三毛田
2025-10-05 22:01:41
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36 036. 触れたいと願った瞬間から

36日目
君に恋していた

 きっと、もうすでに恋をしていたのだろう。
 触れたい。キスしたい。抱きしめたい。
 そんな欲望が、胸を占めていき。
「丹恒、触っていいか」
「お前の好きにしろ」
 ほらまたこうやって、理由も特に聞かず俺を甘やかす。
「むぅ……
「どうした? 何が不満だ」
「べっつに~」
 不貞腐れたまま、彼の手に触れる。
 俺より低いその手が、ちょっとだけ火照った体にちょうどいい。
「ふっ」
「なに」
「お前の手は、心地いいな」
「ふぐぅ」
 少しだけ目を細め、嬉しそうに呟くから。
 俺の心に、クリティカルヒット。
 手に触れたまま、その場に座り込む。
「穹?」
 俺の様子がおかしいと気付いたようで、彼もまた座り込んで視線を合わせてくる。
「ちょっと待って。深呼吸したら、戻るから」
「そうか。待っていよう」
 深呼吸してみるけど、駄目だ。手を繋いでいるという事実で、全然落ち着けない。
 俺、今までどうやって丹恒と接したんだっけ?
 考えれば考えるほど、わからなくなってきた。
 このままでは心臓に悪いので、何が何でも気持ちを落ち着かせてみる。
「大丈夫か」
「うん。なんとか」
「そうか」
「もうそろそろ、手を離してもいいですか」
「それを決めるのはお前だ」
 と、柔らかく微笑みかけてきて。
「んぐぅ」
 手を離して、その場にうずくまる。そんな俺を、彼は微笑ましそうに見ているだけだった。
 その心遣いが嬉しいと思うと同時に、ちょっとだけ寂しくもある。
 本当に、恋とはままならない。
「どうしたら、丹恒に意識してもらえるかな」
「押して押して押しまくれば?」
 投げやりに、俺の爪に何かを塗るなの。
「何塗ってるんだ?」
「最近指先が荒れてるみたいだから、ネイル老いる。この後、ハンドクリームも塗るから」
「はーい」
 こういう時は、大人しくしておくに限るのだ。
「丹恒にもやるの?」
「たまーに。丹恒の機嫌がいい時なら、やらせてくれる。特に、翌日姫子の護衛で出かける時とかは、やらせてくれたりするよ」
「へえ」
 俺も指先の手入れを覚えたら、やらせてくれたりするのだろうか。
「なの、後で教えて」
「いいよ~。丹恒にやるの?」
「まあ、そんな感じ」
「ウチがやるよりも、素直にやらせてくれそうだろうから、頑張って覚えてね」
「教えてくれるのか?」
「アンタが教えてって言ってくれればね」
 そんな会話を交わして暫く。
「丹恒。俺に指先の手入れをさせてください」
「三月の入れ知恵か」
「なのに教えてもらったけど、丹恒にやりたいって思ったのは、俺だから」