、先生に無理を」
「あーうん……、僕もまあ、ここまですごいとは思わなかったけどさ、昂ぶっちゃったんだろう?」
「う……
いつまでもしょぼくれていても仕方ない。ちょいちょいと手招いて、恐る恐る近付いてくる若者の頭をくしゃくしゃと撫で回した。素直に受け入れる彼は未だ眉を下げたままではあるが、少しだけ頬に朱が灯っている。
「本当に、すみませんでした」
「もう、そんなに謝らなくていいから。ね?」
「はい……
頬を包む。軽く唇を寄せれば、人好きのする笑顔がぱっと咲いた。やはりこちらの方が好ましい。
「その……これは、自惚れになってしまうのですが」
「うん?」
「勝先生なら……欲に溺れた自分を、きっと受け入れてくれると。そう思ったんです」
だから、嬉しかったのです。
そうはにかむ青年に、はぁと大きく溜息を付いて己の手で顔を覆った。頬が熱い。胸がどくりと跳ね上がる。
「せ、先生」
……お前さん、僕を信頼しすぎじゃない?」
「!……はは、ええ。そうですね」
顎を掬われ、唇に熱が灯る。それは酷く優しいもので、
「お慕いしております、海舟殿」
そう笑む愛しき人に見つめられてしまっては、降伏せざるを得ないというものだった。