ortensia
2025-10-06 18:37:07
3488文字
Public 傭リ
 

現パロ。車に揺られる傭×森の怪物?リ。他のキャラも出てしんだりする。

原作The Deadseatでは口論親子とその息子が主人公です。食人を仄めかす。ハードモードじゃない、ノーマルプレイ寄りのお話です、エイミー役も出て来ません。

 助手席と運転席から、モウロとセルヴェの口論がまた始まりそうだった。
「このルートは利用不能となった。……代替ルートを発見した。」
 カーナビの言葉が皮切りだった。
「クソ。道の工事なんて聞いてないぞ!それにこんな肝心な時にカーナビが役に立たない。ここはいったいどこなんだ。他の車は通ってないぞ。なあモウロ、何か言えよ。さっきから無視しやがって。」
 後ろの席でも苛立ちが響いて来る。この限られた空間内でやめてくれ。地獄の空気だ。そうなればここはさながらデッドシートか。勘弁してくれ。叶うことなら脱したい。こんなところで放り出されるなら、それはそれで癪だが。
……セルヴェ、腹減った。」
「はあ?お前はどうせいつもそうだ。大丈夫だろ。ゲームでもしてろ。」
 それだけ言うと、セルヴェはまたぶつくさと文句を再開した。
 ゲームを立ち上げる。空腹だけでなく、口煩い音も紛れると良いのだが。
 Permainan Pejuang
 ゲームタイトルが表示され、ゲームがスタートする。タイトル画面の次に映った画面は、車が森に挟まれた道を進んでいるシーンで、車はこの一台だけ、何処までも進んで行くような気もする。
 次に画面が変わり、テキストと共に表示された。
 もっと森の奥、ハッピーケイヴ、そこにおいで。わたしのところには食べる物もあります。あなたは今いる、そんなところにいる必要はありません、そんな、デッドシートなんかに。
 どうやら車はこのハッピーケイブという場所に向かっているらしい。
 長い旅路には物資が必要です、そうでしょう。
 ゲームの中では、車は道中でゆっくりと停車し、車から降りた。歩いて行って、森の中にある肉を食べる。森の中には他にも、何かのマークが描かれた飲み物や、車や建物を補強出来るようなバリケード、それからトラバサミ、そういったアイテムは回収して車に持ち帰る。森の散策中は腹が減るから途中で肉を食べながら。
 車に戻ればまた車は進み続ける。
 他の車は通らないが、道中ガソリンを拾いつつ、障害物にぶつからないように左右に車を揺らす。
「あ。」
 車の操作をミスして、鹿にぶつかってしまった。
 がしゃん。
 ゲーム画面から顔を上げると、車の窓が割れていた。まるで何かにぶつかったかのように。
「この先右折だ。事故を起こしても、それはゲームの中の話。」
 カーナビが告げる。
 ずっと黙っていたモウロが言った。
「ナワーブ、ゲームの音量を下げてくれ。」
「おいモウロ!お前ナワーブとは会話するのか!」
……きみと話しても事態は改善しない。きみが落ち着いて正気になるというなら、それはそれからまた話し合おう。」
「なんだと!私が一方的に癇癪を起こしているかのように言うな!」
 モウロは怒鳴り散らす男が嫌いだし、セルヴェは自分が蔑ろにされるような扱いが嫌いだ。こいつらの過去に何が遭ったかなんかに興味はないが、そういうことだ。
……あの時だって、きみが目を離すから、カートは何処かへ行ってしまった。そもそもきみがナタリーの飾りをマジックだとか言って何処かへやって仕舞わなければ、彼が空想の世界に探しに行くだなんて飛び出すこともなかったのに。」
「あーもうやめやめ!私達は話すのをやめたほうが良い。」
「きみのほうが執拗に話し掛けて来たんじゃないか!」
 ゲームは次のステージに移った。
 あゝ、ハッピーケイヴに少し近付きましたね。わたしが導きますから。その調子で生き残って、幸せを掴んでください。美味しい食べ物を用意して待っていますからね。
 ステージが進んでも、景色が変わるわけではない。他の車は一切通らない道の両側には、森が広がり続けている。
 前のステージと同じように、物資アイテムを集めながら、腹が減らないように肉を食う。森から戻ると、また、車を進める。
 ゲームの車が進んでいる間にも、自分が乗っている車は進む。いや、自分が乗っている車が進んでいる間にも、ゲームの中の車が進んでいるのだろうか。
 ガソリンを拾いながら鹿をよける。よけ損なうと、また。
 がしゃん。
 ゲーム画面から顔を上げ、仕方ないので割れた窓をバリケードで塞ぐ。もう片方の割れた窓の前にはトラバサミを仕掛けて、入って来るものに備える。ついでに飲み物を飲むと、車の速度が上がった気がした。
「だいたいお前達サーカス仲間だって信用ならん!」
「ゲームを始めるには人数が必要だった、なら多いに越したことはないだろう。」
「信用出来ない有象無象を増やしてどうする!」
「きみは誰だって信じてないだろう!」
 現状も、ゲームの中もそこまで変わり映えはない。
 ゲームのステージが進み、また車を停めて森の散策をする。今回のアイテム回収では飲み物を多く手に入れられた。缶型のそれをコンソールに積む。一緒に置いていたカメラで前の席を撮る。それにも気付かずけたたましく口論を続けている。もう二人同時に喋ってるいるようなものだ。
「セルヴェ、腹減った。」
 けれど写真に声は入らないから良いだろう。
 ゲームのステージは進んで行く。森の中を車が進むように。
 そうです。さあもっと。
 しかし、車を停めて物資を集めていると、大きな怪物が森を徘徊している。それをよけながらアイテムを拾い、車まで戻る。
 そして車を進めても、鹿と一緒にあの大きな怪物が前方に迫って来る。
 でも方向が間違っていますね。左、左ですよ。
 画面から顔を上げると、確かにフロントガラスの向こうに背の高い怪物が立っている。
 思わず身を乗り出してハンドルを左に切ってよける。
 モウロもセルヴェもいない。
「静かだな。このままだと。」
 カーナビが静かに言う。
 車は進む。ゲームの車も、進めなければ。
 物資アイテムのために車を停める。またあの大きな怪物に追われながら。
 森には肉や物資とは別に、今までにはなかった二つの塊、モウロとセルヴェがあった。しかしどうすることも出来ないまま、怪物から逃げるために車に戻った。
 車を進める。ガソリンを拾いながら、鹿をよけながら、あいつをよけながら。あいつをよけるために画面から顔を上げ身を乗り出しハンドルを左へ。
「これ以上私の友人にぶつかるな。」
 カーナビが言う。
 そしてまたゲーム画面へ。
 森の物資アイテムを相変わらず探す。相変わらず怪物に追われる。相変わらず肉を、肉か、モウロか、セルヴェか、肉か。食べる。
 もう目前ですよ。次も左に曲がってくださいね。
「右だ。」
 カーナビはそう言う。
 しかし身を乗り出した自分が切ったハンドルは、左だった。
「おい何してるんだナワーブ!」
「ナワーブ!後ろにいてくれ!」
 車は崖から転落した。
 気付くと両足が痛んだ。
「モウロ?セルヴェ?」
 二人は起きない。
「悪魔の目は赤い。脱出には、どんな意味があるのか。」
 カーナビは最後にそれだけ言うと、沈黙した。
 兎に角車から出ようとしたが、いかんせん足が痛む。
 どちらのお肉からにしますか。
「は?」
 どちら、どっちって。肉は、モウロとセルヴェ。
 そうです。二本の足を、両足をしっかり治さないとならないでしょう。おまえは生き残らなければ。だから二人のお肉が必要でしょう。そうでしょう。
 一日ずつで一人ずつ。
 それからまた時が経ち、外が明るくなった頃、足が動かせるようになった。
 車内から脱出する。脱出になんの意味があるのか、脱出が何処から何処へ行くことを指すのか、まだ分からない。それがこれから分かる。
 木々を縫って垂直に落っこちて来た車から出て、木々を縫って水平に進む。
 そういえばカートは言っていた。お宝と危険のある方向とそこまでの歩数が分かると。お宝へのカウントは黄金、そして危険へのカウントは。
 段々木々の合間に鹿達が顔を出すようになってきた。車に対してと違ってぶつかっても来ない。
 そのまま森を進む、奥へと。
 木漏れ日に混じって歌声が聞こえて来る。
 不思議な色合いの森に、不思議な音色の歌。進めば進むほど、その源に近付いて行っているように思う。
 そして、その先に。
 赤い目。
「ようこそ、わたしのハッピーケイヴへ!おまえはやり遂げました。さあ、お腹が空いているでしょう。」
 お食べ。
 そして、差し出された肉を食べた。
 これが目指した脱出の結果なのか。そもそも脱出を目指していただろうか。
 分からないが腹は満たされた。


—————————————————————
いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。