バラ肉
2025-10-06 14:59:01
4418文字
Public
 

二日酔いの朝に アタブロ

エリコさんから素敵ぃぃい!!な絵を投げていただきました!
そのアンサーです!
これまたご都合主義なブロの一族設定を捏造してます。すみません!
二日酔いでマスクを脱いでる兄さんという美味しすぎる食材をちゃんと調理できたか不安ですが、とても楽しく書かせていただきました!
ありがとうございます😭

エリコ様へ




「おい、起きれるか?」

上から降ってきたぶっきらぼうな声に、アタルはフッと目を覚ました。
朝の挨拶ではなく、『起きれるか』という確認に寝ぼけた頭が返事を遅らせる。どう返すのが正解か。そんな他愛無い思案にパチパチまばたきをしていると、ベッド上のカーテンがシャッと豪快に開く。

「うぅっ

視界いっぱいに、眩い朝日が容赦無く差し込む。慌てて目を閉じるも、真っ白な残像は瞼から中々消えない。むしろ眠気で隠れていた頭の痛みを誘い出す有様だ。

「ぐっ……ッ」

ガンガンと脳が疼く。アタルは咄嗟に片手で額を押さえた。

「だいぶ辛そうだな」

労いの言葉に薄ら目を開ければ、ベッドの横でこちらを見下ろす緑の目と目が合った。

……ブロッケン」

絞り出すような声で呼べば、困ったような笑顔が浮かぶ。見るからに哀れみの混じったそれは、しかしどこか『仕方ない』と諦めの色が見える。

「まあ、あんな飲み方したらそうなるだろ?」

案の定、ベッドの端に腰をかける彼に同情は無かった。やれやれと頭を振る姿は、言外に自業自得と訴えていた。

“あんな飲み方”──そう指摘されたことにより、アタルの脳裏に昨夜のやりとりが甦る。

昨晩。飲み会の途中でアタル対先鋒・ニンジャ、中堅・アシュラマン、大将・バッファローマンという順で始まった飲み比べは、本人たっての希望だった。

『男には勝たねばならん戦いがあるのだ』

力強く拳を握って主張する隊長に、ほろ酔いの悪魔達が乗らない訳がない。
『え! ちょっ、アンタら何考えて!』
止める家主の声など聞く耳持たず。
『おうおうやってやろうじゃねえか!』
『ほう、悪魔に遠慮はないでござるぞ?』
『私が大将じゃないのか!?』
なんて騒ぎながら、勝手に屋敷のアルコール類をかき集めた彼等は自前の物と合わせて、早々に勝負を始めたのだった。
ビール、日本酒、ウイスキー、ウォッカ、ワイン……果ては『魔界のエーテル』なる怪しさ全開の酒まで出された場は、はっきり言ってカオスだった。
そしてニンジャ、アシュラマンを制し、最後はバッファローマンと向き合って、さあ決着を──というところまで思い出し、アタルの記憶はそこでパタリと途切れた。
どちらが勝ったかすら覚えがない。
また、どうやって此処まで帰ってきたのか。そう頭を捻れば、ハアとわざとらしい溜息が聞こえた。

「最後は二人してバッタリ倒れやがって。全く良い大人が何やってんだか」
アンタらを部屋に担いでったオレの身にもなれよ。

手持ちのカップに入ったコーヒーを啜りながら告げるブロッケンJr.に、アタルは事の顛末を悟った。
どうやらこの年少者には随分と世話になったらしい。

「それは、すまなかった。手間をかけたようだな」

面目ないと頬を掻けば、意外だとばかりに相手の目が大きくなる。唯我独尊を地で行く男から謝罪を受けるとは。
思いがけない収穫にクシャリと笑みが浮かぶ。

「まあなっ! でも……隊長の羽目を外した姿ってのもある意味貴重だし。だから気にしてねえよ」

わざとらしく鼻を擦りながら、照れ隠しに足を前後に揺らす。酔いに頭が鈍っているとは言え、素直な反応は妙にくすぐったい。

「とりあえず、ほら。これでも飲んでろって」

サイドテーブルに置いていたボトルを掴むと、ブロッケンはアタルの枕の横へとソッと置いた。
どうせ今日はろくに起きては来られまい。ならば、と一緒に持ってきた品だ。

「頭痛えんなら、マスクごと取って良いぜ。見ないようにするから」

言うなり、さあどうぞ、と背中を向ける。
今回は例外だが、ブロッケン自身もかなりの酒飲みである。当然二日酔いへの理解も高い。
水を飲んでアルコールを散らすのも良いが、経験談からして、頭を拘束する物を全部外すと更に楽になる。実際、本人も辛い時は堂々とヘッドギアを取っていた。

「しんどいなら無理すんな」

あっけらかんとした声は、天邪鬼な彼なりの気遣いだ。
しかしその優しさは有難い反面、キン肉王家のマスクはそんなに容易く外せるものではない。他のどのマスクよりも重い意味を持つ。

(お前のそれとは、大分意味が違うんだが……

それぞれの置かれた立場をちゃんと読み取れ。本来ならやんわりとでも嗜めるところだ。
だが、地獄のようにガンガンと痛む頭を前に、わざわざ突っ込む気力はなかった。
何より、口が出ないデザインだからと自分自身、普段から簡単に鼻先まで捲っているのも事実だ。ブロッケンが安易な発想をしたのも仕方ないと言えば仕方ない。

……臨機応変という言葉もあるしな)

今ばかりは、深く考える方が愚策。
アタルは一族の決まりからほんの少し目を逸らし、シュルッと後頭部のマスク紐を外した。そして重たい体を半分起こし、水の入ったボトルに手を伸ばす。
ごくごく。
流し込んだ冷たい液体が、喉から全身に染み渡る。
一気に半分まで飲むと、彼は心地よさのままうつ伏せにベッドへ倒れ込んだ。
大きな枕に顔が沈み、ひんやりとした生地が火照った頬に心地よい。もっと味わいたくて、顔を擦り付けるよう頭が左右に動く。本人にとってそれは飽くまでも無意識に癒しを求めた行為だった。けれど、側から見れば酷く物珍しい状況で。

「ククッ……本当、らしくねぇの」

声も抑えずに笑うブロッケンに、アタルはハッと我に帰り、調子悪そうに唸った。

……そう笑うな」
「すっ、すまねぇ。……でも、フフッ。可愛い真似するから

咎められた事で余計にツボに入ったのか。形だけの謝罪に本気で怒るわけにもいかず、この男は……と、恐れ知らずな態度に更に頭が痛む。

だからか、言うつもりの無かった本音がポロリと漏れてしまう。

……酒に強くないと、お前のところの一族を黙らせられないだろ」

枕に顔を埋めたまま、ぼそりと嫌味がましく呟く。

「へ???」

“一族”。聞き捨てならない単語にピタリと相手の動きが止まる。その様を枕の隙間から覗いたアタルは、しまったと後悔するが、もう遅い。

「それってどう言う意味だっ!」

驚きに満ちた声は大きく、アルコール漬けの頭にキーンと響く。

「ぐうぅ……

痛みから、枕を抱く腕に力が入る。
このまま第二陣が飛んできたらとんでもない。
身体的な痛みならまだしも、慣れない頭痛が与えるダメージは思った以上だ。チラッと視線だけブロッケンに向けたアタルは、目を白黒する彼に大きく息を吐いた。

……お前の保護者に釘を指されてな。『ブロッケン一族の者を娶るには、一族の精鋭と飲み比べで勝たないとならんらしい』とな……だから」

「え、保護者? それってラーメンマンのことか? あと、なんだよ、娶るって……? ま、まさか!? ちょっと待ってくれ! つまり、アンタは……ええ!?」

ネタバラシに頭が追いつかないのか。完全に混乱したブロッケンの顔は赤くなったり青くなったりと忙しい。

確かに、自分の一族にはそんな古い風習がある。
年寄り連中が酒を飲む口実に作っただけ、と父からの説明付きで、散々聞かされたものだ。
『だから、お前もちゃんと筆頭として強くなるんだぞ』と続き、
『ああ、しかし……お前のムッターも強かったぞ。うんうん。あの華麗な飲みっぷりはどこのフロイラインよりも優雅で、勢いがあって……』と惚気話で締めくくられるのはお馴染みのパターンで。

……じゃあ、昨日のは!」

「ああ、もうそろそろ腰を上げんとな……アイツらには訓練がてら付き合ってもらった」

「ッ!!??」

ここまでバレたら隠すことなどない。ハッキリと言い切るアタルにブロッケンはカップを持つ手をブルブルと震わせた。
酔っ払ってもいないのに、顔が怖いくらいに熱い。何か言おうにも、動揺に上手く言葉が紡げない。
思い返してみれば、昨夜のバッファローマンたちはいつも以上に自分に絡んできた気がする。
ニヤニヤと悪魔らしい笑顔で近付いては、
「お前も隅に置けねえなぁ!」
「似合いと言えば似合いだが、まあ上手くやるでござる」
「カーカッカッカッ!なんだかんだ綺麗事を言っておっても、やる事はヤッていると言うことだな!」
三者三様に肩を叩かれたのは、そう言う意味だったのだろう。

「あいつら、全部分かってて……

盛大に揶揄われたことに気付き、拳を握る。
怒りと悔しさ、そして——こんな無茶な特訓をする、変な所で生真面目な男への想いで胸がドキドキと高鳴る。

……とはいえ、次はビールだけでするか。流石にちゃんぽんはキツい」

頭を掻きながら反省点をぼやくアタルとは反対に、ブロッケンは深く息を吸い込んだ。
そして座っていた位置をずらし、距離を詰める。

……それならさ。オレが相手をしてやるよ。……一族筆頭は腕っぷしだけじゃねえんだぜ?」

そう言って、枕を握りしめる相手の手に自分の手を重ねた。
覚悟に寄り添うという言葉は、なにも闘いだけじゃない。この男に関する全てに有効だ。
それに、こんな“一番の関係者”を蚊帳の外に置くなんて、許されない。

「なあ、期待してるぜ?」

父が語る母のように。
自分もアンタの話を誇れるように。
はにかみながら、ブロッケンは男の勇姿を想像して指を絡めた。

なのに、

「ううむ。確かにそれは有難い申し出だが……白い肌を赤く染め、じっとり濡れた目で酔っ払うお前とちゃんと勝負ができるだろうか……?」

空気を読まない男の感想は、余りにも酷く。

「はあ!? あ、アンタ何考えてんだ!?」

折角の雰囲気をぶち壊しにする相手に、ブロッケンの顔が歪む。思わず重ねた手を振りほどこうとするが、知らぬ内にぎゅうっと力がこめられ外れない。
二日酔いで辛い筈なのに、やるべき事はきちんとやる。これが男だと見せつけるように。

「正直な感想だ。どこが悪い?」
「ったく!!」

どんな時であっても傲慢さを忘れない、男の中の男。そんな彼の態度に、変な所でロマンチストな若者は思い切り口を尖らした。

(とんでもない相手に捕まっちまった!)

そう思う反面、捕まりに行ったのは今も昔も変わらずいつだって自分の方なのだ。

チチチッ……窓の向こうから朝を告げる鳥の声が聞こえる。アタルと同じく寝込んでいるだろう他の三人も、これから起こしに行かなければならない。

けれど、今はまだこの手を離したくなくて。

「付き合ってやるよ。どこまでも」
「フンッ……それは心強いな」

含み笑いで答える相手に、ブロッケンは照れ隠しに温くなったコーヒーを一口啜った。
これが飲み終わるまでは此処にいても良いだろう。
自分に言い訳をしながら、一口ずつ、ゆっくりと味わった。