望月 鏡翠
2025-10-05 00:52:23
938文字
Public 日課
 

#1864 罠

#毎日最低800文字のSSを書く


 地崩れが起こったのではないかと錯覚する凄まじい轟音が響き渡った。思わず二の矢のことも忘れて耳を塞いだ。振動で内臓が揺さぶられて、脳みそが崩れてしまいそうだ。
 木から落ちずに済んだのは、幸運としか言いようがなかった。鳥が飛び立ち、空を染めている。
 その向こうに龍が飛び上がるのが見えて、萬木はひとまず身を隠した。風圧で不用意に立っていると、吹き飛ばされそうだ。隠れ場所が暴かれてしまうかもしれないし、何よりこの共有では矢もろくに飛ばない。離れていても感じる、翼の力強さ。
 あれに一打ちされただけで、人間は潰れてしまうのだろう。
 雛が巣に逃げ込むのも確認した。
 あとは、龍が人足の男を見つけてくれることにかけるしかない。
 ただの荷物持ちをここまで連れてきた意味は、このときに使うためだ。街を出てからずっと行動を共に、同じものを食ってきた。萬木は臭いを消す工夫をし、姿を隠そうと装備に工夫しているがあの男はしていない。
 で、あれば最初に見つかるのは、人足の男であるはずだ。危険がないように少し離れたところにおいてきている。空を飛んでいても、瞬間移動できるわけではない。
 離れた隙に、雛を襲う。殺さないように、翼を樹木に縫い止める。助けに戻ってくるはずだ。
 空から襲われたら、ひとたまりもない。
 反撃の手段もなく、なすすべもなく襲われるのみだ。戦うためには相手を引き摺り下ろさなければならない。
 攻撃されるとわかっていて、降りてくることはないだろう。有利な場所から一撃を喰らわせればいい。しかし、自分の雛に危険が迫り助けを求めていたら、どうだろう。
 死んでしまっていたら見捨てるかもしれない。しかし、生きて苦しんでいる雛相手ならどうだろう。
 夜は人の道具だ。龍は強敵だが、細かいものを掴んだり握ったりするようにはできていない。雛の翼ごと引きちぎる覚悟がなければ、動かすことは難しいだろう。
 上空を飛んでいた龍が、何かを見つけて真っ直ぐに降りていく。その瞬間に、萬木は木から飛び降り雛のいる場所へと走った。片目は潰してある。
 矢を構え、巣に蹲って親の飛んでいった方を見ている呑気な竜に向けて放った。
 親鳥に比べるとか細い悲鳴が、森に響き渡った。