雪成はす子
2025-10-06 00:00:18
3452文字
Public 💛関連
 

宴に至るまでのプレリュード

🐯さんお誕生日おめでとう✨✨な🐯誕記念SSです(再掲)
🐯さんの誕生パーティーを恙なく始める為にポラタンに襲撃して来た敵海賊団たちを迎え撃つ💛ちゃんたちの話。
⚠原作程度の殺人描写がちょろっとあります。
🐯さんメインというより🐯さんの事が大好きな🐯さん自慢の💛クルーの話というイメージです。
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 甲板の扉の前に樽を置き、鯱を模したキャスケットの男が腰かける。
 半分胡坐をかいてギターを構え、弦を爪弾いて呑気に張り具合なんかを確かめると、やがて指でカウントを取って何とも勇ましい曲を奏で始めた。
 その様を取り囲むように、ポーラータング号が停泊している入り江の周辺の森に気配が集まっていく。がざ、と木の上に登り、呑気にギターを演奏している男をじっと眺めた。
「見張りは一人か。何ともまあ手薄な事だ」
「全くだな」
「しかも音楽家か? アイツ。なら制圧は一瞬だな。ハートの海賊団もちょっと名が知れてるからと言って油断しすぎだぜ」
「はは、違ぇねえわ」
 笑う声に、はた、と思い出す。
 俺は一人で木に登った筈だ。なら、相槌を打っているの、は。
「がっ……ひゅ、い」
 笛が鳴るような音を最後に、男の視界は何処までも青い空を捉えた。
 男の体が落ち、バキバキと木の枝を折りながら地面に転がった。その様を眺めながらハッ、と嗤う男の背中には目の前の黄色い艦と同じジョリーロジャーが掲げられている。
「だから言ったろ? 油断しすぎだよバーカ!」
 中指を立てて舌を出すクリオネに、振り下ろされる刃が迫る。やべ、とナイフを構えようとした矢先に、振り下ろされた刃ごと敵が吹っ飛んだ。
「油断しすぎなのはお前の方だろ、クリオネ」
「うっせぇ」
「さて、他の奴も動き始めたかな。キャプテンが帰って来る前にこっち片付けて宴の準備しないと。全く、何で今日に限って襲撃してくるかなぁ」
「全くだ。折角キャプテンの為にとっておきのケーキ頼んだのに……よっ!!」
 蹴り上げた踵が相手の顎にめり込む。あちこちで剣戟の音、銃声、それと野太い怒号と悲鳴が飛び交い――その合間を縫うように、仲間を鼓舞するギターの音が紡がれる。
「ったく、シャチも呑気な役割だよなぁ」
「言ってやるな。態々ああやって囮になって挑発してるんだから、いっそ大した胆力だよ」
「分かってるけどさぁ」
 ひゅん、とふたりの間を縫って銃弾が掠める。何処から撃たれたのか、その弾は真っ直ぐに甲板のシャチを狙っていた。
 けれどシャチに当たる事は無い。ギターを弾きながら、さり気ない仕草で顔を逸らせるとそこを銃弾が通り過ぎていく。
「向こうだな、ウニ」
「ああ、方角が分かれば充分だ」
 ザッ、と枝を蹴り、二人は飛び立った。


「当たらねえのか!? 畜生、こうなったら俺がこの手で」
 シャムシール片手に男が飛び出す。甲板の男は曲が終わったのか、ギターを弾く手がぴたりと止まった。すっと懐に手を入れ、取り出した銃口を向ける。
 サングラスの男はこちらを見てはいない。一瞥もくれぬまま、さり気ない仕草で取り出した銃は斬りかかろうとした男の額を真っ直ぐに撃ち抜いた。そのまま銃を仕舞い、またカウントを取って次の曲を奏でる。
「くそっ、たかが音楽家だろ!? なんで」
「何でもクソも無ェんだよなぁ」
 真っ直ぐに心臓を貫いた男がニヤリと笑う。ずぼ、と槍を引き抜き、ヒュッと軽く薙いで血糊を払った。
「アイツは確かに音楽家だけどな、俺らの中でも随一の戦闘員でもある。お前らなんかに討ち取れる筈が無ェだろ」
「うわっ出たよペンギンの相棒自慢」
「事実なんだからいいだろ」
 改造拳銃を撃ちながら、呆れたようにイッカクは眉を顰めた。
「さて、これで半数くらいか? ……おっと」
 振り下ろされた刃を避け、ペンギンは槍をスウィングさせて男を薙ぎ払う。イッカクの背後を狙っていた男は、けれど何処からか頭を撃ち抜かれてそのまま仰のいて倒れた。ナイス、と親指を立てると遥か遠くの崖からスコープを覗いていたおさげ髪の男が同じように親指を立てる。硝煙を上げるライフルから薬莢を弾き、また次の弾を充填した。
……ったくもう!! なんっでキャプテンの誕生日っていう大事な日に限って襲撃なんか来るの!!」
「文句言うなよイッカク。キャプテンだって今日は誕生日だってのにコイツらのアジトに乗り込んでるんだぞ。しかも単身でさ」
「何だと!?」
――あァ、聞こえちまったか?」
 悪いな、と全く悪びれずにペンギンは言う。この襲撃を指揮したリーダーだろうか、男はわなわなと震えながらペンギンに刃を向けた。
「答えろ! お前らのキャプテンは、トラファルガー・ローは何処だ!!」
「だからさっきも言ったろ? キャプテンは単身お前らのアジトに向かった。お前らの大将も今頃は生首かもなぁ?」
「このっ……ふざけんなぁ!!」
 ひゅん、と振り下ろされた刃は虚しく宙を切る。
 眉間を狙う改造拳銃と心臓を狙う槍。同時に貫かれた男は悲鳴を上げる間もなくどうと倒れた。
「さて、まだまだ居るな。雁首揃えてる割に大したことねえ奴らばっかりだけど」
「ほんっと何処から湧いてくるんだか。ああもう、汗でベトベト! 宴の前にシャワー浴びて化粧し直さないと。こんな姿でキャプテンの前になんか出られないし」
「いや直した所で大して変わらねえだろ」
 ペンギンの余計な一言に、容赦の無いイッカクの拳が飛んだ。


 大きな樽を幾つも抱えたジャンバールと、同じく大きな木箱を幾つも抱えたベポやハット達が戻ってきた頃には、艦の前はすっかり静けさを取り戻していた。
「よお、お帰りベポ」
「ただいまペンギン! 襲撃は終わった?」
「ああ。後は周辺を掃除して宴の準備に取り掛かるか。コック達の調理の手を止めずに済んで良かった。後は甲板にテーブルとか用意して、料理を並べ始めるとするか」
「その前に掃除しないとね。ちょっと血の匂いが濃すぎるし。ジャンバール、食料積んだらおれと一緒に周辺の掃除な!」
「ああ、了解した」
 ベポの言葉に、ジャンバールは重々しく頷く。自分の命令に素直な後輩の姿に、ベポは何処か得意げな様子で木箱を運んだ。その後ろを着いていくジャンバールの姿は、構図こそ天竜人に連れられていた頃に似ているがあの時とは様子がまるで違う。ベポに付き従いながら、その姿は何処か嬉しそうですらあった。
 甲板に戻ると、それまで腰かけていた樽を移動させるシャチの姿があった。空の木箱を並べ、その上に人数分の樽ジョッキを並べていく。
「お疲れ、シャチ」
「ペンギンこそお疲れ。どうだった? 俺の演奏」
「あ、悪ィ聞いてなかった」
「ヒッデェの」
 ぶう、と頬を膨らませるシャチに、悪かったって、と肩を叩く。
「それにどうせリハーサルだろ? だから本番になったらその時に改めて聞かせてくれ」
「おう、任せろ!!」
 親指を立て、シャチは得意げに笑った。


 人数分の樽ジョッキや大樽や酒瓶。クリオネが特注した大きなケーキと、酒に合うつまみや肉料理やおにぎり等を所狭しと木箱の上に並べていく。
 青い空間が現れ、今日の主役であるローが帰還する頃には、既に宴の準備はほぼ終わっていた。
「あ、おかえりキャプテン!!」
『おかえりなさいー!!』
「ああ、ただいま」
 ここを出た時と全く変わらない、いつもの格好良いキャプテンのままのローの姿に皆一様に喜色を表す。
「お前ら、こちらに変わりはなかったようだな」
「勿論ですよ、今日は大事な日なんですから。『予定通り』これから宴を始められます」
「そうか」
 ペンギンの言葉にローはニヤリと満足げに笑い、それからシャチに向き直った。
「リハーサルはばっちりか? シャチ」
「任せて下さい。最高の演奏聞かせてやりますから!!」
「ああ、楽しみにしてる」
 ぐっと親指を立てるシャチに、ローはぽんと肩を叩く。
 秋島の秋の夜は少し冷えるが、この艦の甲板はいつも何処か温かい。
 香ばしく焼けた肉の匂いと、こぽこぽと注がれるきめ細やかな泡のビール。各々溢れんばかりに注がれたジョッキを手に取り、ゆるく弧を描く三日月に高々と掲げた。


『誕生日おめでとうございます!! キャプテン』


 皆の声が一つに重なり、それに応えるようにローもまた樽ジョッキを掲げる。
 最高の料理と、最高の仲間。最高の艦とに囲まれて、今日もまたこの日を迎えられた。
 宴の喧騒の中で奏でられるギターの音色は心地良く耳に響く。酔いに任せて調子外れな歌を合わせている者もいるが、それはそれで歌っている者も聞いている者も楽しそうだ。
 コックが作ったおにぎりを頬張りながら、ローは楽し気なクルーの様子をいつまでも眺めていた。