アンとの待ち合わせまであと一時間。待ち合わせ場所までは電車に乗って十五分。ゆっくり準備ができそうだ。リコは笑顔でクローゼットを開けた。今日は偶然近くの街に来ているアンと映画を観に行く予定だ。内容は少女漫画原作の実写化映画で、舞台はとあるポケモントレーナー養成校。両親の勧めでパートナーのニャルマーと共にそこに通う少女の元に、昔共に時間を過ごした少年がやってくる。彼との再会を経て、少女は成長していく。早く観たいなあと頭を揺らすリコをポケモンたちは不思議そうに見つめる。しばらくしてリコは着替えを終えた。すると扉からノック音がした。
「リコ、今いい?」
「いいよー」
声の主はロイだ。扉を開けた彼は目を見開いて立ち止まった。何も言わないので、リコはきょとんとして聞いた。
「どうしたの?」
「いや…なんでも。いつもと違う格好だけど…出かけるの?」
「うん。アンと映画を観に行くんだ。言ってなかったっけ?」
「あ、そういえば言ってたね。そっか…アンとか…ほっ」
ロイがそう言った直後、リコとロイは同時に首を傾げた。疑問を浮かべつつも、二人ともそれは口に出さず、ロイは当初の目的を思い出して言った。
「そうだ。マードックに『クッキー焼いたから呼んできてくれ』って言われたんだ」
「ありがとう。じゃあ持っていってアンと食べようかな」
リコとロイは早速キッチンに向かい、マードックからクッキーをもらった。ロイはその場でクッキーを食べ始め、リコはマードックに小袋を用意してもらってクッキーを入れてもらっている。
「そういえばリコ、アンとはどこで待ち合わせしてるの?」
「ここから電車で十五分くらいの街だよ」
「電車といえばさっきニュースで、コダックの群れが線路に立ち往生して電車が止まったって聞いたが…」
「え?」
マードックの言葉を聞いて、リコはすぐに予定の電車を調べる。スマホロトムの画面に示された電車の運行状況は運転見合わせ。再開予定は未定となっている。
「どうしよう…今から走っても待ち合わせに遅れちゃう…」
「リコ…」
不安そうな顔を浮かべたリコを、ロイはじっと見つめる。そして、なにか思いついた彼はアンに連絡しようと、メールを打とうとしているリコの手を握った。
「リコ、急いで支度して!絶対間に合わせるよ!!」
「え…?」
「ほらっ!」
「うん…!」
ロイは何をするのか説明しなかったが、リコは彼の顔を見て笑顔で頷いた。マードックからクッキーを受け取り、リコはカバンを取りに部屋に戻った。ロイは彼女に甲板に来るよう言って、どこかへ走って行った。部屋を出たリコは言われた通りに甲板に出た。すると、上からロイが飛び降りてきた。その頭上にはタイカイデンがいる。
「リコ!さあ行こう!!」
「もしかして…タイカイデンで?」
「ああ。さ、僕に掴まって。飛ばしてもらうから、しっかりね」
「う、うん」
タイカイデンの足を掴んだロイにリコがしがみつく。振り落とされないため、振り落とされないため、とリコが自分に言い聞かせていると、タイカイデンが飛び上がった。
「リコ、道案内お願い」
「うん…えっと、まずはそのまままっすぐ」
「オッケー。タイカイデン、まっすぐだ!」
タイカイデンは指示を受けて大きく羽ばたく。大空に吹く風はとても気持ちがいい。あの日のロイも、こんな風を浴びながら学校に来たんだろうか。リコは心臓の高鳴りを感じていた。リコが案内しながら飛んでいくと、あっという間に目的の街が見えてきた。もうすぐ着くというところで、ロイが口を開いた。
「ねえリコ、さっき部屋に入った時さ」
「うん?」
「リコの格好見て、すっごいかわいいなって思ったんだ」
「ふぇ!?」
「映画、楽しんできてね」
「え、あ、うん…」
リコが顔を真っ赤にしている間に、タイカイデンは地上への下降を始めた。その先にはちょうどアンがいる。待ち合わせ五分前、ちょうどいい時間だ。
「アン!」
「あ、リコ…!って…えぇ!?」
タイカイデンはゆっくり翼を羽ばたかせてリコとロイを着地させた。
「ロイ!?なんで!?」
「電車が止まったからロイに送ってもらったんだ」
「どう?間に合った?」
「うん…五分前…でも言ってくれれば全然待ったのに」
「あはは、リコにばっちり楽しんでほしかったからさ」
ロイがそう言って笑うと、リコはまたほんのり頬が赤くなった。アンはへぇ〜と二人の顔を交互に見た。
「にしても二人掴まってても飛べるタイカイデン力持ちだね〜お疲れ様」
「そうだね。ありがとうタイカイデン、ロイ」
「どういたしまして。じゃ、僕たちは少し休んで帰るから、リコ、帰りも必要だったら呼んでね」
「うん」
そうしてロイたちが去っていき、二人きりになったところでアンはリコに聞いた。
「で、どうだった?空のランデブーは」
「もう…そんなんじゃないから!」
「あはは、ごめんごめん。でもロイたち見て思ったんだけどさ」
リコが首を傾げると、アンは少しいたずらな顔になった。
「今日見る映画、リコとロイみたいだよね〜」
「えっ!?そ、そんなことないよ!」
「だってこの映画の男の子も空からって予告であったしさ〜」
「も、もう!とにかく早くチケット取りに行こ!」
「あ、逃げた。待ってよリコ〜」
早足で進むリコの脳裏に空でロイから受けた言葉がフラッシュバックする。今日の映画は集中して観れないかもしれない。そんなリコは耳まで真っ赤になっていた。
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