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あけみ
2025-10-05 07:04:05
4187文字
Public
SPN(小説)
【SPN】彼の者の魂に惹かれる堕天使【C/D】
さわまる展示用書き下ろし。
エマニュエル×ディーン。S7
記憶喪失のカスティエルが再びディーンの魂を目にして一目惚れする。
彼の者の魂に惹かれる堕天使
エマニュエルという名は天使の名から取ったという。出会った時、私を天使のような人だと言ったダフネが祈るような視線を向け、その名前を呟いた。天使という言葉には馴染みがあった。すんなりと受け入れたのは、以前の記憶がなかったことと、心身ともに疲労していたせいでもある。
それから、もう一つ。天使と呼ばれた私には不思議な力がある。傷を癒すことや、人の魂を感知できること。人だけではなく、人ではない者の真の姿を捉えることができた。自身が何者か理解できないまま、この場を離れるわけにはいかなかった。
ダフネの言葉を聞き入れ、大人しく過ごすうちに、私の元に多くの人間たちが訪れるようになった。彼らの欲深い魂に辟易する日々を過ごし、救済を求める人間たちの治癒を施す。もちろん、善人には治癒を行ったが、中には悪用を企む人間もいた。狡猾な人間は善人を装い近付くが、醜い魂を目にした私は素っ気なく拒んだ。そんなことを繰り返していくうちに、虚しさのようなものが心身ともに蝕んでいるのに気付く。心ここに在らずで過ごす日々に、ふと焦燥感を覚えるようになった。普通の人間のように生活を送る自身に対して、本当にこのままで良いのか?という漠然とした疑念。
この力はこんなところで無暗に使うのではなく、別の誰かのために、守るために使うものだったのではないのか。
誰のために?
何から守る?
分からない。何も思い出せなかった。
そんな中、虚無感に苛まれる私を灯し導く魂に出会った。
彼の魂を一目見て、一瞬で恋に落ちた。これは大げさな表現ではなく、ドクリと高鳴る胸の鼓動は体中を熱くさせ己を震わせたのだから間違いない。
人の魂はそれぞれ光り輝く大きさから色味に個体差がある。魂を感知できる私は、さまざまな魂を見てきたが彼のように美しく黄金に輝く魂を持つ人間に会ったことがない。
――
いや、以前にも同じ感覚を味わったのかもしれない。そう思ったのは、彼の反応に違和感を覚えたからだ。
「キャス
……
」
そう、一言、消え入りそうな声で呟いたのを聞いた。それは名前のようだったが、数カ月前に湖の畔で倒れていた私は、それ以前のことは何も覚えていない。
「それは誰だい?」
「
……
すまない、あんたが友人だった奴に似ていた」
ディーンと名乗った彼は、眉を寄せながら「人違いだった」と言うと、顔を背けた。魂の揺らぎを察した私は、それが偽りだと勘づいた。彼にそんな表情をさせてしまったことに、私は困惑した。何か言葉をかけようと口を開きかけたが、背後からダフネが割って入る。
「旦那の噂を聞きつけて、訪ねてくれたのよね」
リビングルームにディーンを案内したダフネはテーブルにコーヒーカップを置いた。彼女の言葉に一瞬、動揺したディーンは眉根を顰める。
そこで私は少し気まずい思いをした。
湖の畔で倒れていた私を助けてくれたダフネは良い人間だが、それ以上の存在にはなれなかった。婚姻を結んだのは彼女がそう望んだからだ。私は普通の人間と感覚がずれているようだ。感情の抱え方も、人間と比べて冷めていた。ダフネも親愛からくる以上の感情は私に抱いていなかったようだ。どちらかといえば信仰心に近い。
ダフネが私を保護した真意は分からないが、私に加護があると気付くと否や崇高するような感情のもとに婚姻を迫った。彼女の魂は純粋だったため、私も無下にしなかったがディーンの魂の揺らぎを見るに、婚姻を結んだのは間違いだったようだ。
「結婚
……
したのか?」
驚愕に揺れたディーンの瞳が向けられ、私はギクリと胸がざわめいた。それは、罪悪感めいたものだったか。しかし、何故、とも思った。ディーンとは初対面のはずだ。既婚者であることをディーンに知られ困ることはないはず。なのに、何故こうも私は焦り「違う」と否定したいのだろうか。
私とダフネと懇意であると見るにディーンの態度が変わった。最初の困惑から一変し、そこには虚勢と諦め、僅かな憤怒。
玄関先で対面した時は、希望と安堵があったことは読み取れたが、ディーンの複雑な感情は非常に分かりにくい。おそらく彼は繊細で臆病なのだろう。感情に偽りを塗り固め傷つかないように自分を守っている。
「夫には不思議な力があります。けれど、それまでの記憶がないんです。きっと、忘れたいほど辛い記憶なのでしょう。出会った頃は酷く怯えてました」
悪気のないダフネの言葉はディーンの動揺を煽ったが、彼はそれを無理やり押し込み平然としてみせる。
「そう
……
、けど、今は幸せそうで良かった
……
」
固く閉ざされた感情が紡ぎ出されたディーンの言葉に、私は眉を寄せる。こちらと目を合わせない彼のことが、どうしても気になる。
対してダフネは表情を柔らかくさせ頷いた。彼女の献身的な支えは、ありがたかったがこれ以上ディーンに無邪気な言葉を投げかけられるのは余計だった。私は今までの経緯を語りだそうとするダフネの言葉を遮り、彼女に少しの間席を外すよう促す。有無を言わせない鋭い言い方になってしまったからか、ダフネは口を噤み肩をすぼめた。静かに部屋から去る彼女を見送りながら、改めてディーンに向き直る。
「すまない、変なことを言うようだが私とダフネは君が考えるような関係ではない」
「
……
へぇ、仲睦まじい夫婦に見えるが?」
明らかに棘がある言い方に、私は少し苛立った。先ほどまで傷ついた顔をして虚勢を張っていたくせに、今度は子どもじみた嫌味で私を揶揄う。そういうところが、以前から気に入らないのだ。「以前から」という言い回しは妙だ。しかし、ディーンとは初めて会った気がしない。
私は改めて彼と向かい合うように席に着いた。
「私の話より
……
君の話を聞きたい」
私を訪ねてきたということは、誰かを治して欲しいということだから。そう、話を向ける。ディーンは、表情を引き締め拳を握りしめた。
「
……
サムを
……
弟を助けて欲しい」
真っすぐこちらを見つめるディーンの瞳は、揺るぎない意志が私の胸を貫く。魂は煌めき惚れ惚れとする美しさだ。私は思わず感嘆と息を吐いた。
ディーンがサムの状態を説明する。彼の話を聞きながら、私は慎重に頷いた。普通の怪我や病気ではないようだ。得体の知れない何かに呪われているので心身ともに弱り精神を蝕んでいるのだろう。
「頼む
……
もう、お前しか頼れない」
視線を伏せたディーンの瞳が揺れる。
「分かった。君の弟を助けよう」
不思議と彼の頼みは拒めなかった。ディーンの助けになることは全て請け負うつもりでいる自身に、驚きと戸惑いを覚えるも正しいことだと思える。
「しかし、君の話を聞くと、サムの状況はかなり悪い。普通の治癒では治せそうにない」
「それじゃ困る! 俺にできることは何でもする! だからサムを助けてくれ」
「身体に怪我を負っているわけではない。傷ついているのはサムの魂だ。魂を治すには魂の力を借りる必要がある」
私の力だけでは治せないが、サムを助けると宣言した通りディーンの助けになりたかった。だから、普段ではやらない方法で治す案をディーンに提案する。
「魂の力を借りる?」
ディーンは怪訝に眉を顰めた。
私はゆっくりと立ち上がる。そうして、ディーンの胸を指し示す。
「人の魂には凄まじい力が宿っている。私が使う恩寵とは別物の力だ」
ディーンの傍に近付いた私は彼の顔を覗き込んだ。伏せていた視線を上げたディーンと目が合う。
「それで、どうするんだ?」
決意の色を濃くした瞳が私を捉える。一瞬、息が止まった。私は、腕を伸ばし掌をディーンの胸に添えた。
「君の魂から少しだけ力を借りる」
そう言ってから、目を細めた。これはディーンにとって酷かもしれない。魂に触れられる苦痛に耐えられるのか。彼を気遣う素振りを見せながら、実際に私はディーンの魂を直に触れられる機会に少し興奮した。
「君が許可してくれたら私は」
「いいぜ。俺の魂でも何でも使ってくれ」
サムを助ける為。即答するディーンにズキリと胸が痛んだ。彼は、弟の為なら自ら命を絶つことも躊躇しない。それはとても美しい精神だろうが、私は彼の傍にいて手を添えたい。手助けしたいのだ。役に立ちたいという強い感情が私を突き動かす。
ディーンの胸に添えた掌に恩寵を流し込む。すると、私の腕はディーンの中に入り込んだ。強い光を放っている魂は胸部にある。
「ぅッぁあ!!」
ディーンのこらえきれない苦痛の声が漏れる。その声にゾクリと身体が震えた。
集中しろ、私には加虐性はない。苦痛に歪む彼の表情にうっとりと鼓動を高鳴らせるのは、間違っている。
ディーンの魂は熱く、指で触れると彼が誰よりも愛情に溢れる優しい人なのだと分かる。だから、違う触れ方をした。
「君の魂に触れていると、全部思い出しそうな気がする」
耳元で囁けば、ディーンの肩がピクリと揺れた。私は、薄く笑んだ。ディーンの胸の中に入れた右腕は魂を感知し、指で優しく愛撫する。思わず声を上げるディーンは、咄嗟に口を掌で覆い喘ぎのような吐息を噤む。
「
……
ッ、キャスッ」
「私はエマニュエルだよ。大丈夫
……
傷つけはしない。君の魂を少し撫でるだけだ」
「ぁ
……
ッ、エマニュエル
……
ッ、これ、
……
マジで、変になるッ」
息に熱を帯び、頬を上気させながら顔を背けるディーンの目元が濡れている。
(ああ
……
美しい
……
)
夢心地に囁いてから、ハッとする。私はもう充分な力を手にしたことに気付く。咄嗟にディーンの魂から手を離した。
「ディーン! 大丈夫か?」
上体を揺らし私に倒れ込んだディーンを受け止める。無防備な魂に欲情を向けてしまったことに顔を熱くさせた。こんな欲望を私は抱いていたのかと、驚いた。
息を弾ませるディーンの背中を撫でながら、自身のことが少しだけ分かった気がした。きっと私は堕天使だったのだろう。
たった一人の人間の為に堕ちた。ディーンの為なら私は自ら立場を捨て去るのも後悔はない。あの美しく熱い魂の傍にいられたら。
どんな事でもする。
青い瞳は細められ堕天使がほくそ笑む。
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