望月 鏡翠
2025-10-04 01:11:44
924文字
Public 日課
 

#1862 弱み

#毎日最低800文字のSSを書く


 龍が毎日天に昇っていくのは、狩りのためらしかった。水面に向かって真っ直ぐに落ちて、体を打ち付けているのだ。毎日一回、雷のような音が山の中に鳴り響く。
 そのあと下流にいると、気を失った魚が流れてくる。それらを獲って食べることができたら、もう少し腹も空かなかっただろうが、この距離で火を炊くわけにはいかなかった。
 しかし萬木は、ずっと疑問だった。
 いかに豊かな自然があるとして、あの大きさの生き物が毎日の食事とするには池の魚は小さすぎる。
 その疑問の答えが廃村にあった。地面が平らになっていること以外は、村であったことを偲ぶ余地はないその場所に、ちろちろと小さな光が歩き回っている。
 雛がいるのだ。
 龍が海面に体を打ちつけた衝撃で、魚が死んで浮いてくる。それを柴犬程度の大きさの龍が、池を泳いで気絶した魚を拾って食べていた。親はもっと大型の獣を食べている。しかし雛は、魚くらいの大きさのものがちょうどいいのだろう。
 あの龍はおそらく子育てのために、この地に出てきたのだろう。人の前に長年姿を表さなかった龍がこんなところに出てきたのは、子育てに適した場所を探していたからだろうか。
 きっと水辺の側は、彼らにとって居心地がいい場所だったのだろう。
 村の人間を皆殺しにする気性の荒さも、子育ての最中なのだと考えれば納得がいく。
 萬木にとっては都合がいいことだった。
 必ず取る行動が決まっていて、しかも弱みがある。
 妖怪を相手にするときと、獣を狩るときとで明確に違う点がある。彼らには知恵があり、情がある。だから同族を傷つける人と、明確に人と敵対しようという意思がある。
 しかし、知恵がある生き物の方が陥れやすいのだ。
 あの龍は、子供が助けを求めていたら一体どうするだろう。我が身を顧みず助けに来るのではないか。
 獣は現実的なところがあって、子を守りはしても自分の命を危険に晒すことは稀だ。命のサイクルがそうなっているのでない限り、身を呈してまで卵や子を助けたりしない。弱って体が小さくなればなればその雛には餌を与えなくなるし、巣が外敵に襲われれば諦めて次を作る。
 しかし情がある生き物は、子を見捨てることはできない。