望月 鏡翠
2025-10-03 19:33:54
912文字
Public 日課
 

#1861 接近

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 これ以上村に近づくと、一度谷間に降りるのでむしろ見えなくなってしまうだろう。観察するにも、やはり一度この場所に拠点を構えるのがいいのだろう。
 萬木は一昼夜その場所で観察したあと、人足のところへ引き返した。
 あの妖の男は、あれ以来姿が見えなかった。消えたのなら良いことだが、その姿は不気味に記憶の中にこびりついていた。
 人足の元まで戻ったとき、食料が底を突きかけたせいで、彼は不安に思っていたらしかった。冬でもなし、食べるものには困らぬ季節だというのに。
 待てと言った三日以上は待たせていないというのに、狩りができるというのに、余裕を持たせるということを知らぬらしい。彼が貧しい理由の片鱗を見たような気がした。
 萬木も考えて暮らす方ではないが、準備に時間がかかる仕事であるから、ある程度は先のことは考えて備えを残している。
 それを今咎めても仕方がない。
 今必要なのは、彼を必要なときに必要な場所に置くことができるように、逃げられぬように連れて歩くことだけだ。
 一旦山の中に踏み入ってしまえば、戻りの道がわからぬだろうから、ついてくるしかないだろう。
 龍という生き物がどれほど恐ろしくとも、直接的と相対するわけではないという他人事の距離が、恐怖を鈍らせる。
 狩人でなくとも、その骸がどれほどの金額になるのかは想像できるはずだ。あわよくば鱗の一枚でももらっていこうなどと考えているはずだ。
 萬木は人足の男を連れて山にわけ入り、龍のいた水辺が見える斜面に改めて拠点を構えた。
 遠目に観察していると、龍は一日に一度か二度、天に飛び上がって再び地上に向かって落ちていくようだった。水がある場所からは遠くは離れない。
 あの場所に何かがある。
 少しずつ時間をかけて、萬木と人足は村の場所に近づいて行った。龍が注意を払う場所。縄張りの位置。
 赤い丘のあった場所はどこなのか。
 今歩いている場所はかつての道の上ではないから、見つけられないだろう。一ヶ月の観察のあと、また一月かけて偵察のために近づいて離れたりを繰り返した。
 そうして萬木は、ようやく龍の姿を間近に見て、その場所にいる理由も突き止めた。